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シェイド

 トニーは市場で情報を集めた後、何か閃いたように急ぎ足でマルコスのオフィスへ向かった。


 彼は途中でデルダに声をかけ、彼を一緒に連れて行くことにした。デルダは驚きながらも、トニーの真剣な表情に押されて同行することにした。


 マルコスのオフィスに入ると、トニーはドアを閉めてデルダと共にマルコスの前に立った。マルコスは顔を上げ、二人を見つめた。


「トニー、何か新しい情報でも掴んだのか?」


 トニーは頷き、デルダを指しながら説明を始めた。


「マルコス、このデルダを宿場町のギルドに送り込むのはどうだ?彼の実力ならギルドにも馴染めるはずだし、内部の情報を掴むのに役立つだろう」


 デルダは驚いた表情でトニーを見つめた。「俺が宿場町のギルドに行くって?一体どういうことだ?」


 トニーは続けた。


「お前の実力は十分に認められている。宿場町のギルドの動きを探るんだ。内部からの情報を手に入れるためには、お前の力が必要だ」


 マルコスは慎重に話を始めた。


「デルダ、君に重要な任務をお願いしたい。宿場町の冒険者ギルドに潜入し、アリスという存在について探ってほしいんだ」


 デルダは眉をひそめながら、マルコスの話に耳を傾けた。


「アリスという人物か?それが何を意味しているのか教えてくれないか?」


 トニーが言葉を引き継いだ。


「アリスは宿場町のギルドで何か重要な役割を果たしているらしい。彼女の動向を探ることが、我々にとって非常に重要なんだ」


 マルコスは慎重に言葉を選びながら続けた。


「具体的な詳細はまだ分からないが、アリスという人物が宿場町のギルドで何をしているのか、それを知ることが我々の目的だ」


 デルダは一瞬考え込み、深呼吸をした。


「つまり、俺が宿場町のギルドに潜り込んで、そのアリスという人物の動きを探るということか。」


 トニーとマルコスの説得が続く中、デルダの表情にはまだ迷いが浮かんでいた。彼は疑念を抱きながら、言葉を絞り出した。


「正直に言えば、これは何か深い陰謀が関係しているように思える。そんな危険な任務に巻き込まれるのはごめんだ」


 デルダの言葉に、マルコスとトニーは一瞬顔を見合わせた。


 トニーが一歩前に出て、デルダに向かって低く呟いた。


「セリスとやらみたいに実力を上げたくないのか?」


 デルダはその言葉に一瞬反応を見せた。彼の眉がわずかに動き、トニーの意図を探るように目を細めた。


「セリスとやら……どういう意味だ?」


 トニーは冷静な声で続けた。


「あのセリス、見た目は普通の冒険者だが、実は相当な実力者だ。君がその実力を手に入れる機会を逃したくないだろう?」


 デルダは再び考え込んだ。


 彼の中で、冒険者としての向上心と危険に対する恐れがせめぎ合っていた。しかし、トニーの言葉は彼の心に刺さった。


 マルコスもその隙を逃さず、再びデルダに向かって言葉を続けた。


「デルダ、君の実力は確かだ。しかし、さらなる成長のためには挑戦が必要だ」


 デルダは深呼吸をし、最後に決意を固めた。


「分かった。俺が宿場町のギルドに潜り込んで、アリスの動向を探る。だが、危険を冒す以上、それなりの報酬を期待してもいいだろうな」


 トニーは笑みを浮かべて頷いた。


「もちろんだ。成功すれば、君の報酬は約束する」


 マルコスも同意し、デルダに感謝の意を示した。


「ありがとう、デルダ。君の協力に感謝する。私たちは君の帰りを待っている」


 デルダは最後の疑問を投げかけることにした。


「あんたらは一体、誰と戦っているんだ?」


 トニーとマルコスは一瞬目を見合わせ、マルコスが静かに答えた。


「今は教えられない。あくまで指名クエストということにしてくれ」


 デルダはその答えに納得がいかない様子で、さらに追及しようとしたが、トニーが口を挟んだ。


「詳細を知ることで君が危険にさらされることもある。だからこそ、今は知る必要がないんだ」


 デルダは眉をひそめたが、最終的には彼らの意図を理解したように頷いた。


「分かった。指名クエストということで受ける」


 マルコスは感謝の意を込めて頷いた。


「ありがとう、デルダ。君の協力に感謝する。必ず無事に戻ってきてくれ」


 デルダは頷き、トニーと共にオフィスを出た。彼は心の中で任務の重要性と危険性を再確認しながら、宿場町へ向けて準備を整え始めた。


 マルコスの根回しにより、デルダはついに宿場町へと向かうことになった。


 彼の離脱に伴い、騎士団内では一抹の不安が広がっていた。特に、残されたセリスとミスティの存在が一層不確かで怪しげに感じられたため、騎士団は完全に彼女たちを信用することができなかった。


「セリスとミスティには期待しているが、やはり二人だけでは心許ない」


 隊長の一人が重々しく言った。


「そうだな。デルダの代わりに、もう一人ベテランの冒険者を要請するのが賢明だろう」


 別の隊員が同意した。


 彼らはすぐにサンセット街のギルドに連絡を取り、信頼できるベテラン冒険者の派遣を要請した。


 その日の午後、サンセット街のギルドに一通の緊急依頼書が届いた。ギルドマスターは手紙を読みながら、すぐに冒険者のリストを確認し始めた。


「騎士団からの緊急依頼だ。デルダの代わりに、信頼できるベテラン冒険者を三日以内に派遣する必要がある」


 ギルドの職員たちは迅速に動き、候補となる冒険者に連絡を取った。


 その後、サンセット街のギルドから一人のベテラン冒険者が派遣された。


 彼の名前はシェイド。全身黒ずくめの装いにフードをかぶり、邪悪な気配が漂う魔剣を持っていた。


 彼の姿は一目で非合法な稼業を思わせるが、背に腹は変えられないと騎士団は深く詮索しないことにした。


 シェイドはあまり喋らず、静かに騎士団の前に立っていた。


「シェイドだ……」


 隊長は彼の到着に安堵し、深く頷いた。


「ようこそ、シェイド。我々の任務に加わってもらいたい。詳細はこれから説明する」


 シェイドは無言で頷き、隊長の指示に従って歩き始めた。彼の背中から漂う不気味なオーラに、他の騎士たちは一抹の不安を感じていた。


「面白そうじゃないか……」


 シェイドは低い声で呟いた。


 隊長はその言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに任務の説明を始めた。


「今回の任務は、最近頻発しているゴブリンの襲撃を調査し、鎮圧することだ。君の力を借りたい」


「もう金には興味がないんだ……」


 シェイドは静かに言い、魔剣を握りしめた。


「それでも構わない。君の力が必要なんだ」


 隊長は必死に説得した。


 シェイドは黙って頷き、任務に加わることを決意した。彼の存在が、騎士団に新たな力をもたらすことを期待しながら。


 サンセット街の外れにあるキャンプ場。夜の静寂の中、焚き火がぱちぱちと音を立てて燃えていた。


 その中でひときわ異彩を放つ二人がいた。


 セリスとシェイド。初対面の二人は、互いの剣に興味を示しながら、怪しげな会話を繰り広げていた。


 シェイドは黒ずくめの姿で静かに立ち、邪悪な気配を放つ魔剣を握りしめていた。その目は冷たく鋭く、セリスのアイスソードに視線を注いでいる。


「いい剣を持っているな……」


 シェイドが低い声で呟いた。


 セリスは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、微笑みながら答えた。


「い、いいえ、これは家宝ですわよ」


 シェイドは冷ややかな笑みを浮かべた。


「アーティファクトか……その剣、ただの家宝には見えないが」


 セリスは内心で冷や汗をかきながらも、あくまで平静を装った。


「ええ、先祖代々伝わるものでして、特別な力が宿っているわけではありませんの」


 シェイドは目を細め、さらに質問を続けた。


「家宝にしては、随分と実戦向きに見えるが……」


 セリスは苦笑しながら答えた。


「まあ、実戦で使えるように手入れは欠かしていませんの。それに、見た目が少し派手なだけですわ」


 シェイドはしばらくセリスを見つめた後、興味を示すように自分の剣をちらりと見せた。


「この剣もな……少しばかり特別なものなんだ。興味があれば、いつか見せてやろう」


 セリスは微笑みながらも、その言葉の裏に隠された意味を探ろうとした。


「それは興味深いですわね。でも、今は任務に集中しましょう。私たちの役目はゴブリンシャーマンを討つことですから」


 シェイドは軽く頷き、再び冷静な表情に戻った。


「そうだな……。任務が終わったら、また話そう」


 セリスとシェイドはそれぞれの剣に秘めた力を感じながら、互いに一歩引くようにしてその場を離れた。焚き火の光が彼らの背中を照らし、夜の静寂の中に溶け込んでいった。


 夜の森の中、モンスター警戒中の一行は静かに進んでいた。


 月明かりが木々の間から漏れ、影を作り出している。セリス、ミスティ、シェイドの三人は慎重に周囲を警戒しながら歩いていた。


 シェイドはミスティに目を向け、その沈黙を不思議に思い、興味を示した。


「面白そうな奴がいるじゃないか……」


 シェイドが低い声で呟いた。

 セリスは一瞬シェイドを見て、すぐにミスティの方に目をやった。


「その子はミスティ。理由は分かりませんが、喋りませんわよ」


 シェイドはさらに興味を引かれた様子で、ミスティの方に少し近づいた。


「理由も分からないのか……それは興味深いな」


 ミスティは無言でシェイドを一瞥し、そのまま警戒を続けた。彼女の無口な態度が逆に謎めいて、シェイドの好奇心をくすぐった。


「何か秘密でも抱えているのか……それとも、ただの無口か……」


 シェイドが独り言のように呟いた。

 セリスはシェイドの質問に軽く肩をすくめて答えた。


「ミスティは謎めいた存在ですの。でも、優れた能力を持っていますわ」


 シェイドは微笑み、再び前方を見つめた。


「なるほど……。それなら、少しばかり楽しみだな」


 彼らの背後でその様子を見守っていた騎士団員たちは、次第に寒気を感じ始めた。


 セリスの華奢な外見とは裏腹に、その存在感は異様に強く、シェイドの不気味な雰囲気と相まって、周囲の空気が重く感じられた。


「なんだか、背筋がゾクゾクするな…」


 一人の騎士団員が小声で呟いた。


「本当にこの三人と一緒にやっていけるのか?」


 別の騎士団員が不安げに問いかけた。彼らの間に不安と緊張が広がっていた。


夜の闇が深まる中、一行は静かに前進を続けていた。その時、遠くから不穏な音が聞こえてきた。重い足音と低い咆哮が次第に近づいてくる。


「何だ…この音は?」一人の騎士団員が不安げに呟いた。


 その瞬間、茂みから突然現れたのは、飛べない小型ドラゴン、ドレイクに騎乗したゾンビ兵の群れだった。彼らの目は赤く輝き、冷たい闇の中で不気味なオーラを放っていた。


「ゾ、ゾンビ兵!?ドラゴンに乗ってるぞ!」


 騎士団のリーダーが驚愕の声を上げた。


 想定外の敵に、騎士団員たちは動揺し、一瞬の間、動きを止めてしまった。その間にもゾンビ兵たちはじりじりと近づいてくる。


 セリスは剣を抜き、冷静な表情で周囲を見回した。


「皆さん、気をつけてください。これまでの敵とは異なる強敵ですわ。」


 シェイドはその言葉を聞くと、薄く笑みを浮かべて前に進み出た。


「面白そうじゃないか……。これぐらいの方がやりがいがある。」


 ミスティも一歩前に出て、手のひらに氷の玉を生み出した。無言のまま、彼女は敵の動きをじっと見つめていた。


 ゾンビ兵のリーダーが声を上げ、ドレイクが低く唸りながら前進を始めた。その姿を見た騎士団員たちは再び気を引き締め、戦闘態勢を整えた。


「全員、配置につけ!この脅威を排除するんだ!」


 騎士団のリーダーが命令を下すと、騎士団員たちは一斉に動き始めた。


 セリスとシェイド、そしてミスティの三人はそれぞれのポジションを取り、ゾンビ兵たちに立ち向かう準備を整えた。夜の静寂が一瞬にして破られ、戦闘の幕が開けた。


 ドレイクたちの攻撃が始まった。彼らは低くうなり声を上げ、騎士団員たちを見下ろしていた。


 突然、ドレイクの一体が恐ろしい雄叫びを上げた。


 その音は鼓膜を破るような鋭い響きで、近くにいた騎士団員たちは一瞬で硬直してしまった。彼らはその場で動けなくなり、その隙にゾンビ兵たちがボロボロの槍を持って突進してきた。


「ぐあっ!」


騎士団員の一人が貫かれ、血を流して倒れた。その光景を目にした他の団員たちも動揺し、恐怖に包まれた。


 ドレイクは再びうなり声を上げながら、その巨大な尻尾をムチのように振り回した。後ろに回り込もうとした騎士団員たちは、その鋭い一撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「くそっ、何なんだこいつらは!」


 一人の騎士団員が叫びながら剣を構え直したが、ドレイクとゾンビ兵の猛攻に圧倒されていた。ドレイクの恐ろしい力に対抗するためには、ただの騎士団員では到底太刀打ちできないと痛感させられた。


 セリスはドレイクに乗ったゾンビ兵たちの接近を見て、心の中で決断した。


「もう誤魔化せない…」


 ミスティも同様の考えを抱いていたようで、互いに軽く頷き合った。


「行くますわよ、ミスティ!」


 セリスが叫ぶと、ミスティは一瞬のうちに複数の氷と炎の玉を同時に生み出し、それを操りながら敵に向かって投げつけた。


 セリスは剣を振り上げ、素早い動きでゾンビ兵の群れに突進した。


「——シィッ!」


 剣の一振りでゾンビ兵を真っ二つにし、ドレイクの尻尾を切り裂いた。その動きはまるで風のように速く、ゾンビ兵たちは彼女の攻撃を避けることができなかった。


 ミスティは炎の玉を放ち、次々とゾンビ兵を焼き尽くしていった。

 氷の玉はドレイクの足元に氷の道を作り、動きを封じた。


 彼女のマジックジャグリングはまるで舞台のパフォーマンスのように美しく、しかしその破壊力は絶大だった。


 一方でシェイドは、一体のゾンビ兵を弄びながら、セリスとミスティの戦闘を冷静に観察していた。


「なるほど……こいつら、ただ者じゃないな」


 彼は薄く笑みを浮かべながら独り言を呟いた。


 騎士団員たちはこの圧倒的な戦闘力を目の当たりにし、混乱に陥った。


「何だ、あの二人は…」


「まさか、こんな力を持っていたなんて…」


 彼らは驚愕しながらも、必死に自分たちの役割を果たそうとした。


「全員、しっかりしろ!彼女たちのサポートに回るんだ!」


 騎士団のリーダーが必死に指示を飛ばす。


 セリスとミスティは連携を取りながら、次々とゾンビ兵とドレイクを倒していった。


 彼女たちの本気の戦闘は、騎士団員たちにとってまさに奇跡のような光景だった。


 ゾンビ兵との激闘を終えた一行は、ようやく街へ戻ることができた。


 騎士団員たちは負傷した者を支え合いながら、疲労困憊の顔をしていた。医療隊がすぐに駆けつけ、手際よく治療を始めた。


 セリスとミスティ、そしてシェイドは少し離れた場所で怪しげな雑談を始めていた。


「ふぅ、やっと終わりましたわね」


 セリスが軽く伸びをしながら言った。


「楽勝だったな……あんな程度の敵」


 シェイドが冷笑を浮かべながら答えた。


「ミスティ、あなたもなかなかやりますわね」


 セリスがミスティに微笑みかけると、ミスティは無言で頷いた。


「……やはり普通じゃないね。ここに来る前はどこにいた?」


 シェイドが二人の戦い方に言及し、冷たい目でセリスを見つめた。

 セリスは一瞬ためらったが、すぐににっこりと微笑んだ。


「まあ、色々な所を転々としていましたの。冒険者ですから、常に新しい経験を求めていますのよ」


「そうか……。でも、あの戦い方は尋常じゃなかった。特に、ミスティの動き……」


 シェイドがミスティに目を向けると、彼女は無言のまま軽く肩をすくめた。


「ミスティは特別な訓練を受けていますの。でも、理由は分かりませんが、彼女は喋りませんのよ」


 セリスが説明すると、シェイドは興味深そうにミスティを観察した。


「……理由も分からないのか。それはますます興味深いな」


「まあ、そういうことですわね。私たちもこの先どうなるか分かりませんけれど、面白い展開を期待していますわ」


 セリスの言葉に、ミスティも少し笑みを浮かべた。


「さあ、もう少し休んでから次の任務に備えましょう。何が待ち受けているか分かりませんからね」


 セリスの言葉に、三人はその場を離れ、次の行動に備えた。


 彼らの雑談は騎士団員たちには聞こえないが、その怪しげなやり取りが何を意味するのか、誰も知ることはなかった。

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