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アリスの存在

 セリスとミスティは、再び王国の任務に就くために夜の森を進んでいた。


 セリスは先日の戦闘で自分だけが目立ったことを反省していたが、ミスティの無言の視線がその重さを増幅させていた。


「ええと、ミスティ。あれは仕方なかったんですのよ。状況が状況だったから……」


 ミスティは返事をせず、ただじっとセリスを見つめた。

 その視線には、「一族の霊ってなんだよ」という無言の訴えが込められていた。


「わ、わかったわ。次はもっと慎重にしますわ。でも、今夜は大丈夫でしょう?」


 セリスが言葉を続けると、ミスティはわずかに頷き、手元のナイフを静かに取り出した。彼女たちは再びゴブリンの巣窟に近づいていた。


 しかし、その時、ゴブリンシャーマンを率いる小部隊が突然現れた。ゴブリンたちは叫び声を上げながら一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「ここでまた騒ぎになるのはまずいわね……」


 セリスが思案していると、ミスティが一歩前に出た。


 彼女は無言のまま、手元のナイフを巧みに操り始めた。ナイフが空中で回転しながら、次々とゴブリンに向かって飛び出した。その動きはまるで魔法のようであり、ナイフがゴブリンの喉元や胸を正確に貫いていく。


「ひえぇ〜、こっちもやられたくないですわ〜!」


 セリスはわざとらしく叫びながら、剣を振り回していたが、その目はミスティの動きを見守っていた。


 ミスティのマジックジャグリングは、まさに圧巻だった。


 彼女は次々とナイフを投げつけ、ゴブリンシャーマンたちを一掃していった。シャーマンたちは防御の魔法を唱える間もなく、ミスティの攻撃に倒れていった。


 ミスティは無言のまま、一歩前に出て手元のナイフを巧みに操り始めた。


 しかし、彼女の本領発揮はここからだった。

 手元にナイフを戻すと、彼女は手のひらに魔法の力を集中させ、火の玉、氷の玉、煙の玉を次々と生成した。


 ミスティは無言で火の玉をゴブリンの群れに投げつけた。


 燃え盛る火の玉は、一瞬でゴブリンの数体を焼き尽くし、

 その後、氷の玉が続けて投げ込まれた。氷の玉が当たったゴブリンは瞬く間に凍りつき、その場に倒れ込んだ。


「ひえぇ〜!」


 セリスはわざとらしく叫びながら、剣を振り回していたが、その目はミスティの動きを見守っていた。


 ミスティは続けて煙の玉を投げ、敵の視界を奪った。


 ゴブリンたちは混乱し、周囲を見回すが、次の瞬間には再びミスティの攻撃が炸裂した。火と氷の玉が次々と飛び交い、ゴブリンシャーマンたちは防御の魔法を唱える間もなく倒れていった。


 セリスは思わず足を止め、ミスティの華麗な技に見とれてしまった。


「しかし凄いですわ……」


 セリスがつぶやくと、ミスティは手元のナイフを静かにしまい、無言のままセリスを見つめた。その目は「じゃ、説明よろしく」と言いたげだった。


 夜の森での任務が終わり、一行が帰還した後、騎士団のメンバーたちは騒ぎ立っていた。


 特にミスティのマジックジャグリングの技に驚いた騎士団員たちは、彼女の実力について質問攻めにしていた。


「おい、セリスさん、あのミスティって子、何者なんだ?あんな技、見たことないぞ!」


「そうだ、どうやってあの火や氷の玉を操ってるんだ?普通の冒険者とは思えない!」


 セリスは一瞬焦りながらも、すぐに笑顔を取り戻し、無理やり嘘をついて誤魔化すことにした。


「えっと……ミスティは、実はサーカス団にいたんですの。彼女の技は伝説のお手玉の技でして、歴代のパフォーマーの魂が宿ってるのですわ!」


 騎士団員たちは一瞬戸惑いながらも、驚いた表情でお互いに顔を見合わせた。


「サーカス団だって?そんな話、聞いたことがないぞ……でも、あの技を見る限り、確かに普通じゃないな……」


「うーん、伝説のお手玉か……」


 セリスは心の中でホッとしながらも、微笑みを浮かべ続けた。


 彼女の嘘はなんとか騎士団員たちを納得させることができたようだった。ミスティは無言のまま、ジト目でセリスを見続けていた。


「とにかく、これで一件落着ですわ。ミスティは特別な技を持っているけど、それも全部サーカス団で培ったものですのよ」


 セリスはそう言って、騎士団員たちの関心を逸らすことに成功した。


 しかし、内心では次の任務でまた嘘をつかなければならないかもしれないという不安を感じながら、ミスティと共にその場を後にした。


 セリスとミスティが任務を終え、街に戻った後、騎士団のメンバーとデルダは別の場所で集まって話し合っていた。彼らの表情には不信感があり、先ほどの出来事について疑念を抱いていた。


「ねえ、あの話、本当に信じていいのか?」


 一人の騎士団員が口火を切った。


「一族の霊が剣に乗り移るとか、サーカス団の伝説のお手玉とか、あまりにも都合が良すぎるよな」


 別の団員が付け加えた。


 デルダは腕を組み、深く考え込んでいた。彼はセリスとミスティの戦闘能力に疑念を抱いていたが、それをどう説明するかを悩んでいた。


「確かに、そんなに簡単に一族の霊が乗り移るなんてあり得ない。それに、あのミスティの技もただのお手玉じゃない。あれは確実に高度な魔法だ」


 デルダは冷静に分析した。


「でも、彼女たちの説明は一応筋が通っているように見える。何か裏があるんじゃないか?」


 他の騎士団員が問いかけた。


「そうだな。だが、彼女たちの実力が本物なら、それを隠す理由があるはずだ」


「一体何を隠しているんだろうな」


「それが分かれば苦労しないさ。だが、あの二人は普通の冒険者じゃないことは確かだ」


 デルダは厳しい口調で答えた。


「確かに、我々がこれまでに見たどの冒険者とも違う。だが、今は彼女たちの協力を得て任務を遂行することが大事だ。もし怪しい動きがあればすぐに報告するようにしよう」


 騎士団のメンバーは頷き、引き続きセリスとミスティの動向に注意を払うことを誓った。しかし、彼らの心には疑念が残り続けた。


 ——後日。


 トニーはデルダからセリスとミスティの話を聞くと、その内容にますます疑念を深め、すぐにマルコスのもとへ向かった。彼の表情には焦りと苛立ちが浮かんでいた。


 マルコスの執務室に入ると、トニーは乱暴に扉を閉め、デスクに身を乗り出した。


「マルコス、やっぱりあの二人、どう考えてもおかしいぞ!」


 マルコスは冷静に顔を上げ、トニーを見つめた。


「何があったんだ、トニー?落ち着いて話せ」


「デルダが言ってたんだが、セリスってやつ、一族の霊が乗り移ったとか言って、信じられないほどの力を見せたらしい。それに、あのミスティって子、サーカス団の伝説のお手玉だなんて話、誰が信じるんだよ?火や氷の玉を操ってるんだぜ!」


 マルコスは眉をひそめ、深く息をついた。


「それが事実だとすれば、確かに不自然だな。普通の冒険者なら、武功を誇るはずなのに、手を抜く理由が分からない」


「そうだろう?俺の見た限り、あのセリスは宿場町でもすごい戦いをしてた。あいつらが普通の冒険者とは思えない。何か隠してるんだ」


「一族の霊が乗り移る武器なんてよっぽどだぞ。実際にそんなことがあるなら、もっと大きな話題になるはずだ」


「だろ?俺もそう思う。宿場町であの二人が何してたのか、もっと詳しく調べる必要がある」


 マルコスはしばらく考え込み、トニーの意見に同意するように頷いた。


「確かに、セリスとミスティの動向を追跡する必要がある。もしエリシアが関わっているとすれば、彼女たちの動きは重要な手がかりになるかもしれない」


 マルコスは執務室の窓から外を見つめ、セリスとミスティの正体をどうやって探り出すか、思案にふけっていた。トニーの報告を受けてから、彼の頭の中は疑念でいっぱいだった。しかし、直接行動を起こすのは危険が伴う。


「直接、宿場町のギルドに質問状を送るのは愚策だろう……」


 マルコスは自分にそう言い聞かせた。もしエリシアが宿場町を掌握しているのなら、こちらの意図にすぐに勘付かれてしまうだろう。それは避けなければならない。


「もっと巧妙な方法が必要だ……」


 マルコスは深く息を吸い、デスクに座り直した。彼の視線は書類の山に向けられていたが、頭の中では別の策が巡っていた。


「間接的に情報を集めるしかないな……」


 彼はギルドのメンバーの中に潜り込ませるスパイを考えた。しかし、それもリスクが高い。


「何か、もっと安全で確実な方法は……」


 マルコスはふと、宿場町の他の商人や旅人から情報を集めることを思いついた。彼らはギルドに直接関わっていないが、ギルドの動向について何か知っているかもしれない。


 マルコスは執務室で考え込んだ後、すぐに決断を下した。彼はトニーを呼び寄せ、信頼できる彼に指示を出すことにした。


 トニーが部屋に入ってくると、マルコスはすぐに話し始めた。


「トニー、君に重要な任務を頼みたい」


 トニーは真剣な表情で頷き、マルコスの言葉を待った。


「セリスとミスティの素性を調べるために、直接宿場町のギルドに問い合わせるのは避けたい。そこで、サンセット街にいる行商人の中から最近の宿場町の事情に詳しい者を探して、情報を引き出してほしい」


 トニーはすぐに理解し、力強く頷いた。


「了解だ、マルコス。行商人から情報を集めてくる」


「そうだ、彼らは宿場町とサンセット街を頻繁に行き来している。彼らからの情報は貴重だろう。慎重に行動し、こちらの意図が漏れないようにしてくれ」


マルコスはトニーに信頼を込めて言った。


「任せとけ、うまくやってみせる」


トニーは短く答え、部屋を後にした。彼の心には、新たな任務への決意が燃えていた。


 マルコスの指示を受けたトニーは、市場の賑わいの中で次の手を考えた。彼は冒険者を装って行商人に近づき、情報を引き出すことに決めた。


 市場の片隅で荷物を降ろしている行商人を見つけたトニーは、肩をすくめて近づいた。


「よぉ、おっちゃん。ちょっと話を聞かせてくれないか?」


 行商人は一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻してトニーを見上げた。


「なんだ、若いの。何か用か?」


「俺は最近、この辺りをうろついている冒険者なんだが、噂で宿場町の冒険者ギルドがすごいって聞いてな。ちょっと興味が湧いて、いろいろ知りたいと思ってさ」


 トニーはニヤリと笑いながら言った。行商人は興味を示し、少し話し始めた。


「宿場町のギルドか。最近までそこにいたが、賑わってるな。聞いた話じゃあギルド長の右腕が切れ者らしいんだ」


「そいつはどんなやつなんだ?」


トニーは興味津々のふりをしながら尋ねた。行商人は少し考え込み、話を続けた。


「アリスっていう女だ、非常に有能なリーダーらしい。宿場町の復興を進めながら、冒険者たちをしっかりとまとめている。彼女の手腕は見事なもんだよ」


「へぇ、それはすごいな。アリスって奴、どんな見た目なんだ?」


「金髪で美しい女だよ。彼女がギルドを引っ張ってるって聞いた時は驚いたけど、彼女のカリスマ性は本物だってみんな言ってるよ。」


 トニーは心の中で警戒を強めながらも、表情には興味深げな色を浮かべ続けた。


「そうか、ところで……。セリスとミスティって名前の冒険者は知ってるか?」


行商人は一瞬考え込み、やがて頷いた。


「セリスとミスティか…。ああ、確かにその二人については聞いたことがある。ミスティはよくアリスの横で何かしているのを見かけたな。」


「アリスの横で?何をしていたんだ?」


「うーん……バーベキューで肉焼いたり……、酒場でショーとかやったり、物運んだり雑用とか色々だな。セリスは確か……、土木工事の現場でウロウロしてたような」


 トニーは興味深げに頷いた。


「ありがとう、おっちゃん。その情報、役に立つよ。」


 トニーは礼を言い、行商人から離れた。そして、手に入れた情報をすぐにマルコスに報告するため、足早に市場を後にした。


 トニーとマルコスはデスクを挟んで向き合い、手に入れた情報を整理し始めた。トニーは一息ついて、最近得た情報をマルコスに伝える。


「宿場町のギルドを仕切ってるのはアリスって女らしい」


 マルコスは深く頷き、書類をめくりながら考え込んだ。


「どんなやつだ?」


「相当な手腕を持ってるらしいぜ。ギルドの冒険者たちをまとめ上げてるし、町全体の復興にも関与してるみてえだ」


「なるほど。アリスがギルドを掌握しているなら、エリシアがどこかで動いている可能性がある。エリシアが直接表に出てこないのは何か理由があるのかもしれない。」


 マルコスは机に肘をつき、深い溜息をついた。


「トニー、エリシアがアリスという仲間を使って我々の監視から逃れようとしている可能性もある。エリシアが直接指示を出さず、アリスを通じて動いているとしたら……どうかな?」


 トニーは深く頷き、さらに思案を重ねた。


「確かにそうだな。もしエリシアが裏で糸を引いているとしたら、アリスはその手駒に過ぎないのかもしれない。だが、それが事実だとすると、アリスの動きを追うことでエリシアの計画を暴く手がかりになるかもしれない」


 マルコスは再び書類を見つめ、慎重に言葉を選んだ。


「まずはアリスという人物の正体を突き止めることが急務だ。彼女が何者で、どんな目的を持って動いているのかを探る必要がある」


 トニーはマルコスの言葉に同意し、再び市場に向かう準備を整えた。


「了解だ、マルコス。アリスについてさらに調べてみる。彼女の動きを追って、エリシアの計画を暴いてやる。」


 トニーは深く頷き、部屋を後にした。

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