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疑念

 昼間のギルドの酒場は、いつものように冒険者たちの賑やかな声で満ちていた。


 デルダは一角のテーブルに座り、トニーが来るのを待っていた。トニーが現れると、デルダは手を挙げて合図を送り、彼を呼び寄せた。


「トニー、ここだ」


 トニーが席に着くと、デルダは重々しい表情で話し始めた。


「昨日の任務のことだが、セリスについて少し話さなければならない」


 トニーは興味深そうに身を乗り出し、デルダの話に耳を傾けた。


「何があったんだ?セリスが何かやらかしたのか?」


 デルダは一息ついてから、昨日の戦闘について詳細に説明し始めた。


「昨日の夜、俺たちはゴブリンシャーマンの集団に囲まれた。完全に罠だった。騎士団員たちは次々と倒れていき、完全に追い詰められた。そんな中、セリスが突然アイスソードを振るい始めたんだ」


 デルダの話を聞いて、トニーは目を細めた。


「アイスソードか…それでどうなった?」


「彼女は風のような速さで動き出し、次々とゴブリンシャーマンたちを倒していった。剣が触れる度に敵は凍りつき、彼女の攻撃は圧倒的だった。まるで別人のようだったんだ」


 デルダの説明に、トニーは驚きを隠せなかった。


「そんなことが…あのセリスが?」


「そうだ。そして戦闘が終わった後、彼女に『一体何者なんだ』と尋ねた。彼女は、剣に封じ込められた一族の霊が一時的に乗り移っただけだと説明していた。しかし、それだけであの戦いぶりを説明するのは難しい」


 トニーはしばらく考え込んだ後、デルダに目を向けた。


「つまり、セリスが何か隠しているということか?」


 デルダは頷き、さらに続けた。


「そう思う。彼女の説明では納得できない。何か重大な秘密があるに違いない。彼女の持っている剣もただの武器ではない」


 トニーは深く息をつき、デルダの話に耳を傾けながら自分の考えをまとめた。


「分かった。ありがとう、デルダ。お前の報告は重要だ。引き続きセリスを見張り、何か不審な動きがあればすぐに知らせてくれ」


 デルダは頷き、トニーの言葉に応えた。


「了解だ。彼女の動向に注意を払う」


 トニーはニヤリと笑い、ポケットから金貨を取り出し、デルダに手渡した。


「これが報酬だ。お前が報告するたびに、さらに情報料をやるからな」


 デルダは驚いたが、金貨を受け取り、真剣な表情でトニーに感謝した。


「ありがとう、トニー。期待に応えるよ」


 デルダとトニーは互いに視線を交わし、その後それぞれの役割に戻った。


 デルダはセリスの秘密を暴くために、さらに慎重な監視を続けることを決意した。トニーもまた、エリシアの影を追う手がかりとしてセリスに注目し続けることにした。


 夜が更け、マルコスの執務室には重厚な静けさが漂っていた。


 トニーは扉をノックし、返事を待たずに部屋に入った。マルコスは書類に目を通していたが、トニーの気配に気づいて顔を上げた。


「トニーか。どうした?」


 トニーは深く息をつき、デスクの前に立った。


「マルコス、セリスについての報告がある」


 マルコスはペンを置き、真剣な表情でトニーを見つめた。


「セリスがどうした?」


 トニーは一瞬言葉を選びながらも、迅速に話し始めた。


「昨日の夜、セリスがゴブリンシャーマンの集団と戦った。その戦いぶりを見たデルダが、彼女について不審な点が多いと報告してきたんだ」


 マルコスは眉をひそめ、興味を持った様子で続きを促した。


「どんな不審な点だ?」


 トニーは深く息をつき、デルダから聞いた話を詳細に説明し始めた。


「彼女はアイスソードを使って圧倒的な力でゴブリンシャーマンたちを倒した。その戦いぶりは、まるで別人のようだった。そして戦闘が終わった後、デルダが『お前、一体何者なんだ?』と尋ねた時、セリスは『剣に封じ込められた一族の霊が一時的に乗り移っただけ』だと答えたそうだ」


 マルコスは考え込むように顎に手を当てた。


「一族の霊が乗り移った…?それは本当か?」


 トニーは首を振った。


「いや、おそらく嘘だろう。俺は彼女が宿場町で戦う姿を目に焼き付けている。あの時も、圧倒的な力を見せていた。一族の霊が乗り移ったなんて説明では到底納得できない」


 マルコスはさらに深く考え込んだ。


「確かに、普通の冒険者なら武功を挙げて名を上げたいはずだ。手を抜いているとすれば、不自然だな」


 トニーは頷き、さらに続けた。


「そうだ。普通の冒険者ならば、自分の実力を示すために全力で戦うだろう。しかし、セリスはあえて手を抜いている。それが一層不信を招いている」


 マルコスはデスクの上の書類に目を落としながら、深く息をついた。


「なるほど。セリスがただの冒険者ではないことは明らかだ。だが、彼女の真の目的が何なのか、エリシアとどう関わっているのかがまだ見えてこない」


 トニーは真剣な表情でマルコスを見つめた。


「彼女の動向を引き続き監視し、さらに情報を集める必要がある。彼女が何者で、何を企んでいるのかを突き止めなければならない」


 マルコスは頷き、トニーに向けて指示を出した。


「分かった。引き続きセリスを見張り、何か不審な動きがあればすぐに報告してくれ。そして、デルダにも協力を仰ぐんだ」


 トニーは力強く頷き、マルコスの指示を胸に刻んだ。


「了解だ。俺たちで必ずセリスの正体を暴いてみせる」


 マルコスはトニーに満足げな表情を見せ、再び書類に目を戻した。


 マルコスはトニーが部屋を出た後、深いため息をつき、デスクに肘をついて額に手を当てた。部屋の静寂の中で、彼の思考はさらに深まっていった。


「もしセリスがエリシアの手先だとしたら…」


 彼はその考えを巡らせながら、セリスがここに来た目的を探ろうとした。


 しかし、何度考えても明確な答えは浮かんでこない。エリシアがかつてのように王国に対して何らかの策謀を巡らせている可能性はあるが、その具体的な手段や目的がわからないのだ。


「セリスが本当にエリシアの手先なら、なぜ彼女を送り込んだのか?」


 マルコスはさらに考えを巡らせた。


 宿場町のギルドからたった二人の冒険者しか派遣されていないことも不審だった。通常なら、もっと多くの冒険者を派遣するはずだが、彼らは二人しか送ってこなかった。


「宿場町のギルドがこんな状況下で、なぜ二人しか派遣しなかったのか?」


 マルコスはその点が特に引っかかっていた。宿場町のギルドは優秀な冒険者が多く所属していると聞いていたのに、その中からわずか二人だけを派遣するというのは不自然だった。


「何か大きな陰謀があるに違いない」


 彼はそう結論づけ、さらなる情報収集と監視を続ける必要があると感じた。セリスの動向をしっかりと見極めることが、エリシアの計略を阻止するための鍵となるだろう。


「だが、どうやってその真実を暴くか…」


 マルコスは再び考え込んだ。


 マルコスは深く考え込むうちに、ふと恐ろしい考えが頭をよぎった。


 もしエリシアが宿場町の冒険者ギルドを完全に掌握しているとすれば、それはすでに一定の武力を保有していることを意味する。


 ギルドの冒険者たちが彼女の指示に従うのであれば、エリシアはいつでもその力を行使できるのだ。


「もしそうだとすれば…」


 マルコスの背筋に冷たいものが走った。


 エリシアはかつて、巧妙な策略とカリスマ性で多くの支持者を集めていた。彼女が再び力を取り戻しつつあるとしたら、王国全体にとって大きな脅威となる。


「宿場町のギルドを掌握することで、彼女は既に武力を持っている。これは非常に危険だ…」


 彼は頭の中でエリシアの可能性について様々なシナリオを思い描いた。

 もしエリシアがその武力を用いて王国を揺るがす計画を進めているとすれば、今のうちに手を打たなければ手遅れになる可能性が高い。


「セリスが送り込まれたのも、その計画の一環かもしれない」


 マルコスは自分の考えを整理し、ますます不安を感じた。エリシアが宿場町のギルドを掌握し、武力を保持していることを考えると、セリスの動向は一層重要になってくる。


「トニーとデルダに任せるだけでは足りないかもしれない」


 彼は一瞬考え込み、自らも行動を起こす決意を固めた。エリシアの計略を見破るためには、もっと積極的な情報収集が必要だ。そして、必要であれば王国全体の防衛体制を強化することも視野に入れなければならない。


 ——一方その頃。


 宿屋の一室で、セリスはベッドに腰掛けながら考え込んでいた。


 彼女の心にはある種の優越感が漂っていた。


「ゴブリンシャーマン程度に手こずるなんて…」


 セリスは昨夜の戦闘を思い返し、口元に微笑を浮かべた。


 騎士団の奮闘ぶりは見たものの、彼らの戦闘能力には限界があることを痛感した。ゴブリンシャーマン相手にこれほど苦戦するとは予想外だった。


「もし、これがサラマンダーやゾンビリザードだったらどうなるのでしょうね?」


 彼女の心には、宿場町の冒険者たちがどれほど強力かという優越感が広がった。


 サラマンダーやゾンビリザードはゴブリンシャーマンと同じくらい強力な敵だ。宿場町の冒険者たちなら、こんな相手にも力を合わせて対処できるだろう。


「壊滅してしまうんじゃないか…」


 セリスは心の中でそう呟きながら、軽い笑みを浮かべた。


 彼女自身はそのような強敵にも対処できる自信があるが、騎士団や他の冒険者たちが同じように戦えるかは別問題だった。

 彼女がアイスソードを振るってゴブリンシャーマンを一掃したが、それがなければどうなっていたかはわからない。


「この情報を持ち帰れば、エリシアに新たなビジネスのネタを提供できるかもしれないですわね」


 セリスの表情が一層明るくなった。


 エリシアは常に新たなビジネスチャンスを探している。


 もし、王国の防衛力がこれほど脆弱であることが分かれば、そこに新たなビジネスの可能性が見出せるかもしれない。


「そうすれば、エリシアも喜ぶでしょう」


 セリスはミスティに視線を向け、彼女の無言の賛同を感じながらも、心の中で決意を新たにした。彼女たちはただ任務をこなすだけではなく、エリシアの計画を進めるために新たな情報を持ち帰ることも重要だった。


「もっと慎重に行動しなければならない」


 セリスはそう自分に言い聞かせ、今後の対策を練り始めた。


 騎士団や他の冒険者たちとどのように協力し、危険を回避しつつ、エリシアに有益な情報を提供するかを考える必要がある。彼女はミスティと共に、宿屋の静かな夜の中で次の行動を計画していた。

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