ジョーカーを探せ
トニーは、宿場町から命からがら戻った後、しばらくの間休養をとっていた。
しかし、心の中にはエリシアへの復讐心が燃え続けていた。彼は街の喧騒の中を歩きながら、エリシアに関する手がかりを探していた。
その時、目の前を歩く一人の女性に目が留まった。
金髪に高飛車な雰囲気——あのエリシアにそっくりだ。トニーの心臓が一瞬止まる。
「……あいつだ!」
トニーは目を見開き、慌ててその女性を追いかけようとした。しかし、人混みの中ですぐに見失ってしまった。焦燥感がトニーを駆り立てた。
「まずはマルコスに報告しなければ……!」
トニーは慌てて足を速め、マルコスのオフィスへと向かった。息を切らしながらドアを叩くと、中からマルコスの声が聞こえてきた。
「どうした、トニー?そんなに慌てて」
ドアが開き、マルコスが不機嫌そうな顔で現れた。トニーは息を整え、急いで話し始めた。
「マルコス!エリシアのそっくりがいる!宿場町にいた奴だ!」
マルコスの表情が一瞬で引き締まった。彼はトニーの話に耳を傾けながら、考えを巡らせた。
「そういえばお前、前にも似たようなこと言ってたな」
トニーは必死に頷いた。
「ああ、間違いねえ。あの姿と雰囲気は忘れられねえ。彼女がこの街にいるってことは、何かを企んでいるに違いねえ!」
マルコスは一瞬考え込んだ後、デスクの上にある冒険者派遣リストに目をやった。
「待て……確か、お前が前に報告したあの冒険者、エリシアに似ていると言ってたな?」
マルコスはリストを再度チェックして、セリスの名前を確認した。トニーは少し驚いた表情で頷いた。
マルコスは再びデスクの上の書類に目を落としながら、トニーに続きを促した。
「それで、トニー。そのセリスという冒険者が宿場町で何をしていたんだ?」
トニーは荒々しく息を吐き、少し興奮気味に話し始めた。
「ヤツは宿場町で鬼神の如き強さでモンスターを薙ぎ払っていたんだ。次々と死に損ないどもを倒していた。俺が見たのは間違いねえ」
マルコスは眉をひそめ、さらにトニーの話に集中した。
「鬼神の如き強さ、か。それが本当なら、彼女が単なる冒険者ではない可能性もあるな」
トニーは激しく頷いた。
「ああ、あの戦いぶりは並の冒険者じゃねえ。セリスがただの冒険者でないことは確かだ。もしかしたら、エリシアが彼女を送り込んできたのかもしれない」
マルコスは一瞬考え込んだ後、深く息を吐いた。
「なるほど。もしそうなら、彼女がこのサンセットに来た理由を突き止めなければならないな。引き続き彼女を監視し、動向を報告しろ」
マルコスはしばらく考え込んだ後、トニーに視線を向けた。
「お前、そいつに顔を見られたか?」
トニーは少し思い出すように眉をひそめた。
「ええ、あの防衛戦の時にちょっとだけ目が合ったんだ。でも、俺のことを覚えてるかどうかは分からねえ」
マルコスは一瞬眉をひそめた後、指をトントンとデスクに叩きつけた。
「もし彼女がエリシアの手の者なら、お前の顔を見て何か感じたかもしれん。だが、お前がいると分かっていても宿場町を離れた。つまり、警戒していないか、こちらの動きを探ろうとしている可能性がある」
トニーは少し不安そうにマルコスを見つめた。
「それじゃあ、俺が今後も彼女の動きを監視することは危険ってことか?」
マルコスはゆっくりと首を振った。
「いや、むしろ逆だ。彼女がこちらに何を企んでいるかを見極めるためには、お前の監視が不可欠だ。ただし、極力目立たないように動け。彼女に気付かれたら、こちらの作戦が台無しになる」
トニーは決意を込めて頷いた。
「分かった。俺は目立たないようにして彼女を監視する。エリシアの手がかりを必ず掴んでみせる」
マルコスは満足げに頷き、トニーに次の指示を出した。
「いいだろう。それから、彼女の行動だけでなく、誰と接触するかも見逃すな。エリシアが関わっているなら、何らかの手がかりがあるはずだ」
トニーが部屋を出た後、マルコスはデスクに肘をつき、手で額を押さえた。しばらく静かに考え込んでから、ゆっくりと椅子に深く座り直した。
もしエリシアが本当に宿場町に潜んでいて、力をつけているとしたら…。
彼女がかつてのように王国の有権者を懐柔し、再び権力の座に戻る可能性もある。セリスという冒険者を使って、何か策略を巡らせているのだろうか。
マルコスは深い溜息をつき、目を閉じた。
エリシアの復活は決して歓迎すべき事態ではない。
彼女が戻れば、王国の政治は再び混乱するに違いない。
しかし、セリスが本当にエリシアの手の者であるかどうかも確証がない。ただの偶然かもしれない。だが、エリシアの計略を考えると、全てを偶然と片付けるのは危険すぎる。
マルコスは思案を続けた。
もしエリシアが宿場町で力をつけているなら、彼女はどのような手段を使って再び王国に影響を与えようとしているのか。セリスを使って、王国の有権者を懐柔するつもりなのか。いや、考えすぎかもしれない。
それでも、エリシアの存在は常に脅威であり続ける。彼女が再び力を持つことを防ぐためには、セリスの動向を見逃すわけにはいかない。
マルコスは再び目を開け、デスクの上の書類に目を落とした。
「これからどうするか…」
彼は自分に問いかけた。確固たる手がかりを掴むまで、冷静に対処し続けるしかない。エリシアの陰謀を阻止するために。
トニーは冒険者ギルドの建物に足を踏み入れた。
内部は活気に満ちており、冒険者たちが次々と依頼を受け、または談笑していた。彼はギルドマスターのオフィスに向かい、ノックをしてから入室した。
「失礼します、ギルドマスター」とトニーは挨拶をした。
ギルドマスターはデスクの向こう側に座り、トニーを見上げた。
「どうぞ、お入りください。何か御用ですか?」
トニーは部屋に入り、ドアを閉めた。
「実は、特命を受けている者です。王国からの依頼で、ならずものや犯罪者が紛れ込んでいないか密かに調べているんです」
ギルドマスターは少し驚いた様子で頷いた。
「なるほど。それで、何か具体的な情報をお求めですか?」
トニーはうなずいた。
「はい。最近、こちらに来た冒険者の一人について調べています。名前はセリス。彼女について何か情報をお持ちですか?」
ギルドマスターは考え込むように顎に手を当てた。
「セリス…そういえば、最近来たばかりの冒険者ですね。もう一人、ミスティという仲間と一緒に行動しています。二人とも、戦闘能力はあまり高くないようですが…」
「彼女たちの行動には何か気になる点はありますか?」
トニーは慎重に尋ねた。
「特に目立った問題行動はありません。しかし、セリスの持っている剣がただならぬ雰囲気を持っていました。家宝だと説明していましたが、あの剣がただの装飾品とは思えません」
トニーは内心で納得しながらもう一歩踏み込んだ。
「彼女たちがどのような依頼を受けているか、またはどのような活動をしているか、詳細を教えていただけますか?」
ギルドマスターはデスクの上の書類を整理しながら答えた。
「基本的には一般的な依頼を受けているだけです。特に目立った行動や問題行動は報告されていませんが」
トニーは感謝の意を込めて頷いた。
「ありがとうございます。もう少し情報を集める必要があるようです。引き続き、彼女たちの動向に注意を払っていただけると助かります」
ギルドマスターも頷き返した。
「もちろんです。何か問題があれば、すぐにお知らせします」
トニーはギルドマスターに礼を言い、オフィスを後にした。彼の心には、ますますセリスに対する疑念が深まっていた。
ギルドマスターからセリスの配属先を聞いたトニーはギルドの廊下でデルダを見かけ、さりげなく近づいた。
デルダは腕を組んで立ち、何か考え事をしているようだった。
「デルダさん、ちょっと話がある」
トニーは慎重に声をかけた。
デルダは顔を上げ、冷たい視線をトニーに向けた。
「何だ?忙しいのだが」
「セリスって冒険者についてだ」
トニーは声を潜めて言った。
デルダは一瞬眉をひそめ、トニーをじっと見つめた。
「怪しい?どういう意味だ?」
トニーは周囲を見回し、誰にも聞かれないように注意を払いながら続けた。
「俺は王国から特命を受けて、不審人物を洗い出す任務をしてるんだ。彼女が何者なのか、どこから来たのかがよくわからねぇ。実は、あいつの行動に不審な点が多いんだ」
デルダは少し考え込み、やがて重々しく頷いた。
「なるほど。確かに、彼女の実力は戦闘テストの時に見た限りではそれほど強くはないと思っていたが、何か隠しているのかもしれないな」
デルダはトニーをじっと見つめ、不信感を抱いた表情を浮かべたが、トニーはさりげなく上着の内側から高官のバッジを見せた。デルダの表情が一瞬緩んだ。
「そうだ。だから、あいつの動向を見張ってくれねぇか?お前なら、あいつの不審な動きを見逃さないだろう」
トニーは真剣な表情でデルダに頼み込んだ。デルダは再び考え込み、やがて頷いた。
「分かった。セリスの動向に注意を払おう。ただし、君も目立たないように気をつけるんだ」
トニーは懐から幾らかの金貨を取り出し、デルダに握らせた。
「これで、頼むぜ」
デルダは金貨の重みを感じながら、冷静な声で答えた。
「了解した。君の依頼、引き受けよう」
「ありがとうよ、デルダさん」
トニーは深く礼をして、その場を離れた。デルダはトニーの背中を見送りながら、心の中で彼の動機を考え続けていた。
セリスとミスティは、任務が始まる時間までサンセット街の観光を楽しんでいた。
サンセット街は活気に溢れ、多くの人々が行き交い、店が並ぶ賑やかな街並みが広がっていた。
「ミスティ、ここって本当に素敵な街ね。どこを見ても新しい発見があるわ」
セリスは笑顔で話しかけながら、露店で売られている色とりどりのアクセサリーを手に取って眺めた。ミスティも微笑みながら頷いた。
「本当に、セリス。こうして観光するのも悪くないですわね」
二人はゆったりとした気分で歩き回り、街の名物料理を楽しんだり、地元の職人が作った工芸品を見て回ったりした。セリスは露店で美しい刺繍が施されたハンカチを手に取り、ミスティに見せた。
「これ、エリシアさんへのお土産にどうかしら?」
ミスティは微笑みながら頷いた。
二人は露店でお土産を選びながら、笑顔で会話を楽しんだ。その後、街の広場に立ち寄り、地元の音楽家たちが奏でる演奏を聴いたり、街角で開かれる即興のパフォーマンスを見たりして過ごした。
広場に出ると、ミスティは突然何かを思いついたように立ち止まった。
ミスティは笑みを浮かべながら、一組のカードを取り出した。そして、無言で広場の真ん中に立ち、周囲の人々にカードを見せ始めた。彼女の手際の良さと不思議な雰囲気に、興味を引かれた人々が集まり始めた。
——スリーカードモンテの始まりだ。
「いや、何してんのアンタ……」
セリスが心の中でツッコミを入れながらも、ミスティの動きに目を離せなかった。参加者たちはジョーカーを見つけようと必死にカードを指差すが、ミスティの巧妙な手さばきに惑わされ、誰もジョーカーを見つけることができなかった。
ミスティの「カードのジョーカーを探せ」ゲームはまあまあ盛り上がった。
広場に集まった人々は、ミスティの巧妙な手さばきに魅了され、次々とゲームに参加していた。しかし、ある野次馬が眉をひそめ、鋭い目つきでミスティの手元を見つめていた。
「おかしいな…あのカードの動き、どうも怪しいぞ…」
その野次馬は、ミスティがカードをシャッフルする際にほんの一瞬、手の動きが変わるのを見逃さなかった。やがて、彼はミスティのイカサマを見破り、大声で叫んだ。
「イカサマだろ!お前、ズルしてるんじゃないか!」
その叫び声に、広場の観客たちは一斉に振り向き、ミスティとセリスを注視した。
セリスは瞬時に状況を理解し、ミスティのイカサマが露見したことに冷や汗をかいた。しかし、すぐに機転を利かせ、叫んだ。
「警察が来たぞおおお!」
その一言で、観客たちは一斉に動揺し、パニック状態に陥った。人々は警察が来るというセリスの嘘にすっかり騙され、慌ててその場を離れ始めた。
「全く……ズラかりますわよ!」
セリスは混乱の中でミスティの腕を掴み、急いで広場を離れた。彼女たちは人混みをかき分け、狭い路地に入り込んだ。
二人はようやく落ち着きを取り戻し、再び街の観光を続けることにした。サンセット街の賑やかな雰囲気に包まれながら、彼女たちは新たな冒険に思いを馳せた。
「こんなところで小銭なんか稼いでもしょうがありませんわ」
スリーカードモンテとは昔からある不良達のイカサマで、間違いなく当たりだと思ったカードに賭けると、なぜか外れます。




