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道化師

 宿場町の夜、冒険者ギルドの宴会場は活気に満ち溢れていた。明るい灯りが揺れ、笑い声や音楽が響き渡る中、エリシアはその中心で輝いていた。


 エリシアは豪華なローブをまとい、ギルドの冒険者たちと楽しそうに話し、笑顔を浮かべていた。彼女の存在は宴会を一層華やかにしていた。


「皆さま方、今日はよく集まってくれましたわ!」


 エリシアは杯を高く掲げ、声を張り上げた。


「本日はギルドの利益を皆さま方に還元いたしますわ!」


「乾杯!」


 冒険者たちは一斉に声を上げ、杯をぶつけ合った。


 エリシアは一人一人と会話を交わし、彼らの冒険話に耳を傾けたり、アドバイスをしたりしていた。彼女の目は優しく、時折見せる真剣な表情が彼女の深い知識と経験を物語っていた。


 ギルドは例のリザード養殖場によりかなりの利益を上げていた。ガレンと相談した結果、定期的に宴会を開くことで関係者にギルドの信頼を示すべきだと結論立てた。


 宴会の喧騒の中、エリシアとガレンはギルドハウスの奥まった一角に移動し、秘密の話を続けた。


「ガレン、リザード養殖場の存在がバレないように、冒険者たちの行動を制御しなければならなりませんわ。」


 エリシアは周囲に気を配りながら低い声で言った。


 ガレンはうなずき、エリシアの考えを聞きながら真剣な表情を浮かべた。


「確かに。まず、冒険者たちに養殖場への立ち入りを厳しく制限する必要がある。そして、万が一質問された場合には、みんなが同じ答えをするようにすべきですね。」


 エリシアは続けた。


「その場合の答えは『原因不明の異常発生』ということで統一しましょう。これなら、あまり深く突っ込まれずに済むはずですわ。」


 ガレンは考え込むように頷いた。


「いい考えだ。これで情報が漏れる可能性を最小限に抑えられる。さらに、定期的に例の秘密部隊と話をして、彼らの信頼を確認することも必要だ。」


 エリシアは微笑んで応じた。


「それに、養殖場の周辺でのパトロールを強化して、怪しい動きがあればすぐに対処できるようにしましょう。」


 その後、二人は宴会場に戻り、秘密部隊の一人一人に耳打ちした。彼らに秘密の任務としてリザード養殖場の警備と情報の管理を再度認識させ、特に質問された場合の対応について詳しく指示した。


 宴会が続く中、エリシアは無口な道化師がパフォーマンスを始めるのを楽しんでいた。彼の姿は宴の中心で輝いており、その動きには誰もが目を奪われていた。


 道化師はさまざまなコミカルな動きを見せながら、観客を楽しませていた。


 突然、彼は小さなポケットから一瓶の液体を取り出し、観客に向かって微笑んだ。次の瞬間、彼は口に液体を含み、息を吹きかけた。その瞬間、巨大な火の玉が空中に現れ、観客から驚きの歓声が上がった。


「おや?」


 エリシアはその光景を見て、眉をひそめた。


 ただの芸ではないと感じた。火吹き芸は見た目には素晴らしいが、彼のやり方には普通の技術とは違う何かがあるように思えた。彼女の目は道化師の手元や動きを細かく追った。


 再び火を吹いた瞬間、エリシアは気づいた。道化師の手の動きには微妙な魔法の痕跡があった。彼が火を吹く直前に、指先が一瞬だけ輝きを放っていたのだ。


 エリシアは目を細め、道化師の動きをさらに注意深く観察した。確かに、彼のパフォーマンスには魔法が使われている。彼女はそのことを確信した。


 道化師のパフォーマンスが終わると、観客は拍手喝采を送った。


 エリシアは道化師の元に歩み寄り、静かに話しかけた。


「素晴らしいパフォーマンスですわ。ところで、あの火吹き芸、本当は魔法を使っているんでしょう?」


 道化師は一瞬驚いたようにエリシアを見つめたが、次の瞬間には再びおどけた笑みを浮かべた。そして、彼は誇らしげに胸を張り、大げさにウインクしてみせた。


 エリシアは思い出した。


 彼はミスティ。エリシアがまだ駆け出しの冒険者だった頃、共に冒険したメンバーの一人だった。


 彼と共にドラゴンの洞窟に行き、そこでレモネードをぼったくり価格で売りに行ったことを思い出して顔がニヤける。


 翌日、エリシアは再びギルドハウスを訪れ、ミスティと会うことにした。


 彼女はミスティを自身の計画に巻き込む決意を固めていた。


 ミスティの魔法の才能と彼の無口な性格は、計画にとって理想的な資源となるからだ。そして、彼が旅の道化師として収入に乏しいことも知っていた。


 エリシアが到着すると、ミスティはギルドの一角で一人静かに座っていた。彼は周囲の喧騒には全く関心を示さず、小さな手品を繰り返していた。エリシアはその様子を見て微笑みながら彼に近づいた。


「ミスティ。時間をもらえるかしら?」


 エリシアは静かに声をかけた。


 ミスティは彼女の声に反応して顔を上げ、独特な微笑みを浮かべた。彼は軽くうなずき、エリシアに座るように手招きした。


 エリシアは隣に座り、真剣な表情で話し始めた。


「ミスティ、あなたの才能を活かす場を提供しましょう。実は、私は秘密の計画を進めているんだけれど、そのメンバーにしてあげますわ。」


 ミスティは興味深そうにエリシアを見つめ、手の動きを止めた。彼の目には好奇心が宿っていた。


「この計画は、ちょっと…いや、かなり非合法なことも含まれていますわ。」


 エリシアの声には確固たる決意がこもっていた。


 ミスティは少し考え込むようにエリシアを見つめた後、軽く肩をすくめてにやりと笑った。そして、手のひらで「どうして?」というジェスチャーを見せた。


 エリシアはそのジェスチャーに答えた。


 「あなたの魔法の才能とあなたの機知があれば、私たちは成功する確率が飛躍的に上がりますわ。さらに、あなたは喋らないから、うっかり秘密がバレるリスクもない。それに、これには報酬が伴いますわ。あなたが旅の道化師として苦労していることは知っています。この計画に協力してくれたら、一日三食は肉が食えますわよ……!」


 ミスティの表情が少し変わった。彼は考え込むようにエリシアを見つめ、その後、小さくうなずいた。エリシアは続けた。


「この計画の利権はかなりのものです。あなたがこれまでの旅で得たものよりもずっと多く、安定した生活がお約束いたしましょう。」


 ミスティは一瞬だけ真剣な表情を見せたが、次の瞬間には再びコミカルな笑みを浮かべ、彼女にウインクした。

 そして、彼は大げさに手を広げ、胸を叩いて見せた。それは多分「面白え、まかせろ」という意味だった。


 エリシアは微笑んだ。


 その瞬間、エリシアはミスティがただの道化師ではないことを再認識した。彼の中には深い知恵と才能があり、それが彼女たちの計画にとって大きな助けとなるだろう。彼の無口な性格と彼の魔法の才能は、計画の秘密を守りつつ、成功へと導く鍵となるのだと彼女は確信した。


 エリシアは、支度金の袋とギルドの食堂無料券を差し出した。


「まず、これはあなたへの支度金ですわ。これで必要な装備や道具を揃えて。そして、これがギルドの食堂で使える無料券。美味しいですわよぉ……。」


 ミスティは袋と無料券を見つめ、驚いた表情を浮かべた。彼はエリシアの意図を理解し、軽くうなずいた。


 エリシアの目には冷たい輝きが宿っていた。彼女は自分の野心を隠さず、あえてそれを見せつけることでミスティの心を引き寄せようとしていた。


 かつて、お互いが野心と金儲けのために冒険者として手を組んだ過去を利用しない手はない。旅芸人をやっているミスティに失うものなど無いことはエリシアの勘が見抜いていた。


 数日後、ギルドハウスの宴会場は賑わいを見せていた。


 冒険者たちが集まり、酒を酌み交わし、冒険譚を語り合っている中、ミスティがギルドの新たな福利厚生として手配されたパフォーマーとして登場した。彼はいつも通りのコミカルな笑みを浮かべ、色鮮やかな衣装をまとい、観客を魅了するパフォーマンスを披露していた。


 彼のショーは大成功で、冒険者たちは大いに楽しんだ。


 しかし、誰も知らない裏の顔があった。ミスティは表向きはギルドのエンターテイナーだったが、裏ではエリシアの秘密の作業を行っていた。


 夜が更け、宴会が終わると、ミスティはエリシアの指示に従い、ギルドハウスの地下にある隠し部屋へと向かった。そこには、エリシアが計画を進めるために必要な機材や資料が保管されていた。ミスティはその場で彼女の指示に従い、リザード養殖場の運営に必要な書類を整理し、秘密裏に情報をやり取りする手助けをしていた。


 エリシアは彼の能力と信頼性に満足していた。ミスティの無口な性格と魔法の才能は、彼女の計画にとって理想的なパートナーだった。彼が冒険者たちの前でパフォーマンスをしている間に、エリシアは安心して他の作業に集中することができた。


 ある夜、エリシアはミスティに会うために地下室に足を運んだ。彼女は満足そうに彼の作業ぶりを眺めながら話しかけた。


「素晴らしい。期待してますわよ」


 ミスティは無言のままエリシアに微笑みかけ、軽くうなずいた。彼の目には確固たる決意が宿っていた。


「これからも、表向きはギルドのパフォーマーとして活動していただきますが、裏では私たちの秘密の計画を進めていきましょう。」


 エリシアは真剣な表情で続けた。


 ミスティは再びうなずき、胸を叩いて「まかせろ」というジェスチャーを見せた。


 エリシアは満足そうに微笑んだ。


 その後も、ミスティはギルドの宴会場でパフォーマンスを続けながら、エリシアの秘密の作業を黙々とこなしていった。

 彼の内に秘めた欲望と悪意は、エリシアの野心と見事に調和し、二人の協力関係はますます強固なものとなっていった。

 冒険者たちには見せない裏の顔を持ちながら、ミスティとエリシアは計画の成功に向けて着実に歩みを進めていた。


 エリシアは自分の野望を実現するために、個人的な協力者が必要であると強く感じていた。彼女の計画は複雑であり、信頼できる人間が少数いるだけで成功の可能性が格段に高まると考えていた。


 ある夜、エリシアはミスティとの秘密の会合を終え、ギルドハウスの一室で次の動きを考えていた。彼女は窓から外を見つめながら、これまでの計画の進行状況を頭の中で整理していた。

 しかし、彼女の心にはもう一つの疑念が浮かんでいた。それは、彼女自身の野望を達成するためには、もっと多くの信頼できる協力者が必要だということだった。


 エリシアは深く息をつき、決意を新たにした。


「もっと仲間が必要ですわね…」


彼女は自分に言い聞かせた。彼女の目は冷たい輝きを放っていた。

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