チョンセの謎と韓国不動産の法律⑧
次に取り上げる「伝貰詐欺事件」は加害者が「不動産業者」だったケースです。
https://www.chosunonline.com/m/svc/article.html?contid=2022122880047
>住宅都市保証公社(HUG)が27日明らかにしたところによると、
仁川弥鄒忽区などにビラとオフィステル数十戸を保有していたS氏(27)が12日、
自ら命を絶って死亡し、賃貸保証金の返還を受けられない賃借人が相次いでいる。
S氏は自己資本はほとんど持たず、
住宅価格と賃貸保証金の差額だけで不動産投機を行う
「ギャップ投資」でビラを購入していたという。
被害者の一部は契約期間中に物件所有者がS氏に変わり、
そうした事実を後から知ったという。
S氏が住宅を実際に何戸所有しているのかは確認されていない。
賃借人がHUGの賃貸保証金返還保証保険に加入していた住宅だけで50戸余りある。
このうち一部は相続代位登記(債権者が債権を保全するために、
法定相続人に代わって相続登記を申請すること)で保証金の返還を受けたが、
まだ40戸余りは保証金が返還されていない。
被害者らはS氏が所有する住宅が競売や公売で落札されるまでは、
賃貸保証金を返してもらえない可能性が高い。
HUGが賃借人に対する代位返済を行うためには、
賃借人が家主に賃貸借契約の解約を通知しなければならないが、
家主が死亡したため不可能になった。
S氏は登録賃貸事業者だったが、
加入が義務づけられている賃貸保証金保険には加入していないことが分かった。
HUG関係者は
「現在S氏の物件の賃借人が保証保険に加入した保証金の規模は約57億ウォン(約6億円)だ。
通常は賃貸保証金保険の加入率が半分に満たないことを考えると、
S氏の事件による被害規模は100億ウォンを超えると推定される」と話した。<<<<<<
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カニがビックリしたのはS氏が登録賃貸事業者だったこと。
つまりSは不動産業者であった。
日本では不動産業者は宅建業免許を交付してもらい営業するため、
殆どの業者は宅建協会(宅地建物取引業協会)に加盟するか、
高額な供託金を法務局に供託して宅建業者の営業免許をもらっている。
業者の8割は宅建協会に加盟し供託金は保証協会(宅地建物取引業保証協会)に預託している。
保証協会の主な業務は手付金等の保全と保証だ。
日本では宅建業者が潰れても、保証協会が手付金等を保証してくれる。
上限はあるが、顧客の被害は最小限に押さえられる。
伝貰が韓国政府が言うような保証金(敷金)であるのなら、
当然韓国でも保証協会が弁償しなければならないはずなのだが、
そんな話は、とんとニュースでは流れない。
賃貸保証金返還保証保険というものを、住宅都市保証公社(HUG)が提供してるらしいが、
それは宅建協会のような業界団体ではない。
伝貰詐欺を掘り下げて研究してると、
伝貰についての一つの疑問点にぶち当たります。
何故、保証金(敷金)であるはずの伝貰で、
韓国の家主は投資をしても許されるのかという疑問です。
もし伝貰が純粋な保証金(敷金)であるならば、
家主には伝貰の保管保全義務があるはずで、
伝貰で投資とか許されない(少なくとも業者は)と思ってしまうからです。
日本の場合、もし家主(宅建業者に限られる)が、
手付金等を厳格な保管保全をせず、それを投資で毀損した場合、
宅建業法64条8項(弁才業務保証金の還付)により保証協会がそれを弁済します。
上限はありますが全額弁済する。
この「手付金等」には宅建業の業務で生じたあらゆる預り金が含まれます。
保証協会(宅地建物取引業保証協会)は、その保管・保証をしてくれますが、
会員である業者は供託金を宅建協会に預託する義務がある。
伝貰というシステムは韓国独特のシステムで日本にないが、
もし日本に伝貰制度があれば、
伝貰が(手付金等)に含まれるかどうか迷うところだ・・・たぶん
伝貰は敷金に「含まれる」という人は、少数派だと思う。
伝貰が純粋な(預り金)ならば韓国の宅建協会は、
その保管保全義務を業者にどう指導してるのだろう?
韓国に宅建協会があるかどうかわからないが、
宅建主任者に似た資格「公認仲介士」という資格はあるのだから、
たぶん宅建協会らしきものもあると思う。
しかし宅建協会らしきものがあったとしても、
伝貰を投資する事が、伝統的に伝貰制度の根幹であるならば、
保証協会が伝貰を保証できないのも、当然だと言えます。
なぜなら、投資にリスクは付き物だから。
伝貰で投資するのは、その収益が家賃の代わりという性格ならば仕方ない。
ならば損失を出すこともあるゆえ、伝貰は保証できないと認識されるのは当然だ。
ゆえに伝貰は(手付金等)には含まれない。
ならば、伝貰は何だろうか?
伝貰金は伝貰権の対価で権利金である、と見るのが正しいと思うがいかに。
韓国では家主は伝貰で家賃並みの収益を上げなければいけない。
正直、投資はそんな甘いものじゃない。
ゆえに政府は「賃貸保証金返還保証保険」なるものを住宅都市保証公社(HUG)に作らせた。
家主が伝貰運用に失敗しても賃借人が困らないようにするために。
それなのに今、賃借人に伝貰が返還されないトラブルが頻発している。
HUGの保証保険の支払いも右肩上がりで、
2022年は9,241億ウォンになった。
なんと、記事のS氏は、加入が義務付けられている賃貸保証金保険に入っていなかったらしい。
ならばこの事件は「ギャップ投資詐欺」とか「伝貰詐欺」とかいう前に、
法律・法令違反である。
それが何故か、伝貰制度が悪者になっている。
メディアは伝貰詐欺事件は韓国政府の責任だと訴えている。
確かに、ある意味においては正しい・・・・
政府が不動産バブルを作ったから悪いとか、
政府の保証保険に不備があったから悪いとか、
政府の事件への対応が遅すぎるとか、
そんな巷で言われてるような意味ではなく、
伝貰を「保証金」だと定義して、
国民に安心感を与えた・・・政府が悪いという意味だ。
政府が「伝貰は保証金(敷金)ではない」と正しく国民に啓蒙しておけば、
今回の事件も伝貰詐欺とは言われなかったであろう。
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「伝貰詐欺」について、韓国政府はどのような対策をしているのか、見てみよう。
2023.2.21統一日報の記事である。
http://news.onekoreanews.net/detail.php?number=91012&thread=01r03
>韓国政府は2日「チョンセ詐欺予防および被害者支援方案」を発表した。
韓国では入居者が保証金を一括で預け入れ、
住宅を借りる「チョンセ」という賃貸方式を利用する場合が多いが、
昨年から保証金が返還されないという被害が多発、社会問題化している。
文在寅政権下で不動産価格の高騰が続いたことから、
チョンセを利用して複数の不動産を購入する「ギャップ投資」という手法が広がった。
だが昨年から不動産価格が下落に転じ、
さらに銀行からの貸し出し金利が上昇したことで、
資金が回らず破綻する投資家が増え、
保証金が返還されないという事態が社会問題となっている。
ギャップ投資とは
①不動産を購入
②チョンセを利用して保証金を得る
③購入した不動産を担保にして融資を受けチョンセの保証金を合わせて新しい不動産を購入
(購入不動産が保証金より少額な場合は、保証金のみで購入)
これを繰り返すことで複数の不動産、
場合によっては1,000軒を超えるような不動産を購入する投資法だ。
住宅価格の上昇が見込めることから、
「チョンセ価率」(住宅価格に対するチョンセ保証金額の割合を示した数値)を
100%近くに設定できるケースも生じ、
保証金返却時にも不動産上昇分を次回のチョンセ価格に上乗せできることで、
ギャップ投資を容易にした。
ただし不動産価格の上昇が続くことが前提で、
下落に転じた場合のリスクは大きい。
賃貸借契約を結び同時に売買を進めることで、
資金をほとんど必要としない「無資本ギャップ投資」という詐欺まがいの手法もある。
これらを指南する不動産コンサルティング会社もあったと言われる。
不動産価格の高騰が抑制された昨年から破綻するケースが表面化した。
代表的なのが小規模集合住宅やオフィステル(住居兼オフィス物件)など、
計1,139戸を保有し、賃借人に保証金を返さずに死亡した「ビラ王事件」。
その後も似たような事件が多発。
先月27日にも仁川にビラとオフィステル数十戸を保有していた投資家が自ら命を絶ち、
賃貸保証金の返還を受けられない賃借人が相次ぐ事態となっている。
保証金は、
賃借人が住宅都市保証公社(HUG)の賃貸保証金返還保証保険に加入している場合、
返済が滞ってもHUGが代位弁済することになる。
一方でHUGが賃借人に対する代位弁済を行うためには、
賃借人が家主に賃貸借契約の解約を通知しなければならず、
家主が死亡した場合、難しい状況になる。
また賃借人が知らないうちに不動産の所有者が替わり、
新たな所有者がHUGに加入していないといったケースも。
政府が今回策定した法案は、
①ギャップ投資を防ぐため、HUGが保証金を保証する「チョンセ保証金返還保証保険」について、保証対象となるチョンセ価率の上限を今年5月以降は90%に引き下げる(同保険はこれまでチョンセ価率100%まで保証されていたことから悪用されるケースがあった)
②不動産の鑑定評価士が故意に不動産価格を高く見積もることでチョンセ詐欺に加担することを防ぐため、今後は公示価格と実際の取引価格を相場とする
③リスクのある契約を避けられるよう、賃借人に公開される貸主の情報も拡大。HUGのアプリを通じて、相場や貸主の保証金未返済履歴、税金の滞納状況などが確認できるようになるなど。
同法案により今後、
過熱していたチョンセ投資がある程度は抑制されると見られるが、
問題はこれまで行われてきた不動産投資だ。
少なくとも年内は不動産価格の上昇は見込めず、
金利高も続くと見られる。
昨年一年間でチョンセ保証金返還トラブルの規模は1兆1,731億ウォンに達し、
HUGは9,241億ウォンを代位弁済した。
家主から回収した金額は僅か2,490億ウォンで約7,000億ウォンのマイナスだ。
摘発されたチョンセ詐欺は3倍以上となる618件だった。
HUGが家主の代わりに返した代位弁済額は増加しており、
今年1月だけでも約1,700億ウォンに達し、
財源の枯渇を懸念する声さえあがっている。<<<<<<<<<<<<<<<<<
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<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<ここからはカニ太郎の考察です。
HUG(住宅都市保証公社)が支払った「チョンセ保証金返還保証保険」だけで9,241億ウォンだというのに驚くが、家主から回収できたのが2,490億ウォンだというのにはもっと驚く。
なんと回収率が26.9%だ。
ギャップ投資だけが原因なら、ここまで回収率が悪いのはおかしい。
次の入居者の伝貰価率が26.9%になる程、不動産価格は暴落はしていないからだ。
そうなると、これまでの伝貰価率が異常に高かったということになる。
記事によると韓国政府は国会で以下の対策を打ち出した。
①ギャップ投資を防ぐため、HUGが保証金を保証する「チョンセ保証金返還保証保険」について、保証対象となるチョンセ価率の上限を今年5月以降は90%に引き下げる(同保険はこれまでチョンセ価率100%まで保証されていたことから悪用されるケースがあった)
②不動産の鑑定評価士が故意に不動産価格を高く見積もることでチョンセ詐欺に加担することを防ぐため、今後は公示価格と実際の取引価格を相場とする
③リスクのある契約を避けられるよう、賃借人に公開される貸主の情報も拡大。HUGのアプリを通じて、相場や貸主の保証金未返済履歴、税金の滞納状況などが確認できるようになるなど。
カニがまず突っ込みを入れたいのが②である。
不動産鑑定評価士が故意に不動産価格を高く見積もることでチョンセ詐欺に荷担・・・
まず疑問点が、伝貰価率って不動産鑑定評価士が鑑定評価するものなのか?
日本にも不動産鑑定士という資格があるが、
彼らの鑑定額は市場価格ではない。
不動産鑑定士の鑑定額は相続や税務関係で使われる資料であって、
銀行の担保評価額には全く不向きである。
それでなくとも日本の土地には「市場価格」「公示地価」「固定資産税評価額」「相続税路線価」と4つの価格が乱立している。
そして市場価格を卓上で推定しようとすると、とんでもなく可笑しな数字が出てきてしまう。
ゆえに日本の銀行の不動産評価額は、銀行の融資担当者が独自のネットワークで調査する。
昔は銀行の融資担当者は自ら地元の不動産屋を回り、
相場をチェックしていたものである。
韓国では金融機関は独自査定はしないのだろうか・・・?
確かにHUGが伝貰価率100%保証してくれるなら、
正しい相場など、どうでもいいのかもしれない。
銀行はチョンセ保証保険加入を条件に100%チョンセ融資する。
するとこれはHUGの保証金を狙った、金融機関も組んだ保険金詐欺の可能性がある。
例えば1億ウォンのマンションがある。
不動産屋と銀行が組んで、不動産鑑定評価士に1億5千万ウォンの鑑定額を出させる。
銀行はHUG「チョンセ保証金返還保証保険」加入を条件に全額貸し出す。
不動産屋は入居者を見つけ伝貰ローンを組み、引き渡したら、すぐ1億5千万ウォンで売りに出す。
売値1億5千万ウォン、伝貰1億5千万ウォン付きなら、所持金0で買えるから売れやすい。
すると不動産屋、銀行、不動産鑑定評価士は、利益の5千万ウォンを山分けできる。
結局、損するのはHUG(住宅都市保証公社)だということになる。
ゆえに7000億ウォンも未回収で回収率が26.7%なのである。
何故HUGは極端に高い鑑定額を信じて、伝貰価率100%で保証保険を受けたのか?
ここに国家ぐるみの詐欺事件が垣間見える。
HUGも素人じゃあるまいし、伝貰価率が極端に高いことに気づくはず。
あえて気づかない振りをしたとしか思えない。
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ここでギャップ投資に関して面白い解説があるので、どうぞ読んでください。
http://suuyuu.me/archives/1263
このブログではギャップ投資はレバレッジをかけた投資であると説明している。
不動産を原資産、自己資金を証拠金として、不足分を伝貰というレバレッジで補い、
不動産価格の値上がりに賭けるのが「ギャップ投資」であるというわけだ。
さらにブログ主は不動産の値上がりが年4% 程度なら、
伝貰で資金をロックされるよりは、他に投資した方がいいとも言う。
・・・このブログ主はよっぽど投資に自信があるのだろう。
しかし、私とは意見が違う。
ギャップ投資は「チョンセ保証金返還保証保険」さえ賭ければリスクゼロの、
めちゃくちゃ儲かる投資であるw
「ギャップ投資」を正常な証拠金取引だなどと見なしてはいけない。
ギャップ投資と通常の投資の大きな違いは、
ギャップ投資にはHUGという実質的な政府保証が付いているところである。
韓国政府は「伝貰」を賃貸保証金(敷金)だとみなしているから、
HUGは伝貰価率100%で保証せねばならなかった(やっと2023年5月以降は90%に切り下がるらしい)
https://www.nna.jp/news/2475974?media=yahoo
現実の伝貰価率は、不動産鑑定評価士によって、故意に水増しされた価格である。https://www.donga.com/jp/article/all/20221003/3674272/1
「ギャップ投資」は不動産鑑定評価士とチョンセローン銀行と不動産業者が結託した「伝貰詐欺」の温床となっていたのだ。
確かに月貰保証金(敷金)は政府や協会団体が100%保証せねばならないものだろう。
しかし伝貰は月貰とは違う。
政府も家主も国民も、伝貰が運用されてることは皆知ってる。
保証金(敷金)に義務付けられてる保全保管の義務はないのだ。
そんな資金に政府機関であるHUGが全額保証するなど凶器に沙汰だ。
水増しした鑑定書を書く悪徳不動産鑑定評価士が、
チョンセローン融資銀行と、客付け不動産業者と組めば、
HUGから保険金を騙しとることは容易にできる。
この伝貰制度の歪みを突いた詐欺スキームを最初に見つけた投資家は賢いと思う。
政府はHUGに100%保証させては、いけないものに、100%保証するのだから、
HUGに穴が開くのは当然である。
伝貰で入居するお客様は、保険が降りるので損はしない。
つまり被害者のいない詐欺なのだ。
唯一、HUGが損を出し続ける構図だ。
一般人で被害者になったのは、どういうわけか保険に入らなかった入居者、
あと家主がジ○ツしてしまい、制度的にHUGから保険が降りなくなってしまった人だけだ。
HUGが最初から保証額を90%で止めておけば、
「無資本ギャップ投資」などという詐欺は生まれなかった。
政府が伝貰を賃貸保証金などとみなすから、こんな詐欺が生まれたのだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/20e2c2a5fff1c53a10d212adfe57eb8eb59efc2e
ただ最近こんな新聞記事を見つけた。
韓国政府は、伝貰に課税を始めたようだ。
https://www.donga.com/jp/article/all/20090708/308287/1
http://japan.mk.co.kr/view.php?category=30600004&year=2014&idx=425
最初の記事は2009年8月の東亜日報の記事で、3軒目の住宅から伝貰に課税するという。
次の記事が2014年3月の記事で、2軒目の住宅から伝貰に課税するとなってる。
それでは、それ以前はどうだったのか調べてみると、1999年の瀬川信久氏の論文に、
当時2軒目以降の所有住宅について、
伝貰金額に銀行の預金利率をかけた収入があるとみなして、
課税されていたと書いてある。
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/14975/1/50(4)_p209-223.pdf (注16)
つまり、伝貰は税制的には、昔から保証金(敷金)扱いではなかったということだ。
では伝貰とは何か?
伝貰は、コトバンクで解説されてるように、不動産権利金であり、伝貰権の対価なのである。
https://kotobank.jp/word/%E4%BC%9D%E8%B2%B0%E9%87%91-1374304
そして、伝貰住宅の短期賃貸借契約は、
期間を定めた伝貰権売買契約でもある。
伝貰権は日本の借地権(定期借地権)と性質がよく似ているのである。