チョンセの謎と韓国不動産の法律②
伝貰権をネットで検索すると「韓国の不動産私法」という資料があった。
どうやら一般財団法人不動産適正取引推進機構(宅建試験を実施してるとこ)が、
2022年に出版したものらしい。
そこに伝貰権についての解説があったので、権利関係について考察してみようと思う。
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://www.retio.or.jp/research/pdf/overseas_study_16_001_03.pdf&ved=2ahUKEwj5-ZOR2ZH_AhVGfXAKHRhvACYQFnoECAgQAQ&usg=AOvVaw264nDpm72X9ypATz7mBmrZ
https://www.retio.or.jp/research/pdf/overseas_study_16_001_03.pdf
伝貰権についての解説はp12から始まります。
伝貰権は韓国民法で規定されていて傳貰権とも書きます。
伝の古い漢字のようです。
3.傳貰権
(1) 傳貰の意義
傳貰は、高麗時代(918年~1392年)
にまで遡るとされる韓国独自の不動産利用システムであるが、
現行法では、民法に基本的な規定が置かれ、
住宅に関しては住宅賃貸借保護法、
店舗に関しては商家建物賃貸借保護法が特別法として制定されている。
ここでは、民法上の規定内容を紹介する。
不動産の貸主(所有者)が傳貰権設定者であり、
借主が傳貰権者である。
傳貰の対象となる不動産は、
農耕地以外の不動産である(韓国民法303条 2項)。
傳貰権は、他人の不動産を占有し、
その不動産の用途に従い使用・収益する権利である(303条 1項前段)。
傳貰権者は傳貰金を支払う義務があり、
傳貰契約期間の満了時に、
その不動産全部に対して後順位権利者その他債権者より優先して、
傳貰金の弁済を受ける権利を有する(303 条 1項後段)。
実務では、傳貰金は傳貰契約時に一括して支払われ、
期間満了時に無利子で全額返還されるのが原則であり、
日本の保証金に類似している。
(2) 傳貰権の譲渡・転貸
傳貰権者は設定行為で禁止したときを除き、
傳貰権を他人に譲渡又は担保として提供することができ、
その存続期間内でその目的物を他人に転傳貰又は賃貸することができる(306条)。
傳貰権譲受人は傳貰権設定者に対し傳貰権譲渡人と同一の権利義務を有する(307条)。
傳貰権の目的物を転傳貰又は賃貸した場合には、
傳貰権者は転傳貰又は賃貸しなければ免れることができない不可抗力による、
損害についてその責任を負担する(309条)。
(3) 維持管理
傳貰権者は目的物の現状を維持し、
その通常の管理に属する修繕をしなければならない(309条)。
傳貰権者が目的物を改良するために支出した金額その他有益費に関しては、
その価額の増加が現存する場合に限り、
所有者の選択に従いその支出額又は増加額の償還を請求することができる(310条1項)。
傳貰権者が傳貰権設定契約又はその目的物の性質により、
定められた用法でこれを使用又は収益しない場合には、
傳貰権設定者は、傳貰権の消滅を請求することができる(311条1項)。
この場合、傳貰権設定者は、
傳貰権者に対し原状回復又は損害賠償を請求することができる(311条2項)。
(4) 傳貰の存続期間
傳貰権の存続期間は10年を超えることができない。
当事者の約定期間が10年を超えるときは、
これを10年に短縮する(312条1項)。
1984年4月10日改正により、次の規律が設けられた。
まず、建物に対する傳貰権の存続期間を1年未満と定めるときは、
これを1年とする(312条2項)。
1984年の2番目の改正は更新制度の導入であり、
傳貰権の設定は、これを更新することができる。
その期間は更新した日から10年を超えることができない(312条3項)。
建物の傳貰権設定者が、
傳貰権の存続期間満了前6月から1月までの間に、
傳貰権者に対して更新拒絶の通知、
又は条件を変更しなければ、
更新しない旨の通知をしない場合には、
その期間が満了したときに、
従前の傳貰権と同一の条件で再び傳貰権を設定したものとみなす。
この場合、傳貰権の存続期間は、その定めがないものとみなす(312条4項)。
(5) 傳貰金の増減
傳貰金が目的不動産に関する租税・公課金、
その他負担の増減又は経済事情の変動により相当しなくなったときは、
当事者は将来に対してその増減を請求することができる。
ただし、増額の場合には、
大統領令が定める基準による割合を超えることができない(312条の2)。
(6) 傳貰権の消滅
傳貰権の存続期間を約定しないときは、
各当事者は、いつでも相手方に対して傳貰権の消滅を通告することができ、
相手方がその通告を受けた日から6月が経過する場合には、
傳貰権は消滅する(313条)。
傳貰権の目的物の全部又は一部が不可抗力により滅失したときは、
その滅失した部分の傳貰権は消滅する(314条1項)。
一部滅失の場合に、
傳貰権者がその残存部分によっては、
傳貰権の目的を達成することができないときは、
傳貰権設定者に対し傳貰権全部の消滅を通告し、
傳貰金の返還を請求することができる(314条2項)。
傳貰権の目的物の全部又は一部が傳貰権者に責任ある事由により滅失したときは、
傳貰権者は損害を賠償する責任を負う(315条1項)。
この場合、傳貰権設定者は傳貰権が消滅した後、
傳貰金をもって損害の賠償に充当し、
余剰がある場合には返還しなければならず、
不足がある場合には再び請求することができる(315条2項)。
傳貰権がその存続期間の満了により消滅したときは、
傳貰権者はその目的物を原状に回復しなければならず、
その目的物に付属させた物件は収去することができる。
ただし、傳貰権設定者がその付属物の買収を請求したときは、
傳貰権者は正当な理由なく拒絶することができない(316条1項)。
この場合、その付属物件が傳貰権設定者の同意を得て付属させたものであるときは、
傳貰権者は、傳貰権設定者に対しその付属物件の買取を請求することができる。
その付属物が傳貰権設定者から買収したものであるときもまた同じ(316条2項)。
傳貰権が消滅したときは、
傳貰権設定者は傳貰権者からその目的物の引渡、
及び傳貰権設定登記の抹消登記に必要な書類の交付を受けるとともに、
傳貰金を返還しなければならない(317条)。
傳貰権設定者が傳貰金の返還を遅滞したときは、
傳貰権者は民事執行法の定めるところにより、
傳貰権の目的物の競売を請求することができる(318条)。
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以上が伝貰についての法律である。
次に韓国不動産の登記についても解説してあるので載せておくp29。
(2) 不動産登記の意義
民法上の不動産物権の中で、
「不動産所有権」「地上権」「地役権」「傳貰権」「抵当権」「権利質権」が
登記することができる権利。
すなわち、登記能力がある物権である(不動産登記法第3条第一号~第六号)。
そして、物権ではないが、法律により登記能力が認められるものとして、
「債権担保権」と「不動産賃借権」(民法第621条)がある
(不動産登記法第3条第七号・第八号)。
(※)「物権」は物に対する直接的に支配する権利、
「債権」は特定の人に対して一定の行為を請求できる権利です。
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日本の不動産登記法で登記できる権利は9つ
『所有権』『地上権』『永小作権』『地役権』『先取特権』『質権(※)』『抵当権』『賃借権』『採石権』
この中で『賃借権』は『債権』、それ以外は『物権』です。
韓国の不動産登記法で登記できる権利は8つ
『所有権』『地上権』『地役権』『伝貰権』『抵当権』『権利質権(※)』『債権担保権』『賃借権』
この中で『債権担保権』『賃借権』は『債権』、それ以外は『物権』です。
日本民法にあって韓国民法にない登記のできる物権は、
①『永小作権』②『先取特権』③『不動産質権(※)』です。
この資料のp2でこれら3つの権利がなぜ韓国民法にはないのかについて解説してある。
①『永小作権』
韓国の農地法第6条第1項は、
「農地は、自己の農業経営に利用させ、又は利用する者でなければ所有することができない」
と規定し、自作農主義を採用し、厳格な所有・利用制限を課している。
そして、農地所有者以外の者が、農地を耕作することができる場合としては、
委託経営(農地法第2条第六号)、
週末・体験営農(同条第八号)など、極めて限定されている。
その結果、韓国民法には『永小作権』に関する規定が存在しない。
②『先取特権』
これに類似する権利として韓国法上『優先特権』と総称される『法定不動産担保物権』がある。
具体的には『賃金優先特権』(勤労基準法第 30 条の 2)、
『租税優先特権』(国税基本法第 35 条、地方税基本法第 71 条、関税法第 3 条)、
これらの権利は債務者の全財産の上に認められる『優先特権』である。
また住宅賃借人の『保証金優先特権』(住宅賃貸借保護法第 3 条の 2)、
店舗賃借人の『保証金優先特権』(商家建物賃貸借保護法第 5 条)は、
いずれも賃借不動産に認められる『優先特権』である。
③『不動産質権(※)』
韓国民法第345条(権利質権の目的)は、
「質権は、財産権をその目的とすることができる。ただし、不動産の使用、収益を目的とする権利は、この限りでない」と規定し『不動産質権』を禁止している。
その代わり『傳貰権』が実質的に『不動産質権』としての性質を持っている。
(※)日本の『質権』は、
債権を保全するために、
債権者が債務者(または物上保証人)から物を受け取って占有し、
債務が弁済されなかったときにはその物を売却して、
その売却価額から債権の弁済を受けることができるという担保物権のことである
(民法第342条)。
なお、債権者が債務の弁済として、
その物の所有権を取得するという方法を取ること(流質契約)
は民法第349条により原則的に禁止されている。
ただし質屋営業法ではこの流質契約を認めている。
『質権』は『質権』が設定される対象により『動産質』『不動産質』『権利質』に分類される。
動産を質に取ることは現在でも質屋で広く行なわれているが、
不動産を質に取ることは現代ではほとんどあり得ない(抵当権が普通に利用されている)
『権利質』とは、例えば、金融機関が不動産所有者に融資をする場合に、
不動産所有者が火災保険に加入し、
その火災保険金の請求権について金融機関が質権を設定するのが一般的な慣行である。
つまり、万一不動産が火災にあった場合には、
金融機関はこの『質権』を実行し、火災保険金から融資の優先返済を受けるということである。
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第3回で韓国民法の不動産私法のテキストのアドレスをアップしてるのだが、うまく表示されない場合、下記のアドレスへどうぞ。
https://www.retio.or.jp/research/pdf/overseas_study_16_001_03.pdf
このテキストの著者は、明海大学不動産学部の周藤俊一教授です。
彼は韓国と日本の民法における不動産法には、
5つの相違点があるとp1に~p2で指摘している。
簡単にまとめると、
①韓国は日本より登記主義である(186条)
②韓国は自力救済の権利を認めている(209条)
③韓国には合有の条文がある(271条~277条)
④韓国には「永小作権」「先取特権」「不動産質権」がない
⑤韓国には「伝貰権」がある(303条~319条)
これを読んで、カニ太郎がビックリしたのは、
②「自力救済」である。
昔1980年代、カニが東京で地上げ屋をやってた頃、やたら在日の占有屋が多かった。
その頃は、ヤ○ザに在日が多いからだろうくらいにしか思っていなかったのだが・・・
この韓国民法209条の「自力救済」の項を読んだとき、
カニは在日ヤ○ザの行動に、彼らなりの正統性があったんだと気づいた。
「自力救済」
① 占有者は、その占有を不正に侵奪又は妨害する行為に対し、自力をもってこれを防衛することができる。
② 占有物が侵奪された場合に、不動産にあっては、占有者は、侵奪後直ちに加害者を排除してこれを奪還することができ、動産にあっては、占有者は、現場において又は追跡して加害者からこれを奪還することができる。
在日に占有権を乱暴に主張する人が多いのは、
韓国の法の精神に則った、彼らなりの正当な権利のつもりだったのかもしれない。
たとえそれが日本で認められなくとも、
彼らは暴力でそれを主張することに、罪悪感はさほど感じなかったのだろう。
この歳になってやっとそのことに気づいたw
周藤俊一教授はこう述べている。
>日韓の第二の相違点とは、占有に関する自力救済に関するものである。
日本法では、自力救済は原則として禁止されており、
民法上も規定がないのに対し、韓国民法は、第 209 条(自力救済)という条文を置き、
「① 占有者は、その占有を不正に侵奪又は妨害する行為に対し、自力をもってこれを防衛することができる。② 占有物が侵奪された場合に、不動産にあっては、占有者は、侵奪後直ちに加害者を排除してこれを奪還することができ、動産にあっては、占有者は、現場において又は追跡して加害者からこれを奪還することができる。」と規定している。
この条文は、韓国人の行動原理を知る上でも非常に重要である・・・・
さて、韓国と日本の民法における不動産法の、もっとも大きな違いは、やはり⑤「伝貰権」であろう。
韓国民法には「物件」の中、第6章「伝貰権」で解説してある。
303条~319条
内容は、第2回で転載してある。
しかし、伝貰権の複雑なのは、これだけではない。
伝貰権は、韓国では学術的に「債権的伝貰権」も認められているのである。
つまり「物件」「債権」の性質を兼ね備えているというのだ。
そのことについて、ソウルの成均館大学名誉教授の髙翔龍氏の論文が2006年に発表されている。
「韓国における不動産賃貸借制度」
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://glim-re.repo.nii.ac.jp/%3Faction%3Drepository_uri%26item_id%3D2589%26file_id%3D22%26file_no%3D1&ved=2ahUKEwjipvLDvY__AhXTsVYBHdvkA-YQFnoECCwQAQ&usg=AOvVaw11FMyDcD-OQXP-Ye5BsPKs