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良い話···にはしない

 とりあえず、皆で掃除を始めた。と言っても、蠍と雨は箒が持てないので、実質汐と教師だけだが。

 汐は大人しくモップを動かす教師をちらっと見る。

 蠍には、『一人でやらせて帰るぞ』と言われたが、まだなんとなく一人にしておくのが心配な気がした。

「あ、そうだ」

 汐は、ポケットから、準備室にあった星屑を取り出す。

 準備室に籠っていた間、最終手段として、窓から持ち逃げしようと考えたので、持っていたのだ。教室が三階だったので諦めた。

「これ」

 汐は教師に星屑を差し出した。

「········え?」

「返す、と言いたいんですけど、やっぱり星屑をそのまま持ってるのは危ないから、とりあえずウチが預かって、先生が必要なときだけ渡す、っていうのはどうですか?

 ウチは星屑に慣れてて洗脳はされないから」

 汐の提案に、教師は信じられないといったように目を瞬く。

「何故だ?そのまま、自分の物にすることだって出来るだろう?」

「確かに、そうしようと思ったんですが···」

『思ったのかよ』

 蠍のツッコミが聴こえる。幻聴だと思うことにした。

 確かに迷惑料という名目でこの星屑を手に入れるのは簡単だろう。

 しかし、人も道具も、必要としてくれる人の元にあるのが一番良いのだ、と思う。

「先生がこの星屑を必要だと思うなら、また会えるようにはしたいから」

『こいつにされたこと、もう忘れたか?』

「と言っても···、実質怒鳴られただけだしねぇ」

 怒鳴られるのは嫌いだが、人を怒鳴っただけで罰を受けるなら、おそらく人類の大半が逮捕されてしまう。

「それに、星屑が欲しいって気持ちは、ウチもよくわかるから」

 時にはそれが人を傷つけてしまうこともある。

 大事なのは、なるべく人に迷惑をかけないようにという気持ちも童児に持てるかどうかだ。

「先生は反省出来たんでしょ?

 なら、もうわざわざ悪者にして星屑を取り上げる必要なんかないじゃない

 あたっ!」

 汐は悲鳴を上げる。蠍が鋏で汐の足首をぱしっとはたいたのだ。

「なに!?急に!!」

『お人好し。世間知らず。考えなし』

「言い過ぎじゃない!?」

「···いや」

 突然教師が口を開く。全員の視線がそちらを向いた。

「それは、君が持っていてくれ。もう、僕には必要のないものだ」

 どこか晴れ晴れとした顔で、そう言い切った。

 その声には今までの刺々しさは消えていた。


『当たり前だろ。何格好つけてやがんだ

 さっさと掃除しろよ』


 蠍の言葉で、なんとなく漂っていた良い雰囲気は即、霧散した。

 情緒のない毒虫である。

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