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アンブレラ

 蠍は窓の外を見る。今日は星屑は降っていない。

 汐の帰りがまた遅い。

 まさかまた階段を見に行って、今度こそ美女に鏡に引きずり込まれたとかじゃないだろうな。

 さすがにそんな阿保なことはしないと思いたいがー。

 その阿保なことをするのが、汐だ。






 その頃汐は、教師から詰問されていた。

「お前、僕から彼女を奪う気だな!?」

 突然修羅場!?いつの間にそんな三角関係に引きずり込まれたのだろう。しかも汐は略奪する側らしい。

 というか、

「彼女って、それ、星屑ですよね」

 汐は机に飾られた石を指す。

 星屑は、大抵はただの石として扱われるが、稀に特殊な性質を持つものがある。

 一番身近でわかりやすい例が、雨。

 彼は星屑の中でも珍しい、『意思を持った星屑』なのだ。

 星屑が全て意思を持っているわけではなく、また、全てに同じ能力があるわけではない。というより、能力を持たず、地上に落ちてただの石になる方が圧倒的に多い。

 しかし、ものによっては、天気や重力を変える力もあるとかないとか。

 そういうわけで、星屑を魔法の石、と呼ぶ人もいる。

 話を戻すが、教師の反応からみるに、あの美女とこの星屑は関わりがあるのだろうか。

「···もしかしてこの星屑の能力は、『幻』なのかな?」

 思わず口に出すと、教師が面白いくらいに動揺する。どうやら当たりだったようだ。

 実際の女性を意のままに操れる能力、というのも考えたが、あの美女とこの星屑の気配はよく似ている。

 それなら、美女の人知を越えた美しさも納得出来る。あの美女は、まさに『幻の美女』なのだ。少し残念だった。

 単に所有者である教師の理想を反映しているのか、はたまた、決まった姿の幻しか出せないのかまではわからないが。

「でも、その星屑、そのまま持ってると、危ないかもしれないですよ」

 めったにないことではあるが、本来空にある星屑は、地上に落ちると、環境に適応出来ずに暴走して生物に干渉してしまうことがある。

 そうならないように、能力を持った星屑が発見されると、『星職人』と呼ばれる人々が星屑を地上に対応出来るように改良することになっている。それを、『星道具』と呼ぶ。まぁ、雨のように生きてる星は、『星生物』と言うべきか。

 見たところこの星屑は改良されていない、そのままのようだ。

「ちゃんと職人さんに加工してもらった方が···」

 残念ながら、汐の知っている職人は亡くなった祖父だけなので、他の職人を紹介してあげることは出来ないのだが。

「そんなことを言って、貴様彼女を盗む気なんだろう!!」

「盗む気なんてないですよ!?」

 欲しいけど。

 という言葉は飲み込む。この状況でそんな台詞は自殺行為だろうことは汐でもわかる。

「うるさい!どうせお前だって僕のことを気持ち悪いと思ってるくせに!!」

 あ、ダメだこれ、話が通じないわ。今更ながら汐は恐怖を覚える。そもそも汐は、怒鳴られるのが大の苦手である。

 汐は自分の髪を束ねた紐をほどく。

 祖父が遺してくれた星道具『赤い糸』。

 これ自体に相手を撃退する能力はないが、

「『アンブレラ』!!」

 手に持っていない方の赤い糸の端が、まるで空間に潜り込むように消える。

 そして、手に伝わる確かな手応え。

「えいや!」

 赤い糸を引っ張ると、その先に折り畳み傘のようなものが結ばれていた。

 赤い糸には汐が所有する他の星道具を手繰り寄せる能力があるのだ。

 汐にもどういう原理なのかはわからない。「そういうものだから」としか言えない。

 この『アンブレラ』だって一見するとただの折り畳み傘だが、

「シャットアウト!!」

 先端を準備室の壁に当てて、叫ぶ。

「うおっ!?」

 教師が後ろから何かに引っ張られるようにして美術室の方へすっ飛んでいく。

 ほとんど同時に準備室の扉がばたんと閉まった。

 アンブレラは、指定した空間から指定した対象を完全に追い出すことが出来る。

 やっぱりどういう原理なのかはわからないが、これで汐が許可するまで教師は準備室に入ってこられない。

 これであとは······どうしようか。

 当面は安全だが根本的な解決にはならない。

 アンブレラの能力『シャットアウト』は、相手に関する音など、全てを遮断してしまう。つまり、ドアの向こうで相手が何をしているかさっぱりわからないのだ。

 このまま朝まで粘れば誰かしら来るだろうが、さすがにそこまでいくと教師も何らかの対策をとってくるだろう。

 じゃあなんでそんな道具を使ったんだ?と思われるかもしれないが、咄嗟にそこまで頭が回らなかったのである。

 どうする。どうする。どうする。

 汐は頭を抱えた。


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