学校の階段
久しぶりに、『思いあぐねて~』と『夢魔』世界観以外の話を書きました。
どうぞこちらもよろしくお願いします!
学校の怪談には、必ずと言って良いほど階段にまつわる話が登場する。
薄暗くて怖いからか。はたまた怪談と階段をかけているのか。
ただひとつ言えることはー。
怪談があろうとなかろうと、夜の階段は、学校は、怖いということだ。
ここに、悩める少女が一人。
名前は汐=C=ロンバード。職業、学生。もっと詳しく言えば、牡牛の国にある高·中一貫校の中等部三年生である。
図書委員という職権を乱用して、ついついギリギリの時間まで図書室を利用してしまったのが運の尽き。
教師に注意され、しぶしぶ図書室の施錠をし、廊下に出てみたら、そこはさながら恐怖の館。
節電の折り、ついているのはぼんやりした弱電灯。頼りの教師はさっさと帰れよ、という言葉を残して、去ってしまった。
つまり、汐はここから一人で帰らなければならないのだ。教師が鍵を持っていってしまったので、再び図書室に引きこもって現実逃避するのも不可能である。
しかし、それ自体はいつものこと。汐はいつも一人で図書室に籠り、一人で帰る。
だが、今日は、少し違う。
きっかけは、昼休み。クラスにいるオカルトマニア女子が大声で話していた、学校の怪談。
曰く、理科室の人体模型が勝手に走り回る。
曰く、誰もいないのに音楽室から聴こえてくるピアノの音。
曰く、夜中に天井から鰻が降ってくる家庭科室。
家庭科室が意味不明ではあるが、とにかくそういう話があるらしい。
ちなみに、図書室にも怪談はあるようだが、そちらは都合よく耳に蓋をした。
汐がこれから通らなければならないのは『幽霊のいる階段』。オカルト女子によると、ここに出る女性の幽霊に遭遇すると、腕を捕まれて、階段途中にある鏡の中に引きずり込まれるらしい。
うん。ないない。
そもそもこの学校で、行方不明になった人なんていない。
だからデマ。デマデマデマでまでまでまでまでまで。
と、脳内で呪文を唱えているのだが、足がさっきから一歩も前へ進まない。
とはいえ朝までここに居座っているわけにはいかない。というかそんな恐ろしいことはしたくない。
「··················よしゃ!」
汐はなけなしの気合いを振り絞って前に進んだ。
とっても暗い。怖い。
スマホのライトを使うという手もあるが、いざというときに充電が切れたらどうしようと余計な考えが頭をもたげるせいで使えない。
充電あと70%あるけれど。
今日は満月。階段は窓から射し込む光で十分に明るかった。
「よかった」
汐は安心して階段に近づく。それでもなるべく早足で。
そのとき、
「うあ」
突然階下から来た女性にぶつかりそうになった。
「すみませ···」
謝りかけて、汐は絶句した。
なんて、綺麗な人だろう。
腰まである長い髪は、普段だったら動きづらそうという感想しか抱かないだろうが、彼女のつやつやした細い髪を見ていると、むしろ短くするのがもったいないとすら思える。
目は切れ長だが、不思議と瞳が小さいとは感じられない。むしろなんとも言えない色気が滲み出ている。
月明かりの中でもわかるほどに白くて美しい肌は、まるで陶磁器のよう。
ここが学校の階段であることも、怪談の幽霊のことも忘れて、汐は彼女に見とれた。
しかし、美女の方は汐のことなど目に入らないようで、彼女の横を素通りしてさっさと上の階へ行ってしまう。
汐はまるで魂を抜かれたように、しばらくその場に佇んでいた。
作者は黒髪好き。美形キャラは大抵黒髪にしてしまいます。