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( ᐙ )短編小説( ᐙ )

神が死んだって別にいいだろ

作者: 迷迷迷迷

「あなたは呪われました」

「ドラクエでしか聞いたことないよ、そんなセリフ」

「おや、FFではあまり言わないと?」

「FFはもうちょっと難しめの言い方を選びがちかもね」


  私の目の前に神様がいた。

  それはもう神様で、神様としか言いようがない神様であった。


「おやおや?」


  余裕ぶりたいのか、あるいはただ単に本当に余裕があるだけなのか、神様は私の様子をじっくりゆったりと観察している。


  そして「やれやれ」と落胆していた。


「なんだいなんだい、まじかよまじかよ。

  某存在Xパイセンも仰ってた通り、最近の人間ってまじ信仰心少ないんだね」

「そんざい……なんだって?」

「あの先輩怖いけどいい人なんだよなぁ、この前パスタ奢ってくれたし」

「神様ってパスタ食べるのか……」


  さておき。

  仕切り直し。


「私は神である」

「それさっき聞きました」


  わたしはさして古ぼけてもいないが、正直もう忘却の彼方に押しやりたい最近の出来事。

  具体的には三分より短い前に起きた出来事。


  つまりは下半身を晒している私の右隣に佇む謎の神様に出会ったこと、その出来事について考えてみる。


「わたしは通報されるのだろうか?」


  道端で下半身を晒している。

  露出は露出でも、ちょっとつま先だけを露出♪

  などという雑な叙述トリックでもくだらない言葉遊びでもなんでもないのだ。

  しっかりとパンティまで脱いで、わたしは下半身を晒している。

  全く処理していない陰毛たちが本来触れるべきでは無い外界の冷たさに、毛先の一本一本を全力で抗議させているかの如き。

  そんな露出である。


「何故こんなにも、自分が下半身を露出していることについて事細かに考察しなくちゃならないのかと言うと」

「尿意を催したから、山の中でけもの道でこっそり致そうとしたところ」


  思い悩むわたしの代わりを、さながら人柱宜しく神様がになってくれやがる。


「たまたまそこがぼくのいる神域の中だったわけで。

  つまり君は神様そのものにいんにょう……」

「わーっ! やめてよこんな山深いところでセンシティブ!」


  そもそもどうしてボランティア活動をして、こんな山深いところまで出かけてこんな目に。


「いや、それはわたしが早起きしたくて寝ぼけまなこにコーヒーと紅茶とチョコレートを暴飲暴食したわけであって」

「カフェイン中毒になるよ……」


  神様に心配されてしまった。

  謎の神様に。


「そういえば」


  とりあえずわたしは下半身を清めるための適当な葉っぱなりなんなりでも探して視線をさ迷わせつつ、神様に質問でもしてみることにした。


「結局あなたはなんの神様なんなのさ?」


  ちょうどフキのように柔らかめの、なんともそれなりに都合の良い野草が見つかったため、幸いわたしは自らの汚れをそれなりに清めることに成功した。


  故に。


「ぼくはじつのところ、三日前ほどに産まれたばかりのここの守護神なのさ」


  達成感が思考力を鈍らせてしまっている。

  あるいは安心感が、人間的状態に少しづつ戻りつつある。という証明は下半身が布に覆われるという段階を、少なくともパンツとズボンの二つで確実に救われていた。


  救済の盛大さに負けて、わたしは神様の自己主張に上手く耳を傾けられないでいる。


「なるほど鬼子母神さんね」

「一言もそんなこと言っていないね、ぼくが鬼に、ましてや子育て上手なお母さん神様に見えるかい?」

「見えないねぇ」


  わたしは自らの過ちを忘れそうな速度にて即答する。

 

「どっちかって言うと独り者、それも世に広く伝播する程度には自堕落できている余裕を感じる」


  かなり失礼な物言いであることはわたし自身がいちばん強く自覚しているつもりであった。

  それでも結局言ってしまうのはただ単にわたしの性格が悪いか、あるいは神様があまりにも神様らしいから。


  安心を覚えてしまう。


「でも」


  しかしながら、聞き捨てならない新事実が聞こえてきたような気がしていた。


「神様にしては随分とお若いようで」

「うん、おそらくだけど君より年下」

「いえいえ、確実に年下ですよ」


  まさか一年も経過していないとは。


  ここまで来てようやくわたしは髪の存在を疑い始めていた。


「今ならニーチェの気持ちが分かる」

「飛躍しすぎですよ、ぼくはまだ死んでません、今のところ」


  神様は無神論者気味なわたしに向かってムキッと怒って見せている。


「神が死ぬとしたら、それは人間が再び核兵器を使用した時でしょうね」

「現実的かもしれんけど、そのぐらいじゃ完全にトドメは刺せないよ、ざんねんながら」


  さておき。


「そろそろ普通に、少なくとも日が暮れるまでには招待を教えて欲しいんだが?」

「ぼくは「ポイ捨て禁止」の神様だよ」


  割と長い時間考えていたような気もする、が実際のところは二秒くらいしか経過していなかったかもしれない。


「やっぱりあんた不審者だろ?」

「そう言うと思って神の奇跡をご用意しました」


  そんな三分で紹介し終える料理番組みたいな、と思ったが瞬間、わたしの周りの草木が春も狂いに来るほどに花咲いているのであった。


「咲いたと言っても」


  桜のそれではなく、また薔薇のように華美という訳でもなく、わたしたちの視線は地面に固定される。


「タンポポにマンジュシャゲに、あ、スミレも」

 

  神様は自慢げに花々を撫でる。


「地面を守る神なので、そうなので、地面に近しい生き物ならなんでもかんでも、です!」


  やばいやばい、割と最強格の神様だ。


  それにしても。


「まさか、自治体がお守り代わりに置いた偽物の鳥居に本物の神様が宿るとは」


  割合頻度の高めなスキープレーヤーなわたしであるため、このちょっとした道端に見慣れぬ赤色が存在していたことには、それとなく気づいていた。


「最初は誰かマックのポテトの箱を山積みにでもしたのかと思ったよ」

「油っこい勘違いだね」


  それにしても。


「やはりわたしが野グソをこしらえたからお怒りに?」


  だとしたらかなり心外である。


「古来より糞は自然物へのお返し物であると知らないんかね?」

「知るわけないじゃん、古来なんて生まれていないし、こちとら生後一年も迎えていないし」


  じゃあ、なんの用かと思えば。


「ほら、やっぱり神として生まれたからにはお布施なり、お参りなり」

「神のくせに俗っぽいなぁ」


  とはいえ東の意外と大きめな島国、オタク文化のガラパゴスに育った身、神というファンタジックにウキウキしていないと言えば完全なる虚偽報告になってしまう。


「やってやろうなじゃないの、神の指名を受けて見せようじゃないの」

「じゃあ、まずぼくの住処を壊してくれ」

「oh……???」


  なかなかに予想外の申し出である。

  神なんてものは人智を超えてこそ、という面も想像に固くは無いとはいえ、である。


「フツーは住処を荒らされて怒ったりするものなんとちゃう?」

「ぼくは最新式の神ですよ? そんな紀元前みたいな考え方なんてしませんって」


  ちなみにこの島国における神様界隈においてはマリアさんちの息子さんはまだ中堅より少し上レベルらしい。

  やはり中々神様ですらガラパゴスっているのかもしれない。


  しかしながら。


「住処を壊すって言ってもね、なんか嫌だなぁ、バチ当そう」

「持ち主が望んでいるというのに、一体どこからどのように罰を受けるおつもりで?」

「ほら、これ一応この辺の土地を管理している人達が金出して立てたものだからさ、勝手に壊すとふつーに罰金食らうから」

「オーマイガー」


  神様が一番言ってはいけないセリフをサラッと使ってしまっている。

  それでもこのポイ捨て禁止の神様は嘆かずにはいられないようだった。


「はてはて、神の威光が薄れゆく土地ではあると言うが、結局地獄から天国さえも、全ては金次第というこか」

「なんか、申し訳ないっすね」


  いやいや、と社交辞令的な返事を神様が返してくる。


「生まれた状況を恨んでも仕方がありませんよ。

  余程の強い意志と心の痛み、あるいは命の危険さえも考えない限り、誰かが誰かの考え方を強引に変えるようなことはあってはならないのです」

「かなりリアリストやね」

「ええ」

「神様なのに」

「神様、だからこそですよ」


  近所の美味しいうどん屋の話題をするかのような気軽さで、神様は近況をだべる。


「神にすら救えなくなった誰かの悲しみが、他の誰かが救ってくれるかもしれない悲しみが、いつかどこかでぼくたちに繋がってくれる」


  神様は祈るようにする。


「ぼくたちは誰かを助けられるように、いつだって神にも悪魔にも魔女にも天使にだって、祈りながら動くしかない」

「動けなくなったら?」

「その時は、大人しく死にましょう」

「厳しいなあ」


  随分と無理難題を言いやがる。


「神なので」


  神様は高望みをしているようだった。


「理想を捨てたら、後に残るのは現状維持という名の腐敗です」

「神様って腐るんだ」

「ええ、神だかこそ腐るのです」


  昨今は人間も上手く腐れなくなってしまった。記憶と情報はいつまでも残り続けて、噂や嘘が本当になって人を殺す。腐って消えることも出来なくなった。


  悪いことなのかいい事なのか、神様に聞けばわかるのか。


  それにしても。


「出来れば急いでいただきたい」


  神様は、神様らしからぬ焦燥感を顕にし始めている。


「急ぎ彼らをお助けせねば、ぼくは本当にシメられてしまいます……!」

「何が起きた」

「ぼくのオヤシロの下に、たんぽぽの綿毛が眠っていたのです」

「タンポポ」

「ええ、それでもう、それはそれはもう、たんぽぽたちは僕にキレ散らかしている。というわけなのです」


  仕方なし。植物にとって種は己の命よりも優先すべき事項。

  だが。


「神なのに雑草にビビってら」


  軽くバカにするようなニュアンスが自然と出てきてしまうところは猛省すべきであり、しかしそれでも内容のくだらなさには素直に拍子抜けしてしまう。


「当たり前だのクラッカー!」


  神様は若干苛立っていた。

  色々な意味で時代錯誤な冗談を垂れ流すほどには焦っているようだった。


「ここいらの草木花々はぼくなんかよりもずっとずっと昔からこの土地を守ってきた植物ですから」


  神様はしどろもどろ。


「人間を脅してビビらせて、どうにかこうにか社会的権力を動かそうとしたと言うのに」

「ああ、さっきの春爛漫ってメンチ切りだったのね」


  無言の圧とも言える、怖いか怖くないかと言えば、まあまあ怖かったような気もする。


「でもなぁ、わたしここいらの事情なんてほとんどしらないし。ぶっちゃけどこの自治体がどうのこうのとかほぼ無関心だったし」


  有り体に言えばよそ者で、時々ここにスキーしに来る旅行客とも言える。


「旅人というものですか」


  時々神様は、いかにも神様めいた昔懐かしい言葉遣いを自然とこぼす。


「では祈りを捧げてもらおうか」

「祈り?」

「神は祈られてこそ、とまりあさんちの一人息子さんも教えてくださいました」


  やはり彼は神様界隈の代表格として後続を教育云々。

  事情はさておき、神に祈るという行為にさほど抵抗感は覚えなかった。


「こう、ちょうど飲もうとしていたぬるくなったコーラとか備えたり?」

「なんとまあ、なんとまあ、飲料は供え物の基本点ですよ」


  評価等々の価値基準は知らないが、なんにせよこれでなにか現状が変わるのだろうか。


「にわかには信じ難い」

「ですが、あなたはぼくのことを信じているではありませんか」

「それは……あれだよ」


  わたしは考える。

  少なくとも二秒以上は時間をかけて、たっぷりと考えてみる。


「無神論者がよく言う話、「目で見たものしか信じない」だよ」

「ふーん?」


  神様はあまり上手く理解出来ていないようだった。

  仕方がない、神様も理解できないほど、この世界は何もかもが複雑すぎるのだ。


  ただひとつ、神様にもわかるのは。


「とりあえず用事は済んだから、このお供え物は回収しておいてね」

「え」

「だってここにこんな満タンのコーラ放置しておく訳にはいかない。

  なぜなら」


  彼はポイ捨て禁止の神様。

  神様は約束を必ず守るのである。

  時々理不尽で、残酷で残忍だからこそ救われるほどに、律儀なのだ。


「でもなぁ」


  にしたって、まさかお供え物をゴミ扱いとは……。


「さすが神様、無慈悲だね」

「それほどでも」


  神は喜んだ。

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