第7話:七不思議……七? 誰か助けて。
ほどなくして、会長達が生徒会室にやって来た。
「姫野魔弥、ただいま参上いたしましたっ!」
開け放った扉を吹き飛ばす勢いな会長の元気いっぱいの挨拶。見ても聞いても微笑ましくなる。
「こんにちはマヤ」
クールっぷりが際立つ鎌池さんの返事。見ても聞いても何故だか心が冷えて………じゃなくて、冷静になっていく。頭を冷やしたい方は彼女の一声がオススメです。
「お、聖十郎。逃げずにちゃんと来たな、感心感心」
会長の後ろから大翔先輩が顔をのぞかせる。
「まぁ、逃げたらどうなるか分かったもんじゃありませんからね」
というか、鎌池さんが怖すぎて逃げたくとも逃げようがなかったのが事実なのですが。まさか眼力だけで動けなくなるとは。金縛りってあんな感じだろうか?
大翔先輩はぐるりと生徒会室を見回して、
「よし、これで生徒会メンバーは全員揃ったかな。なあマヤ?」
「はいっ! 私、辻井先輩、鎌池先輩、霧耶先輩、因幡君の五人です!」
ん? 因幡君? 初めて聞く名前だな。誰だろう?
そこで会長、大翔先輩に続く形で、三人目の人物が入室した。
着崩した制服に赤っぽく染めた頭髪、そして見る者全てに喧嘩を売っているかのような鋭い目付き。
正直、あまりいい印象は受けない。特に僕にとってこういう外見の人は大抵苦手なタイプだから。今も視線が合いそうになる度僕のか弱い心臓がズキズキ痛む。
「紹介しよう。聖十郎と同じく、今日から生徒会メンバーになった因幡勇気君。マヤと同じクラスの一年生だ。だから俺らの後輩だな」
にこやかに因幡君の紹介役を買って出た大翔先輩。この人物怖じしないよなぁ………。
「………うっす」
因幡君が小さく一言。何て言うか、愛想のない。自分が言えた口ではないけれど。
「先輩……こんなチンピラモドキを生徒会メンバーに加えるなんて、何を考えているんですか」
と、鎌池さんからの冷たいツッコミ。この人もこの人で恐いもの知らずですよね。いや、『氷の姫様』の異名を持つ彼女に恐いものがあるのかどうかは甚だ疑問ではあるのだけれど。
ああほら、因幡君が鎌池さんを睨んでいますよ………ってアレ? 何で僕まで睨まれているんだろう?
「セーラ君、気持ちは分からんでもないが彼女の“人選”は確かだよ。そこら辺は俺が全面的に保証しよう」
やけに自信満々に断言する大翔先輩。鎌池さんはやや不満そうだったが、結局そのまま口を噤んだ。
「さて、せっかく全員が揃ったのだから、このまま記念パーティーと行きたいところなのだが………その前に話しておくべき事がある。今後の生徒会の方針についてだ」
「あ、それは私が―――」
「いやいや、マヤ。ここは生徒会副会長にして最上級生たるこの辻井大翔が説明役を引き受けよう。君は仮にも生徒会長、どっしり構えていればいいのさ。まあとりあえず立ったままもあれだから座りたまえ。ほら勇気も」
先輩に促されて二人がそれぞれ席についた。それを眺めて満足そうに大翔先輩が頷く。
「では諸君、まず最初に言っておこう。我々生徒会の活動において、最優先事項はただ一つ。『学園の七不思議が原因の事件の解決』だ」
七不思議? と会長を除く全員が首を傾げる。
「それはあれですか先輩。歩く二宮金次郎の像とか、夜の学校で勝手に鳴り出すピアノとか」
「そ。そんな類のあれだよセーラ君」
軽薄な笑みのまま先輩が答えるが、僕はこの学園にそんな話があるなんて初耳なのですが。
「そりゃそうだろう。わりと最近になって噂になり始めたものらしいしな。で、肝心の内容だが、今セーラ君が言ったような一般的なそれとはやや異なっているな。中にはちょっとした事件に発展する心配のあるものもある。七不思議の被害者を自称する者もちらほらいるみたいだ。まぁ今は学校側もそこまで深刻視してはいないけど、これがまた中々馬鹿にできない。小さな噂も広まれば立派な事件の一つ、大事になる前にどうにか解決せよ、というのが学園長からのご命令だ」
………そんな大事になるなら警察とかに任せた方が良いのでは? そう言ってみたところ、
「それ学園長本人の前で言ってみ? 第一メンツにこだわるあの方がそれを許すと思うか?」
…………なるほど、確かにそれは仕方ない。教育者は色々大変なのだろう。
誤解のないよう申しておくと、決してあの方が恐い訳ではない。いや、きっと、多分。
「で、どんなものがあるんですか?」
一応聞いてはみるが、七不思議と言ってもどうせ誰かのいたずらだろう。そもそも有名な銅像が歩く話だって、信憑性が大いに欠けるというか―――
「んー? そうさなぁ……例えば、歩く金剛力士像」
「今までお世話になりました」
速やかに退室しようとする僕だったが、いつの間に移動していたのか扉の前で鎌池さんが仁王立ちで文字通り立ちふさがった。ああ、唯一の脱出ルートが………!
「アッハッハッハ、そうビビりなさんな聖十郎。たかが銅像が動く程度じゃないか」
「そりゃビビりますよ! 何ですか金剛力士像って!?」
歩く二宮金次郎だけでもちょっとあれなのに、それが金剛力士に変わってしまったらもう勝てる気がしない。あの顔が迫ってくるところを想像しただけで恐怖で涙が出そうだ。大体何で金剛力士像がこの学園にあるんだ! 帰れ! お寺とかに即刻帰れ!
「まぁ安心しろ聖十郎。流石に金剛力士像は冗談だから」
「あ、そうなんですか。良かった~」
大翔先輩の言葉にほっと胸を撫で下ろす僕。
「本当は走る血みどろ阿修羅像だから」
僕の安心を返して欲しい。
何故血みどろ。しかも走っちゃうのかぁ……………………よし。
「あの」
「どうしました先輩?」
「一っっっっっっっっっっ生のお願いですから辞めさせてください」
「却下」
頭を下げて懇願してみたが、あっさり撃沈。僕の一生も安く見られたものだ。少なくともかけている眼鏡分の重みはあるというのに。というか何故あなたが答えますか鎌池さん。散々人のことボロクソ言っていたくせに。さては僕の不幸を喜んでいるな? ……………いや、彼女はそんな女の子ではないか。多分。
「ははっ、そう絶望することはないさ聖十郎。所詮は嘘か真かも不確かな『噂』だ。本当に起こるかどうかも分からない。このまま何事もなければそれでいいだろう?」
「…………まぁ、それは」
確かにそうかもしれないが、しかし何だろう。何だかどうしようもない不安に苛まれて仕方がない。
そして実際、僕のこの不安は数日としない内に大当たりになってしまうことになる。
………………神様、僕に何か怨みでもあるのですか。