第2話:霧耶聖十郎という人間
一人称って難しい……。
霧耶聖十郎は普通の高校生ではない。
普通でない、というフレーズから、超能力者とか勇者とか宇宙人だとか悪魔だとか前世に何か秘密があるとか、そういう風に解釈してしまう人は僕の身近にも結構多い。
まあそれはしょうがないと思う。人っていくつになってもそういうファンタジックと言うか夢ある方面に物事を考えてしまうものだし。
とまあなんやかんやベラベラと語った上でもう一度言おう。
僕、霧耶聖十郎は普通の高校生ではない。
第一に、とてつもなく貧弱だ。
腕たてふせをすれば確実に肩が外れ地獄の痛みを味わう事となる。持久走では五分も走れれば調子がいいくらい。生卵を一つ割るのにも握力がないため一分というある種膨大な時間を要する。
断言しよう。僕の拳は殴れば(僕の)骨が折れる破壊力だ。 …………カルシウム摂らなきゃな………。
そんな僕が中学生時代『もやし』という渾名をつけられかけた伝説は記憶に新しい。
第二に、この容姿。
容姿にコンプレックスを持つ人なんてこの世にはごまんといるであろう。僕こと霧耶聖十郎もその中の一人で自分の容姿にどこまでも絶望した時期があった。
普段からかけている伊達眼鏡。 ………なにゆえ伊達か。だって別に僕は目が悪い訳ではないからだ。自慢じゃないが両目とも2.0を誇る。
そんな僕が伊達眼鏡をかける理由など単純なもので、母から『あんた顔が見られたもんじゃないんだから眼鏡とかかけてちっとは頭良く見せてみな』とか辛辣なアドバイスを頂戴したためだ。先程述べた容姿への絶望も母様のこのお言葉のため。 …………正直邪魔なだけな気がする今日この頃。
身長は平均的。体は細い。男としてどうなのかってくらいに細い。そして脆い。普通の人の体の耐久力が割り箸並なら僕の体はストローレベルだ。
そしてこの長ったらしい前髪。
その気になれば両目とも隠せてしまえそうなこの髪のせいで周囲からは『ネクラ』との印象が持たれている。そうでもない………と自分では思っているのだがどうだろう?
そして第三に、僕のポジションだ。
上記の通りな僕は周囲からろくな扱いを受けない事が多々ある。下級生からはほとんどパシリとして見られ小学生からは石を投げられる。そんな事はざらだ。
さて、なんやかんや語った上で問おう。
…………………これ、普通の高校生でしょうか?
僕の認識としては普通の高校生はこんなに弱っちくないし容姿にコンプレックスを持っていたりもしないし立場が弱かったりしないと思うのだけど何か間違っているでしょうか。それでも『いや、アンタは普通だよ』と言えるお方、今すぐ僕の前にきてください。頑張って睨み付けてあげますから。
しかし僕はこんな事じゃへこたれない。確かに駄目要素のオンパレードだがそれでも僕はたくましく生きてるつもりだ。情けないなあ、とか悲しい、とかいう感情はほとんど捨ててきた。
そしてこれまでは、そんな自分のおかげで『地味に』『目立たない』を信条として生きてきたのだ。
なのに、
だというのに、
なんでこうなるかなあ………………。