竜の息吹1
「アロイスー!!」
私が連れ去られていた間にも竜騎士部隊が動いてくれていたのか、竜の渓谷の海からの玄関口の浜辺にはずらりと竜がたむろしていて、なんだか壮観だった。
……いやこれ、竜騎士だけじゃなくて、野生の竜もいない??
改めて見渡すと、ものすごい数の竜がいる!
そんなことを思いながら、私はアロイスの腕の中に飛び込んだ。
アロイスが私の全身を抱きとめてくれる。アロイス、アロイスだ!
「エミ、どうやってここに!」
「精霊さんに頼んで飛んできた! 急いでアロイス! ゲイルとナルシスと手を組んでたの、私を前に連れ去ろうとした人攫いだった! シュミットとも繋がってる! 船で逃げ切られる前に早く追いかけてきて!」
私の言葉にアロイスの顔色が変わる。
それから顔を上げて騎士たちの方を向き――その異様さに私も息を呑む。
騎士たちが一斉に身構えていて、私に鋭い視線を向けていた。
え? なんで?
騎士たちの中には一人だけ、頭を抱えてため息をついている人もいる。ベランジェだ。
そこで私は自分の失態に気がついた。
……あれ? 私もしかしてやらかした?
この場で私を知っているのは、アロイスとベランジェの二人だけだ。つまり、ここにいる騎士たち、というかアロイスもベランジェもだと思うけど、彼らにとって私は空から降ってきた謎の女。
私、やっちゃったかも。
「あ、アロイス! あの、その! こんなところに急に現れて不自然だと思うけど!! でも信じて! あのね、私ね、実はねっ」
「エミ、大丈夫。分かってるから、落ち着いて」
「アロイス?」
アロイスがもう一度私のことを抱きしめてくれた。
それから騎士たちからかばうように、私へと背を向けて。
「この子は信頼できる子です。剣を抜かないでほしい」
「んなこたぁ言っても、アロイス。そいつ、今どこから現れた? 竜もいねぇ、何もねぇところから現れた。そんな怪しいやつの話を真に受けろと?」
ウスターシュの視線が鋭い。模擬戦とかのような好戦的な視線とは違う冷たさがある。そんな目を向けられたことがなくて、身体が縮こまりそうになる。
でもそんなウスターシュ相手にも、アロイスは一歩も引かなくて。
「信じてください、としかいえません。だってこの子は――この女の子は、僕の大切なルイズです」
「え」
驚いたのは、騎士たちだけじゃない。
私も。
私も、驚いた。
「どうして……どうして、アロイス、私がルイズだって……いつから……」
「ごめん、最初から。君ったら、隠す気ないからさ」
「うそっ! だって私、こんな格好だよ!? なんで!?」
「そりゃ分かるよ。生まれたときから一緒なんだから。それに大切な子のことは、自然と分かっちゃうんだよ」
こんな時だっていうのに、顔に熱が集中しちゃう。
なんてこと! すっごい殺し文句なんだけど!!
思わず唖然としていれば、アロイスとウスターシュの間にベランジェが割って入ってきた。
「あー、すまん。こいつがルイズだっていうのには、俺も同意。後、セザール隊長も知ってるはずだ。だろ、エミ? いや、ルイズって呼んだほうがいいか」
「ベランジェも知ってたの!? えっと、その、ベランジェの言うとおりだよ、セザールはちゃんと知ってる……」
というか、セザールには自分からバラしたっていうね!
セザールの名前が出てきたおかげで、騎士たちの雰囲気も若干和らぐ。それでも、私への警戒心は全部は解かれないようで。
そりゃ、そうだよね。女の子がいきなり現れて竜です! なんて言っても信じられないよね。
どうしよう。
こんなところで、こんな押し問答しているうちにも、あの密猟者たちは海を渡っていってしまっているのに。
私がやきもきしていると、ふと後ろから声が聞こえた。
『竜王の雛よ、無事だったか』
「潮竜の長老! 私のこと、分かるの?」
『然り』
驚いた。一匹の潮竜が進み出てきたから何事かと思ったら、一発で正体が見破られてしまった。シーザーといい、長老といい、長生きしてる竜の勘の鋭さに舌を巻く。
と、思ったら。
『えー、ルイズなの? えー、ちっちゃーい』
『まぁまぁ、こんなこともあるものなのね』
「ベル! ヴィー!」
火竜のベルや潮竜のヴィーを筆頭に、顔見知りの竜たちがぞろぞろ寄ってきて。
「待って待って! みんな待って! アロイスつぶれちゃうよぅ!」
アロイスも驚いて、ぎゅうぎゅうおしくら饅頭になる前に、私ごと竜たちの間をすり抜ける。
「みんな、私のこと、分かるの?」
『分かるよー。そんな人間の言葉に重ねて思念波飛ばすような竜なんて、ルイズしかいないでしょーが』
潮竜のペィルに、以前シーザーに言われたことそのまま言われて面食らう。私のそれ、完全に癖なんだね!?
竜たちに向き合ってると、アロイスが頭上から声をかけてくる。
「エミ? 竜たちはなんて?」
「私がルイズだって気づいてくれたみたい。私、人間の言葉を話しながら、竜の思念波飛ばす変な癖があるみたいで……皆それで気づくって言ってる」
私ってばバレバレじゃん! アロイスにもベランジェにもバレバレで、竜にもバレバレ! 恥ずかしい!
「アロイス、本当にその子がルイズなのかい……?」
「信じられん……が、髪色が、珍しいな」
ヴィーの騎士であるヴィヴィアンや、ペィルの騎士であるプロスペールも、ウスターシュと並んでこちらに視線を向けてくる。
「あのね、みんな、私がルイズだって信じてくれなくてもいいの。この身体は幻みたいなものだから、時間が経つと消えるんだ。だからその前に、これだけ伝えさせて」
それだけ前置きして、私は皆に伝える。
私を乗せた船のこと。船に乗る人員の数。捕らえられた竜と、卵の数。
「私の力だけじゃ、竜たちと卵を全部は守れない。あいつら、私が何かしようとすると卵を割ろうとするし、竜たちを海に沈めるって脅すの」
私の言葉に、騎士たちも各々、神妙な表情になりだす。対する竜たちは、すでにもうお怒りのようで殺気立ち始めていて。
「お願い、アロイス。私を、私たちを助けに来て。私を、追いかけてきてくれる?」
アロイスに抱きついて、上を見上げる。アメジストの瞳が私を見下ろす。
アロイスは力強く頷いてくれた。
「もちろんさ。エミ、ルイズ、待ってて。必ず助けに行くから」
「うん……!」
良かった、これでなんとなかりそう……!
そう思った、矢先。
精霊たちに袖を引かれる。
船のほうが大変、大変だよ、と伝えてくれる精霊たち。
私は船を遠視して――ブチギレそうになる。
「あんの最低男……!」
「エミ?」
「アロイス、ごめん、船に戻らなきゃ! 私の意識がこっちにあると、あの子を守れない!」
「どうしたんだっ、何が起きてるんだ!」
アロイスに言われ、私は声をはりあげた。
「卵が孵化したの! あいつら、雛の耳を焼こうとしてる!!」
騎士たちの顔色が一斉に変わった。




