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8.王宮のアトリエ

 半月後、ジウスに案内されたフィリアは王宮の離れにいた。彼女の前には錬金術師のアトリエがある。


 見た目には単なる一軒家だが、中身は最新鋭の機材が揃っている。ぴかぴかの作業台にフラスコ類、ピンセットや大火力のコンロ。


 居住性も悪くない。シャワーやキッチン、ふかふかのベッドが置かれた仮眠室も完備されていた。


 アトリエに入ったフィリアが周囲を見渡す。落ち着いて研究ができる素晴らしい環境だった。


「王宮にこれほどのアトリエが……?」

「国王陛下が急遽用意してくださった。今、我が国の宮廷錬金術師はフィリアを除いて他国出身者しかいないからな……。ちゃんと宮廷で働いてもらうための措置だ」

「そうでしたね、他の方は王都にはおられないのでした……」

「研究結果が出れば問題はないとはいえ、連絡の都合もある」


 ジウスはやや渋い声を出した。きっと他の宮廷錬金術師は王宮とあまり連絡を取らないのだろう。


(わかります、研究優先の気持ち……)


 夜会に出ていないフィリアも似たようなものである。少しだけ視線をそらした。


「ここなら薬草園や鍛冶場、図書館にも近い。研究も捗るはずだ」


 立地も非の打ち所がない。王宮内の薬草園や鍜治場なら、さぞ高品質の薬草や鉱物が置いてあることだろう。


「いいですね、気に入りました。ちなみにですが、ここに住むことは可能ですか?」

「……不可能ではないが」


 少し面食らったジウス。まさかいきなり住むとは思っていなかったらしい。


「いつも思っていました。警備上、仕方ないとはいえ入門の手続きが面倒だなと」

「わりとはっきり言うな。それは私も思わなくもないが……」


 魔術と錬金術が存在する以上、王宮の警備は厳重である。特に入る場合については持ち物検査も実施されるのだ。


「王宮には住み込みの人が数百人はいるはずです。駄目でしょうか?」

「研究のためだ、すぐに許可は下りるだろう。だが、そうすると君のおじいさまのアトリエはどうする?」


 ジウスはてっきりフィリアは家のアトリエはアトリエとして使い、ここには通いで来るものだと思っていた。


「……卒業です。あそこは元々、おじいさまのもので、私は借りているだけでしたから」


 シェナに頼んで手入れはしてもらうが、自分はもう使わないほうがいいとフィリアは思った。一人前になったら独立する。それは錬金術師なら当たり前のことだ。


「きっとおじいさまが生きておられたら、宮廷錬金術師になった私を追い出したでしょうし。自立しろって」

「かもしれん、確かに」

「誰か親戚で使いたい人がいたら、譲ろうと思います。かつての私のように」


(錬金術師として、ちゃんと独り立ちしないとね)


「……しかし、ここに君が住むのか……」

「もう私も大人ですから。野宿ならともかく、これくらい家具があれば楽勝です」

「まぁ……その言葉を信じよう」

「それにここなら、ジウス様も会いにきやすいですよね?」


 口にして即座にしまった、とフィリアは思った。だがジウスは聞き逃すことなく、わずかに口角を上げる。


「いえ、やはり今のはなしで」

「なぜだ? 接点が増えれば婚約の説得力も出る。あまり顔を合わせないでいるのも不自然だ」


 どうやらジウスは契約婚約のためだと思っているらしい。嫌がられなかったと思う反面、フィリアはやや複雑であった。


「……そうですね。説得力のためです、はい」

「そうだ、周囲に疑われては意味がないからな」


 ふたりは頷きあう。そう、これはあくまで契約なのだ。

 フィリアはジウスの後ろ盾を得て、名誉を回復する。ジウスは宮廷錬金術師の成果を手にする。


(これは私にとっては得しかないのだから……!)


 窓の外は日が傾きつつある。今日は忙しく、ゆっくりと食事もできていない。

 思えば少しお腹も空いてきた。

 アトリエでふたりきりになっていると、昔のことを思い出してしまう。


 ――子供の頃、先生とはアトリエでよく昼食を一緒に食べてたわ。


 懐かしい。あのときはジウスの語る錬金術の話を熱心に聞きながら、パイやクッキーを食べていた。


 ふたりきりで最後に食事をしたのは、いつだろう?

 婚約してからの食事でも、どちらかの親族が立ち会ったりだった。なので、ふたりきりの機会はなかったのである。


(一緒に、簡単にでも食事くらいは……)


 迷惑に思われるだろうか。でも、ふとフィリアには確信があった。


(あの時間は先生もきっと楽しかった、はず)


 なので、フィリアは踏み出すことにした。思ったことは試さずにはいられないのがフィリアである。


「どうですか、ここで夜食などは」


 それは間違っていなかった。


「いいな。今日の夜はちょうど時間が空いている」

「それは良かったです。では、また夜に」


クールに応じるフィリアであったが――。


(よし……!!)


内心では盛大に喜んでいた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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