7.婚約の一報
王宮での報告や手続きが終わると、ふたりは婚約の諸々を進め始めた――フィリアの両親も婚約の意義はすぐに理解したらしく、無条件に賛成してくれた。
(でも契約婚約だと知ったら、卒倒してしまうかもしれないけれど)
だが、両親も全てに納得したわけではなかった。夕食の席で婚約の話をしていると、フィリアの両親は何度も首を傾げて――。
「うーむ、とはいえなぜ婚約まで……?」
「最近は接点もありませんでしたのに。どこで親密になったのでしょうねぇ」
「怪しい……」
不審がられたのも、やむを得ない。普通なら成立するはずのない婚約だったからだ。
それはフィリアもよくわかっている。これは諸々の事情を考慮した契約婚約なのだから。
「……もしかしてお父様とお母様は、私が惚れ薬でも使ったと思ってるのかしら」
「お嬢様、深くは考えないようにしましょう」
シェナがこそっと伝えてくる。
「とにかく嬉しいのです、お父様もお母様も……」
「……そうね。今にも踊り出しそうだわ」
(もしかしたら、私よりも両親のほうが喜んでいるかもしれないわね……)
ジウスのほうは事前に両親から了解を取り付けてあったらしく、話はまたたく間に進んでいった。
そしていざ公表されると、宰相ジウスと公爵令嬢にして宮廷錬金術師フィリアの電撃婚約は貴族社会を駆け巡ることになる。
貴族達はこの格好のネタに飛びついた。
「全ての糸はジウスが引いていたのではないか?」
「あの婚約破棄から布石を?」
もちろんゴシップ好きな貴族や商人だけではない。久方ぶりの宮廷錬金術師と宰相の婚約は、宮廷の勢力図にまで影響を及ぼしかねない。
モードにとっても、この婚約は信じられないことであった。
謹慎中のモードは屋敷で、父親のスレイン大公から厳しい目を向けられていた。
「やってくれたな、モード。あのフィリアは宮廷錬金術師にはなれない、かつてそう俺に報告したな?」
「……それは……」
「なれもしない宮廷錬金術師の勉強に熱中し、社交を疎かにしている。だから婚約破棄したい、そういう話だったはずだ」
スレイン大公はたるんだ顎に手を当てた。
「それなのに……試験に合格したどころか、あの若造と婚約だと? こうなるとわかっていれば、婚約破棄を許すんじゃなかった」
「……っ!」
父親からの失望の眼差し。モードは戦慄した。スレイン家はいまだにこの大公が権力を握っている。
「すでに貴族の間では、お前の見る目がなかった――という評判が立ち始めている。もちろんあの若造の派閥からだが……しかし事実だ。完全には払拭できまい」
「ぐっ……しかし、あのフィリアとジウスがうまくいくとは思えませんが?」
「うまく行かなくとも、破談にさえならなければマイナスにはなるまい。お前はあの若造の手腕を知らんのだ」
スレイン大公はこれみよがしにため息をついた。
なんとはなしに嫌な予感がモードの背筋を震わせる。まだスレイン家の次期当主は決まっていない。
モードには何人か弟がいる。誰もがそれなりに優秀だが、年長なのと母親の家柄を考えれば、まず自分が次期当主だとモードは思っていたのだが……。
「本当は次の婚約で、お前を次期当主に指名するつもりだった。しかし次期当主については、当面は白紙とする」
「父上、それは……っ!」
モードは愕然とする。それは少し前まではありえない話であった。
「今のお前に、価値はない。それともお前にあの若造をどうにかできるのか?」
相手は宰相である。まだ当主でもないモードでは勝負にもならない。
だがモードはもうひとつ、父親から試すような雰囲気を感じ取った。もし完全に見限られているのなら、弟の誰かを次期当主にするだろう。
つまりまだ、終わったわけではない。崖っぷちではあるだろうが。
(今、俺がするべきことは……)
「父上……今回は私の失態です。ですが必ず、父上の期待に応えられる人間になってみせます」
婚約破棄の代償を受け入れる他にない。モードは苦々しく唇を噛みながら、父親に頭を下げたのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
次回から錬金術、グルメのお話になっていきます……!
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