52.最後の作戦
なれずしを忌避した、というわけではない。匂いや見た目からするとウォッシュタイプのチーズに近いだろう。熟成の香りは通向けと言われてるが、ジウスやフィリアはよく慣れている。
手が動かなかったのは、ギラスが明らかに余計な感想を拒む雰囲気だったからだ。
(思ったよりもこの御方は……勝負に拘っているのかもしれない)
このような勝負を持ちかけたから、互いに不満を抱かせないようにしているのか?
それとも単に勝負事にはこうなのか、そこまではわからない。
「……いかがでございましたか?」
口火を切ったのはスレイン大公であった。ギラスは軽く頷き、
「うむ、満足した。魚もこのように変化するとは驚きだ。宰相殿のほうも楽しみだ」
と、にべもない。表情は楽しげなものから変わっていないが、瞳は真剣だ。
「では、早速ご用意いたしましょう。フィリア、よろしく頼む」
「はい……!」
そこでギラスが初めてフィリアを直視した。
「おお、そなたが新しく宮廷錬金術師となられたフィリア殿か。噂は我が国にまで届いている」
「浅学非才の身にて恐縮するばかりでございます」
「ふふっ、貴殿の専門は植物学と大臣たちが言っていた。なにゆえ、この場に宰相殿が招いたか――俄然興味深い」
フィリアは軽く目を瞬く。自分の専門まで把握しているのか。
フィリアは驚きながらも冷静に前へ出る。シェナがクローシュを外した。
「ほう……」
クローシュの中身を見たギラスが顎を擦る。
そこには中型の酢飯入り木桶、それにネタが並んでいる。だが、まだ酢飯とネタは握られてはいなかった。
ここまで下準備ができていれば、寿司まで時間はかからない。ソースをかけるようなものだ。
フィリアが意気込む。寿司は多分、こうしなければうまくはならない。
「それは私が今からこの料理――寿司を完成させるからです!」
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