4.報告
だが、全てが丸く収まったわけではなかった。
エルドナ家に対する嫌がらせはずっと前に止まったものの、フィリアの評判は下落し続けていたからだ。
試験合格の翌日、フィリアは報告のため久しぶりに王宮へ参上する。錬金術で作られた魔導車に揺られながら、フィリアは貴族社会のことに考えを向けた。
(仕方ないわよね、試験で忙しかったのだから。モードは……なにか不始末で謹慎中らしいけれど)
しかし社交界で圧倒的に顔が広いのはスレイン家のほうである。フィリア自身が弁明できていない以上、スレイン家の言い分のほうが説得力がある。
(宮廷錬金術師になれた以上、実害は私の婚期くらいかしら。せいせいするけれど)
荘厳な純白の王宮の前に降り立ち、フィリアは軽く息を吐く。王宮は今も錬金術師によって日々、増改築を繰り返していた。
それほどまでに昨今の錬金術は社会そのものを変えようとしているのだ――そして今度はその一端をフィリアも担うことになる。
王宮では案の定、フィリアは奇異の目で迎えられた。宮廷錬金術師の合格については、国にも同時に連絡が行っているはずではあったが……。
とはいえあれこれ聞いたりされないのは、むしろ気が楽ではあった。人だかりができるよりは遥かにマシである。
そのままフィリアは王宮の貴賓室に通される。この辺り一帯は最新鋭の冷暖房器具が備え付けられており、かなり快適である。
(さて報告相手だけど……錬金術を所管している、魔術省の官僚のどなたかでしょうね)
久方ぶりの宮廷錬金術師の誕生とはいえ、合格通知は昨日の今日である。王族や大臣クラスが出てくるはずがない――そう思っていたフィリアであった。
「……その顔、私が来るとは予想していなかったようだな」
貴賓室には予想外の大物、宰相ジウスがすでに待っていた。
フィリアは驚愕して貴賓室に駆け込む。まさかジウスがいるとは思っていなかった。
「ジウス様、直々に……! お待たせしてしまい、申し訳ありません」
ジウスはフィリアに腰掛けるよう促す。
「いや、本来は魔術省の役人が対応するはずだった。急遽、変わってもらっただけだ。久しぶりだな、フィリア」
「ええ、お久しぶりです。ジウス様もお変わりなく」
整った顔立ちはいつも通り、よく見るとわずかに口角が上がっていた。
「まずは宮廷錬金術師の合格、おめでとう。報告は受け取っている。国王陛下もお喜びだ」
「ありがとうございます。身に余る光栄です」
その後もふたりは社交的なやり取りを交わし、今後の段取りを話し合った。話しが終わりに差しかかり、ジウスはフィリアをじっと見つめた。
なにか言いたいことがあるとき、ジウスはよくこうする。短い間ではあったが、フィリアの教師であった頃からのジウスの癖であった。
「……どうされました?」
ややあって、ジウスは口を開いた。
「私は君に謝らなければならない。私が――君に錬金術師を目指してはどうかと言ったのだから」
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