39.ワーテリオンの王子
一週間後、ウィード王国から遠く離れた異国の地。
浅黒い肌に煤けた金髪、豹を思わせるしなやかな肉体を持つワーテリオン王国の王太子キラスはウィード王国からの書状を読んでいた。
打ち寄せる波の音としっとりとした潮風が、座椅子に身体を預けるキラスの短い金髪を撫でる。
最初は何事かと書状を読んでいたキラスであったが、読み進めるうちに口角が自然と上がっていた。
「はは、ウィード王国は面白いことを考えるな」
「殿下の来訪前にどのようなことを?」
同じく座椅子に体重をかけた、老いた側近が気安そうにキラスに問う。
「饗応役を増やしたい、とな。スレイン大公家が加わるらしい」
「ふむ……? 確か今回は異例ながら三大公家ではなく、宰相のジラス殿が饗応役のはずですな」
「向こうに放った密偵からもそう報告が上がっていたが、どうやら横槍が入ったらしい」
悪びれることなくキラスが言い放つ。無論、密偵とはいえ合法的に情報や噂を集めるだけだ。ウィード王国を刺激するのは本意ではない。
あくまで先方の懐である王都に入るゆえ、安全のためである。
ナルンやジウスもワーテリオン王国の密偵は当然把握しているが、違法行為に及ばない限りは彼らも干渉することはない。もしウィード王国の王族がワーテリオン王国の王都に向かうなら、同じことをするからである。
「ははぁ、ジウス殿だけの手柄にはさせるものかと……そのようなことですか」
「多分そうだろうな。ここ数か月、宰相派と大公家は動きを活発化させて互いを牽制している。我らの訪問も政争の具になるというわけだ」
「楽しそうですな」
キラスはぐっと背を反らせ、書状をひらひらと風にはためかせる。
「今回の難題はそれなりの意図がある。それに反しない限りは、どうでもよい。饗応役が増えるのはむしろ望ましいことだ」
「どちらを勝たせるかで、我らもまた存在感を示せるでしょうな」
「スレイン大公家の力は広範囲に及ぶ。ワーテリオン王国の食料事情にも影響力があるのだからな。とはいえ、どうやら息子が不出来なようだが」
「大公家を勝たせれば、貸しは大きいでございましょう。しかしジウス殿もまた、大変な切れ者だと」
「勝敗は純粋に料理で決める。だが、条件は経済力のある大公家に有利だろう」
老側近が頷きながら、キラスの意を汲む。
「もしジウス殿が勝てる料理を用意したときは――ウィード王国内の力関係の認識を改めねばなりませんな」
「そういうことだ。さて、どのような答えが出てくるのか。実に楽しみではないか」
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