34.王弟ナルン
数日後。
ジウスは王弟で外務省を管轄するナルンと定例の会議をしていた。
外務省と宰相府の高官が集まった会議室は重々しい雰囲気であった。それはおそらく、会議室でもっとも上席の人間――ナルンゆえだろう。
鋭い眼光に短くまとめられた黒髪。細面で痩せてははいるが弱々しい印象はない。王宮では黒狼とも呼ばれている実力者であった。
そのナルンが会議室に良く通る声でジウスに語りかけた。
「雑多な議題はこれだけだな。ジウスは仕事が早くて助かる」
「お褒めに預かり、光栄でございます」
「お前の父も仕事は出来たが、お前はそれ以上だ。ガルシア家のおかけで、我が王家も安泰だ」
「過分のお言葉にございます」
「お前を妬む声もあるが、心配しなくても良い。お前ほど仕事が出来ない連中は眼中にはない」
ナルンはお世辞を言うような人間ではない。これは言葉通り、しっかり働く限りは用いるということだ。
「ところで先日話した件だが、正式にワーテリオン王国の王太子がウィード王国に来訪することになった。他国への通り掛かりではあるが、来月の予定だ」
「ワーテリオン王国の王太子殿ですか。かような立場の御方が、ウィード王国に来るのは初めてですね」
ワーテリオン王国とウィード王国は直線距離で言えば、それほど遠くはない。しかし間に魔獣の群生地を挟み、長年に渡って国家間のやり取りがほとんどないままだった。
それが近年、群生地が大きく減少したことで往来が増えた。ワーテリオン王国の王太子外遊もその一環として決まったものだった。
「ふむ……変わり者との評もあり、太子となってからも日が浅い。今回の外遊で、なるべく太子としての座を固めたいところだろう」
「ということは、わかりやすい外交的成果も期待できるということで?」
ジウスが確認するとナルンはほんのわずかに頷いた。
「手土産があれば、向こうも手土産を差し出すだろう。そうした話ができぬ御方ではない、ということだが……」
「何か懸念がおありでしょうか?」
「王太子殿は大変な美食家らしい。これまでもたびたび、難題を諸外国に出してきたようだ」
「なるほど……。ワーテリオン王国とウィード王国はある意味、ライバル関係でもありましたからね。何か言ってくる可能性があると」
ふたつの国は今でこそ友好的だが、数百年前まで遡ると数々の諍いがあった。戦争とまでは行かないものの、近隣であるがゆえの衝突は避けられなかったのだ。
ナルンは鋭い眼光で会議室を見渡した。
「そうだ。詳細は追って連絡があるだろう。もし難題が来たときには、その時は我が国の威信を賭けなければならぬだろうな」
そこまで言い切り、ナルンは息を吐いた。
「さて、国外といえばもうひとつ重大な議題がある。この美食の件とも無関係ではないが、食料品の価格についてだが――」
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