33.夢の終わりはまた夢へ
「はぁ、うっ、はぁ……」
ジウスの背中を見送りながら、フィリアはうめいた。自分で自分のしたことが信じられない。
(なんということをしてしまったのでしょうかっ……)
こともあろうに軽くとはいえ、ジウスへ抱き着いてしまった。完全にアルコールと楽しい食事のテンションでおかしくなっていたのだ。
(ああっ……! でも、嫌がられては……なかったですよね?)
爽やかな夜風がフィリアの髪と頬を撫でる。ジウスの背中が完全に見えなくなり、フィリアも少しだけ落ち着いてきた。
「はぁぁ……」
「……もうそろそろ屋敷に入られてはどうですか、お嬢様」
「ひぁっ!? シェナ……! びっくりしたわ!」
フィリアの後ろにシェナがぬっと現れていた。めったに出さない悲鳴を上げ、フィリアは飛びのく。
「それほど驚かれなくても……普通に門から歩いてきましたが」
「全く気付かなかったわ……」
「そんなにジウス様に見入っていたのですか?」
「……婚約者だもの。悪いかしら?」
「いいえ、とても良いことだと思います」
シェナはにこにこと微笑んでいた。フィリアが少しだけ口を曲げる。フィリアもこうしたやり取りができるのはシェナだけだ。
「お嬢様、それでお食事はいかがでしたか?」
「良かったわ、とても。海産物が多くて、インスピレーションもばっちり。お酒もたくさん頂けたし」
実際、気兼ねなく楽しめるということでは最高だった。シェナ以外の人とこれほどお酒が飲める日が来るとは思わなかった――元婚約者もフィリアがお酒を口にするのを好まなかった。
それは多分、彼がフィリアほどアルコールに強くなかったからだ。いや、彼はかなりアルコールに弱かった。
「それはなによりです。では、ドレスの反応も悪くなかったのですね」
「ええ、そうね……。個人的には、着慣れていないから変な感じだけど」
「たまに違う側面を見せることは、異性を惹きつけるのにも効果的です」
むふーとシェナが胸を張る。こうした機微について、フィリアよりもシェナのほうが断然、経験豊富だった。
しかしそれよりも確認しなければならないことがフィリアにはあった。シェナはどこら辺から自分を見ていたのだろうか。
「……ところでシェナはどこから私を見ていたの?」
「それはもちろん、おふたりが門前に来てからです。お帰りになるのをお待ちしていたのですから」
「…………」
しれっと答えるシェナ。
ということは、ほぼ最初から――ジウスへ抱き着いた自分も見られていたということだ。
「……あぁぁ……!」
「婚約者同士なのですから、別に何事もないと思いますが……人目もありませんでしたし」
「あなたが見ていました!」
「私ごときは無きものとして……」
「うぅ……」
婚約者であれば、確かに変なことではないのだけれど。理屈ではそうでも、どうにも気恥ずかしい。
「まぁまぁ、お風呂も沸いておりますよ。さっぱりして就寝されてはいかがですか?」
「……わかったわ、はふ……」
「ぬるめにしておきましたから、ご負担も少ないかと思います」
「ええ、ありがとう……」
頬が熱い。けれどそれを言うと、さらに頬が熱くなりそうだった。
とりあえずシェナの言うとおり、お風呂に入って落ち着いたほうが良さそうだ。
フィリアはそのままお風呂に入り、気分を入れ替えて就寝した。
「本当に今日は色々なことがあったわ……」
思い出しながら、ふかふかのベッドに横たわり――フィリアは気持ち良く眠りへと落ちていった。
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