23.ちょっとした勘違い
「どうして、あなたがこちらに?」
フィリアは首を傾げる。
(……魔剣の件でアルバーンさんに用かしら?)
さきほどのジウスの話では、アルバーンが魔剣製作者の探索をしていた、ということだった。
慎重なジウスのことだから、念の為アルバーンに確認しにきたのだろう。
だが、それにしてはジウスの表情が妙だった。
普段あまり見ない焦りようだ。
ジウスがフィリア達に近づいて来る。険しい顔のジウスに、アルバーン以外の職員が後ずさりする。
思わずフィリアもさがりそうになった。
「……体調は良いのかい?」
「えっ、あっ……大変、好調です……」
そこでフィリアは稲妻に撃たれたように気が付いた。そうだ、ジウスは自分が体調不良だと思っているのだと。
もしかしてアトリエの黒板を見てないのかもしれない。その可能性は大いにあった。
「本当に! 大丈夫ですので……!」
今度はジウスよりフィリアが慌て始めた。ジウスに心配をかけるつもりはなかったのだ。
「本当かい? それなら、いいんだけど」
しかしジウスはまだ信じてなさそうな目でフィリアを見た。だがすぐに息をふぅと吐く。
「まぁ、君に健康を説くのは医者に薬を勧めるのも同然か」
「……フィリアさん、まさか体調が優れなかったんですか?」
ジウスの雰囲気が緩んだところで、アルバーンがおずおずと口を挟む。
「ああ、いえ――昨日の引っ越しで、少し疲れただけです。もうすっかり回復しましたので」
「なるほど……確かにここに来てからも、体調が悪そうなご様子はありませんでしたね」
ちらりとアルバーンがジウスを見る。どうやら助け舟らしいとフィリアは理解した。
「ところで、今こちらの東方料理を作ってもらったのですが、ご興味あります?」
「……ふむ、米を使った料理か」
米は少ないながらも、王都で食べることができる。
さすがに初見ではなかった。フィリアが補足する。
「それに大豆のソースを合わせたもので、焼き色をつければ完成になります……!」
「この香ばしい匂いは、その大豆ソースか……悪くない、食欲をそそられる」
ジウスの様子を見て、アルバーンがさらに切り出す。
「ほう、それなら――試食してはどうでしょう? 次の4個はまだ焼いておりませんが、やり方はさきほど見て承知しました」
アルバーンの言葉に職員達が頷いて同意する。どうやらフィリアが任せるまでもなく、自分達でやってみるつもりだったらしい。
それではやってもらおう、とフィリアはアルバーン達におにぎりを焼かせてみた。調味料はすでに混ぜ合わさっている為、焼くだけだ。
鍋に残った4個のおにぎりを載せ、再び加熱する。
「これぐらいなら、私達にも出来ますよ!」
言葉通り、アルバーンは適切なタイミングでおにぎりをひっくり返す。きちんとフィリアのやり方を見ていたらしい。
「ほぉ、良さそうな焼き色だ」
「上手ですよ……!」
「このくらいで、いいですかね? あまり焼き過ぎるのはダメでしょうし」
「そうですね……さっきより、心持ち長く焼くようにしてもらえれば。それで完成です」
そして1回目より少しだけ長く焼いてもらい、焼きおにぎりが完成した。十分な出来栄えである。これで一旦、おにぎりは在庫切れだ。
「ナイフとフォークで食べるのだな」
「ぱりっとしてるので、食べやすいはずですよ」
まだフィリアは小腹が空いている。焼きおにぎりを見ると、どうにも食欲が抑えられない。
(もう1個くらい余裕で食べられますね。もらっちゃいましょうか……)
そんなことを考えたフィリアに対し、アルバーンがにっこりと微笑む。
「あの丘の向こうに綺麗な風景が堪能できるベンチがありますよ。おふたりで行ってみてはいかがです? もちろん焼きおにぎりも一緒に」
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