22.焼きおにぎり実食
フィリアが焼きおにぎりを皿へとよそうと、アルバーンと職員達がまじまじと完成品を見つめる。
「これが焼きおにぎりですか。なるほど、香ばしい醤油の匂いがいたします」
「とりあえず4個できましたので、試食してみましょうか」
フィリアはさらに4枚の小皿に、焼きおにぎりをひとつずつ移し替えた。
(本来なら熱々の焼きおにぎりを手づかみで食べたいところですが、それはしないほうがいいでしょうね……)
薬草園の職員は着ている服こそほぼ同じ作業服だが、身に着けているアクセサリーがかなり高価である。貴族出身者が多いと想定せざるを得ない。
だとすると、やはり手づかみは好ましく思われない。
「オーソドックスに、ナイフとフォークで食べましょう」
「承知しました。てっきり形からして、そのまま手で掴んで食べる料理なのかと思いましたが」
「……諸説ありますが、まずはこの国のマナーに従い、ナイフとフォークを使いましょう」
まずはお手本を見せるため、フィリアから試食に入る。とはいえ、難しいことは何もない。
ナイフで焼きおにぎりの端を切り落とし、フォークの背に載せる。そのまま落とさないように、口元へと運んでいく。
焼いた醤油の匂いは、格別だ。さらにわずかにゴマの香りも加わっている。
アルバーンも焼きおにぎりの切れ端の香りを堪能しているようだった。
「焼きひとつでここまで変化するものなのですね。これは実際に見ないとできません」
「味も確認しましょう」
待ち切れないフィリアは、ぱくりと焼きおにぎりを口に含んだ。
かりっとした表面とほんのり温かい内側。もう少しだけ米を温めてもよかったが、これはこれでよい。
(やはり複数の旨味を組み合わせると、美味しいですね……!)
焼いた醤油と昆布出汁、ゴマの風味が混ざり合い、重層的な旨味を生み出していた。素材を活かすというのが東方料理の考えだが、しっかりと実践できている。
(はふはふ……私、お腹空いてたんですね……)
「うーむ、優しい味ですね。醤油の濃さがちょうど良く薄まっています。昆布出汁もあっさりめですが、これにはよく合いますね」
フィリアはさっそく2口目も放り込む。
水以外、朝から何も口にしていなかったので、思ったよりもお腹が空いていたのだ。その空腹には焼きおにぎりはちょうど良い。
3口目も食べると、もう残りは少なかった。あと1口で1個分終わりだろうか。
薬草園の職員も焼きおにぎりを美味しく食べているようだ。あっという間になくなってしまった。
「これなら冷めたご飯の活用として、すごく良いかも……」
「何でも温め直すと食感と風味が損なわれるけど、焼きおにぎりなら大丈夫だな。ちゃんと新しいご飯と比べてみたい」
アルバーンもぺろりと食べ切ったようだ。
「うーん、これは保存食としても良さそうですね。紙や海苔で巻けば、携帯性も高いでしょう」
まだ焼いてないおにぎりは4個残っていた。
(私が焼いてもいいですが、アルバーンさんと職員の皆様にやってもらってもいいですね。そうすれば次回からは私抜きでも出来るでしょうし……)
そうすればいずれ、薬草園の人達が他の東方料理も作り出すかもしれない。実に喜ばしいことだ。
(私自身の調理の楽しみは横に置き、布教に邁進しましょう!)
「では、概要は理解されたかと思います。ぜひ残りの4個のおにぎりはアルバーンさん達の手で――おや?」
調理場の扉が慌ただしく開かれる。そこから職員に連れられた、焦り顔のジウスが調理場へと入ってきたのだった。
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