21.『昆布出汁の焼きおにぎり』
焼きおにぎりは東方料理の本において、取り回しの良いファーストフードとして紹介されている。
作り方は醤油と米を混ぜ、三角に丸めて焼く。これで完成であるが、実家では禁止されてしまった料理である。
(私がうっかり、素手で持って食べると言ってしまったばかりに……。あの頃の私は浅はかでした……)
パンもちぎって食べるのがマナーである。全体を持って口に運ぶことは、どんな料理でも許されない。
ということで、おにぎりは実家では禁じられた。
今のフィリアはあの頃よりも賢い――素手で持って食べる料理と言うつもりはなかった。
これなら、おにぎりもパンとほぼ同じのはず。単に珍しいかどうかの差でしかない。
調理場に米の入ったボウルを持った、どこか不安そうな職員が現れる。
「完全に冷えてしまった米ですが、本当にこれでよろしいのですか?」
「ええ、台に置いていただければ」
ボウルには700グラムほどの米が入っていた。
その後、瓶詰めの醤油とゴマ、昆布も到着し、必要なものは揃う。
見ると、いつの間にか、十数人の職員が調理場に詰めかけていた。
アルバーンがやや気まずそうに、
「……見学希望者なのですが、構わないでしょうか? 邪魔はさせませんので」
「大丈夫です。とはいえ、それほど大掛かりな料理ではありませんよ」
十数人の前で料理するのは初めてだった。これまではせいぜい、シェナとメイド数人の前だけで料理していたのであるが。
しかし不思議と緊張はなく、むしろ高揚感が先に立った。醤油を使えるのだ。
「さて、まずは昆布で出汁を取ります」
鍋に水と小さくした昆布を入れ、お湯を沸かす。その間にフィリアは醤油の瓶を手に取り、蓋を開けてみた。
濃厚な大豆と旨味の香りが漂ってくる。
「うーん、素晴らしい……」
醤油の匂いを嗅いだのは初めてだが、十分に食欲をかき立てられる。フィリアはちょっとだけ醤油をスプーンに出して、味見もしてみた。
舌と頭を刺激しながら、塩分と旨味が突き抜けていく。完全な発酵調味料だ。
フィリアが味見をしたのを見て、アルバーンが声をかける。
「かなり塩気があって、難しい調味料ではありませんか?」
「醤油は大量に使うわけではありません。オリーブオイルと同じように使うと、確実に問題が起きます」
ウィード王国でもっとも一般的な調味料はオリーブオイルである。しかし醤油とは用途が少し異なる。醤油はつけダレとしても良いが、加熱するのが最適な調味料なのだ。
「この醤油はかなり濃厚ですので、大さじ1杯半程度でもいいでしょう……」
鍋が煮立ち、昆布の出汁が取れた。火を止めて出汁をボウルに移す。
「使うのは少しだけなので、余った分はどうぞ他の用途にお使いください」
フィリアは小さじ2杯の出汁をすくい、冷めた米に振りかけた。さらに大さじ一杯と半の醤油を加えて、よくヘラでかき混ぜる。
「その米の量に、それだけの調味料で良いとは」
「香りも楽しむ料理ですので」
調味料と混ぜ合わせら、米を三角に握っていく。とりあえず小さめにしておこう。
てきぱきとここまでこなしたら、あとは焼くだけである。フライパンに菜種油をしき、ゴマを振りかける。
そこにおにぎりを置き、あとは焼いていくだけだ。
数分後、豊かな香りが調理場に立ち昇る。
「おお、これが醤油を使った香り……」
「食欲をそそられる!」
職員の感想を聞きながら、フィリアは満足そうに頷いた。
「それほど加熱する必要はありません。焦がしと焼きの間ぐらいで止めます」
ひょいひょいとヘラでおにぎりをひっくり返す。おにぎりには見事な焼き目がついていた。
さらに数分後、もう一度おにぎりをひっくり返し――フィリアは焼きおにぎりを皿へと移した。
まさに完璧。フィリアが自信満々に宣言する。
「さぁ、これで香ばしい焼きおにぎりの完成です!」
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