15.魔剣加工の主
「それで、もし生きていた場合はどうなされますか?」
なんとか気を取り直したジウスが確認する。
「この剣は戦闘用に使える魔術品です。本来であれば、関係部署にいくつもの届け出が必要ですが」
「うむ、それはそうだが……しかし、それらの剣は貴族や大商人にしか出回っておらん。わしが調べた限りでも、悪用された形跡はない。罪に問う必要はなかろう」
ジウスは内心、ほっとした。その言質がもらえれば、色々とやりようはある。
「わしは心配なだけだ。もし病気であれば、薬草園から薬を届けさせよう。とにかく安否が知りたいのだ」
「承知いたしました。では、探し出しても私は報告だけということで」
「それで構わん。これまでの調査はアルバーンが取り仕切っていた。詳しくは彼に聞け」
「はい、資料を拝見いたします」
ガルフがジウスの手にある魔剣を見つめながら、首を傾ける。
「もし貴族や本業の鍛冶師であれば、隠して売っている意味がわからん。大々的に自分の名前を出せばいいからな。恐らく高齢の平民のはずだ、間違いない」
「……恐れながら、そうとも限らないかと。意外と若手の職人が作った品かもしれません」
ジウスは一歩、踏み出すことにした。竜の巣に忍び込んでいる気分である。
それに対し、どこか遠い目をしてガルフが語る。
「わしにはわかるのだよ、ジウス。その魔剣に込められた研鑽と執念が……。生半可な年数と覚悟で作れるものではない」
「…………」
フィリアは錬金術に熱中しすぎて、婚約破棄にまで行き着いてしまったのだ。ガルフの見立ても間違いではなかった。
「おっと、そろそろ軍務省での会議だ。悪かったな、ジウス。では人探しの件、頼んだぞ」
ジウスは剣を鞘に戻し、ガルフへと返却する。
「いえ――ご期待にそえるよう、全力を尽くします」
「うむ、朗報を待っている」
ガルフの執務室から退出したジウスが、足早に宰相府へと歩いていく。その途中、ジウスは周囲に人がいないのを確認してから、ふーっと息を吐いた。
「さて、どうしたものかな……」
◇
フィリアの魔剣加工、それは5年前の不純な動機から始まっていた。
「どうしても『東方料理研究学会』の論文集が欲しい……!」
挿絵付き、怒涛の800ページにも及ぶ研究成果。だが個人で買うにはかなりの高額だった。
当時のお小遣いでは全然足りず、フィリアは魔剣加工を始めたのだ。最初はちょっとだけ……だったが、自分の好きにできるお金は魅力的過ぎた。
もちろん法的には問題ない。フィリアの曽祖父がその辺の許可や届け出をしていたからだ――50年前のものであるが、有効である。
フィリアがつらつら考えながら、魔剣の設計図を書いている。シェナが大荷物を抱えて、一礼した。
「では、そろそろ私は屋敷へと戻ります」
「ありがとう。助かったわ」
正直、フィリアがいなくても実家は回る。しかしシェナがいないと実家は大変なことになるだろう。
とはいえ、これからは週3でシェナが訪れ、アトリエに必要な物資を届けてくれる手はずになった。
(お父様やお母様から完全には信頼されてない気もするけど、まぁ……いいでしょう)
シェナが帰ってからも、フィリアは剣を確認しながら設計図を書き続けた。金属に対する魔力加工はやり直しが面倒なので、事前の設計がとても大切である。
「えーと、ミスリルの含有率は10%、柄のほうが鉄分が高くて、これだと雷撃系は無理ね……」
剣そのものは新入り騎士が少し背伸びすれば、買える程度のものだ。
「ん……?」
と、そこでアトリエの扉がノックされる。確認すると――扉の前にはジウスが立っていた。
昨日の今日ではあるが、会いに来てくれたのだ。
しかもふたりきりだ。飛び上がるほどに嬉しい。
「今、開けますっ!」
軽やかにジウスを迎え入れるフィリア――剣と設計図はそのままである。
「悪い、突然来てしまって」
「そんなこと、気にしないでください。……?」
言いながら、フィリアは首を傾げた。なんだかジウスから、わすがに疲労の気配を感じるのだ。昨日の会議が長引いたのだろうか?
「もしかしてお疲れですか、先生……?」
「んっ? いや、わかるのかい?」
意外そうな顔をするジウス。当人は隠して切っていたようだ。フィリアも不思議だった。
これまでジウスのそうしたことは、あまり分からなかったのに。
「なんとなく、ですが……。休まれていきます?」
フィリアがアトリエの中に案内する。そこでジウスは、作業台に剣と設計図が置かれているのを確認した。
もはや確定である。ジウスがぽつりと呟いた。
「ごめん、その前に仕事の話をしたいんだ」
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