表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】冷徹宰相に溺愛された錬金術師はのんびりと暮らしたい~婚約破棄された令嬢でしたがグルメ生活で幸せです~  作者: りょうと かえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/56

13.ワインの熱

「フィリアはそんなにお酒が強かったのかい?」

「ええ……高揚する感覚はあるのですが、それだけです。気持ち悪くもなりません。魔力操作がうまいほど、酔いづらいみたいな話もありますが……」

「体内のアルコールをすぐに分解するっていう話だね……あり得るかもしれない」


 立ち上がっていたジウスがさっとキッチンの棚に向かう。彼はワイングラスをふたつ取り、席に戻った。


「じゃあ、乾杯しようか」

「……はい。ところで先生はどのくらい飲めるのでしょう?」

「ん? ああ、ボトル10本くらいは」

「おおっ……リヴァイアサン級ですね」


 なんでも飲み込んで喰らおうとする、水棲魔獣のリヴァイアサン。大酒飲みに対してよく使われる比喩である。


「もちろん普段はそこまで飲まないよ。万が一にでも仕事に支障が出るといけないから」

「そうですね……。王族との会合をすっぽかしたら、大変なことに」

「はは、そういうこと。でもフィリアが飲める人で良かったよ」


 ジウスがナイフを取り出し、ぽんっと赤ワインのコルクを抜く。


(お父様が必死に練習していた、ナイフによる栓抜きを……!)


「はい、フィリア」

「頂戴します」


 ジウスは流れるような動きで、フィリアと自分のグラスにワインを注ぐ。芳醇な香りが漂い、この赤ワインがかなりの高級品であるとフィリアは悟った。


「改めて、錬金術師としての新たな門出を祝して」

「新たな門出を祝して」


 赤ワインで乾杯する。とろりとした酸味と淡い渋みが喉を潤しながら流れていく。重厚な香りをしているが、思ったよりも遥かに飲みやすい。


「うーん、美味しい」

「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。さて、野菜はどうかな?」

「意外とノリがいいですね……」

「地方を巡回してるときに、色々と食べてきたからね。ハンバーガーも好きだ」


 王都だとハンバーガーは大衆料理で、貴族がおおっぴらに食べる料理ではないとされる。

 しかしジウスにとっては好物のようだ。食に対する許容度が広いのは、フィリアにもありがたい。


 野菜も煮えてきているので、ふたりしてフォークですくっていく。


 ニンジンの濃厚な味と清涼感のあるレモンがばっちりと合う。合間に牛肉をくぐらせれば、完璧なサイクルである。


 ジウスはマッシュルームが気に入ったようだ。明らかに取る頻度が高い。


「いいね、好きな順番で食べられるのが。ビュッフェも自由に見えて制約があるし」

「時計回り、温かい料理と冷たい料理は別の皿、違うソースの料理も別の皿……」


 フィリアがリズムをつけながら応じる。子供の頃、両親から言い渡されたビュッフェのマナーである。


「このしゃぶしゃぶには可能性を感じる。豚肉も合いそうだ」


 肉の旨味が出汁に溶け出してくると、さらに味わいが増してくる。


「ええ、本場では白身魚なども食べているとか」

「魚にレモンや酢は合うからね。もちろん牛肉との相性は素晴らしい」


 ふたりともぐいぐいと食べ進め、赤ワインを飲んでいく。酒豪が並んでいるため、ボトルはすぐ空になりそうだった。


「追加のワインもありますよ? さきほど食料と一緒に頂きました」

「それはありがたいな、さすがにこの料理にボトル一本じゃ飲み足りない」


 ふたりで3本の赤ワインを飲み切った頃には、ちょうど具材もなくなっていた。


「ふぅ……恵みに感謝を」

「恵みに感謝を」


 食べ終わりの決まり文句を言い、椅子に寄りかかる。量はそれほど多くなかったのでまだ食べられそうだが、このぐらいで止めておくのがいいだろう。


「実に美味しかったよ。東方の食も非常に奥深い」

「いえいえ……」


 時刻は8時を少し回ったくらいである。夜は夜だが、王宮にはまだ人の気配が残っていた。


「……ごめんね、宰相府に戻らないと」


 申し訳なさそうな顔をして、おもむろにジウスが席から立ち上がった。


「あっ、先生……」

「ここに来る前に急遽、会議の予定が入ってしまった。ナルン殿下の召集だから、行かないと」


 壁掛け時計を見上げたジウスが悲しそうに首を振る。


 ナルン殿下は王弟のひとりであり、外務省や魔術省を管轄していた。切れ者だが職務に厳しいとの評は、フィリアでさえも知っている。


「……仕方ありません。先生は国にとって大事な人ですから」

「本当にごめん。この埋め合わせは――必ずする」


 ジウスがフィリアの席に近付き、そっと肩を抱く。自然な仕草だったが、フィリアはかちこちと固まってしまう。


「今日は素敵な料理を、ありがとう」


 これまでにない、しっとりとした声音が響く。でも不思議と苦しくはなかった。

 少し離れるだけなのだ。寂しいけれど、フィリアにはまたすぐに会えるという確信があった。


 そばにいるジウスとアルコールの熱が、フィリアの身体を暖めていた。


「はい……先生もお仕事、頑張ってください」

「ああ、それじゃ――おやすみ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


おもしろい、続きが読みたいと思って下さった方は、

ぜひともブックマークや↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価をよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 個人的には雰囲気いい感じで好きだなー 面白いしもっと面白く成りそうな感じがある [気になる点] 錬金術とグルメをどう合わせてどんなバランスで行くかが気に成る
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ