烏天狗の討伐とイェムラ覚醒と天から男襲来
イリア一行は山の麓にある小さな洞窟の中にある祠までやってきた。
「ここが烏天狗が封印されている祠だ。」
そこからは微かに邪気のようなものを感じる。烏天狗は相当ストレスが溜まってるようだ。前回、吸血鬼が倒してからずっとなはずなので、復讐心に燃え上がってるのだろう。
しかし、イリアからすると、そういう復讐心や破壊衝動を持つ者から発せられる邪気などは心地いい。
「随分心地いいところね。」
「む?そうなのか?」
「我はそこまで心地良いとは感じないですが陛下は神格の都合上、そう感じやすいのでしょうな。」
「それで、封印はどうやって解くのかしら。」
「それは我が封印士から代々受け継いできた詠唱でのみ解くことが出来る。力技で解くことはできん。」
「それじゃあ後ろで見ているわね。でも封印を解いたら直ぐに離れなさい。あなたを家まで転送してあげるわ。」
「では封印解除を始めるぞ。」
『我悪鬼の封を解く者なり。我悪鬼を鎮める者なり。空を支配するは古の烏天狗。月夜に照らさるるは腐敗の影。大和に混沌を広めし偶像の塊よ。今解き放たれよ。』
祠を縛っていた魔力を帯びた金属製の鎖が1本ずつ切れていく。その度に邪気がどんどんと漏れ出していく。
「イェムラ、一応山を覆うように氷の結界を貼りなさい。」
「かしこまりました。」
イェムラは鎖が全て切れる前に結界を張った。半透明なため、景観を崩すことは無い。
そして、鎖が全て消えると同時に猛烈な量の邪気が外に放たれる。
幸い、結界で護っていたので外に漏れることは無かったが、結界内部が邪気で充満している。
シスイが気分の悪そうな表情になり始めたので、家まで転送した。
「あとは…頼むぞ…。」
「えぇ、わかったわ。」
「ガーーハッハッハッハッハッ!忌々しい封印からやっと解放されたわい!封印されてから400年、練りに練り続けた邪気を解き放つ時じゃ!ところで、お主、何者じゃ。耳長族もおるではないか。」
「そうねぇ…吸血鬼って言えば分かるわよね…?」
すると、烏天狗の表情がどんどんと曇っていく。
「ほぅ、お主は400年前、ワシを倒し封印したやつとは違うやつよの。」
「私はまだ3歳よ。」
「とてつもなく若いのぅ。赤ん坊ではないか。」
「でも安心なさい。帝位だから強いわよ。」
すると、相手を獲物と見定めるような目を見せる。
「ならば小手調べといくぞ。」
烏天狗は両手に持っていた扇を軽く振る。
すると、台風クラスの暴風が吹き荒れる。
あまりの風の強さに少し目を抑える。
「ほれほれ、まだそよ風ぞ。」
烏天狗自体は大して強くない。
だけれども、どこまでの強さの風を操れるのか知りたくなってきたわね。
「【概念の権能】」
これで風のせいで目が開けれなくなることがないようにした。
「もっと強い風を起こしてみせなさい。」
「まぁこの程度であれば問題はなかろう。ならばもう少し強めでゆくぞ。」
先程よりも強めの風がきた。イェムラは冷気を纏うことで風を相殺しているようだ。
イリアは風の中、真っ直ぐと歩く。猛烈な風のせいで宙に浮いて吹き飛ばされることがないように。
「ふむ、まだ耐えうるか。では次の風に耐えれるかのう。以前私を討伐した吸血鬼ですらこの風で大怪我をしていたからのう。」
すると、さらに強い風が吹く。イェムラは冷気を体に覆っては風により冷気が剥がされを繰り返している。何とか怪我はしていないようだが、相手もまた本気では無いため、怪我をする可能性がある。
イリア自身は【概念の権能】で全て無効化しているので気にしていないが、仲間が怪我をしまくるというのはいただけない。
なので、【概念の権能】をイェムラに付与しようかと考えていると。
「陛下、我もさらなる成長をしたいと思っております。討伐は陛下がしてください。風に負けぬようにしたいのです。」
「そう…。わかったわ。なら、怪我を負っても気にしないから、体力管理は気をつけておきなさい。」
「はっ…。」
「お話は終わったかの。耳長族はそろそろ限界と見た。今から本気の半分程度の風を起こすとするかの。」
突然、今まで吹いていた風の数十倍の強さの風が吹く。大地がめくれ上がり、山が削れていく。削れた大地は宙を舞い、何度も結界と衝突する。その際に砕けた砂塵は結界内へと分散していく。
視界がどんどん悪くなっていく。
イリアとしてはやつに本気を出させてから倒したい。イェムラの成長のためにもだ。しかし、今イリアの居る足場もいつまで持つか分からない。先程違う足場が吹き飛ばされてしまった。
「どんどんゆくぞ〜!」
依然、風が強まっている。山が原型を留めないくらいの被害を生み出している。イェムラの方をみると体中から血を垂れ流しており、必死に耐えている。何かしら覚醒すると嬉しいのだが。
そして、ついにイリアが立っていた足場も吹き飛ばされ、イリアは宙に浮く。
翼を広げ、その場で静止する。烏天狗の気分を感じるに、まだ上があるのだろう。そろそろイェムラが張った結界にヒビが入り始めている。
なのでイリア自身が張り直すことにした。
「ほぅ、おなごめ、吸血鬼とは似つかぬ翼を持っておるな。」
「でも素敵な翼でしょ?ちゃちなそよ風では傷1つ付かないのよ?」
「そろそろ、本気を出すとするぞ!【剛風】」
すると、先程までの風とは一線を画す程の強さになる。イェムラも体全体が傷だらけになる。
イェムラは魔神の中ではまだ弱い方なのだろうか。どんな風の中でも弓を射るくらいになってほしいものだが…。
すると、イェムラの中の魔力が少し黒くなり出す。異変を感じた烏天狗はイェムラに対して【剛風】以上の風を叩き付ける。
パキ パキ パキ
イリアも感じ取る。イェムラの周りの風がどんどんと凍りついていく。気体がどんどんと固体に変わっていくのだ。
(そろそろ、覚醒の時かしら。)
すると、先程まで吹き荒れていた風が突如として止む。意図していなかったのか、烏天狗は突然のことに驚き、周りを見回す。
イリアの方も見ると、平然としているので奴の仕業ではない。となると、アイスエルフの仕業だ。
「何をしやがった耳長族め!」
先程より表情が楽になったイェムラは淡々と告げる。
「我は貴方様のおかげで覚醒することが出来ました。【氷雪の魔神】、改め、【全気の魔神】と名乗らせてもらいます。空気、神気、魔気、聖気は今や我が手中。烏天狗よ、陛下のための供物となりなさい。」
突然、空気の変わったイェムラを見て烏天狗は更に驚く。そして供物扱いされている事に腹が立つ。
「最大威力の風を食らうがいい!【神風之舞】」
【剛風】の数千倍もの強さの風をイェムラに向けて放つ。その威力たるや、星を砕くほどである。
しかし、イェムラはその風を、ふーっと息を吹きかけることにより相殺した。
突然の事により呆然と立ち尽くす烏天狗。
(今です陛下。)
「覚醒おめでとうね。」
イリアは烏天狗の背後に転移し、片手で心臓を貫く。握りしめた心臓を握り潰すことにより、烏天狗は灰になった。
「あら、これは食べれないのね…残念。」
『イリアのレベルが1から101に上がりました。』
「イェムラ、九尾討伐の時も頼むわね。」
「かしこまりました。」
そう言ってダンジョンコアを破壊しようとした時、上空から何かが高速で接近してきた。
「【特異点】の女!【天空機関】の名において始末してやる!」
降りてきたのは、白い翼を4枚生やした金髪の、左目に縦の傷がある男だ。
白装束を着ており、左胸に何かのバッジだろうか。六芒星のマークが描かれている。
「おやつの時間かしら。」




