ヤマトの国への到着と迫る危機
イカダで随分と進み、霧が濃くなってきた。今は前がほとんど見えない感じだ。
「本当に道は合っているのかしら。」
「合ってるでござるよ。人々の喧騒の音が聞こえてきたでござるな。」
イリアは耳を澄ます。
確かに、はるか先から人の声が聞こえている。真っ直ぐ行けば確かに着きそうだ。
「霧が濃くなっていくと、我は故郷を思い出す。」
「イェムラの住んでいたところは霧がよく出ていたのかしら。」
「そうですね。我の住んでいたところは霧が立ち込め、冷えた樹海でしたな。」
「いつか行ってみたいわね。」
「我が案内しましょうぞ。」
そんな話をしているうちに岸辺が見えてきたようだ。恐らく転生前に見たであろう袴を着た刀を腰に携えたが何人か話しているのが見えた。
「あの人達は何をしているのかしら。」
するとヤマトが答えてくれた。
「あれは港の警護する侍でござる。帯刀しているのは荒くれ者とかを斬り伏せるためでござる。」
「そう。」
するとヤマトは港の2人の侍に合図を送る。
港に居た2人はこちらのイカダの存在に気づき、合図を受けて港付近に何やら棒を海に突き刺した。
「あれは何かしら。」
「簡単に言うなら手すりみたいなものでござる。あの棒を掴みながら港の方へと歩くのでござるよ。」
そして、ヤマトが港に到着する。
すると、侍が何かを言っているようだ。
「ヤマト殿、シスイ殿が本邸にてお待ちしています。何やら急を要する事があると。」
「分かったでござるよ。おっと、紹介を忘れていたでござるな。こちらはSランク冒険者のイリア殿とその付き添いのアイスエルフのイェムラ殿でござる。丁重に扱って欲しいでござるな。」
「かしこまりました。」
「じゃあ某はシスイ殿に会ってくるでござる。が故に、食の間に案内してやって欲しいでござる。」
「かしこまりました。では、イリア殿、イェムラ殿、こちらに。」
2人の侍は2人を案内する。関所の門を超えると、家が立ち並ぶ。横にズラっと並んでおり、瓦屋根と言ったところか。だが店の名前は割と近代的なのか、『洗濯屋』『酒屋』『服屋』『定食屋』『鍛冶屋』などの看板が店の外に置いてある。接客はそこまで無さそうだ。
そして、2人は食の間という所に向かう。向かう先に1つの広い屋敷がある。
「ここは当主であるシスイ殿の屋敷でございます。ヤマトの国は現在、【北のシスイ】【西のトオル】【南のアスカ】【東のテツジ】の4人が治めています。中央にはヤマト全体を治めるセイメイ殿が住まう城とその周辺に城下町がございます。」
「説明感謝するわ。」
そして2人の侍は、シスイ殿の屋敷の門兵と話し合う。そして何かしらの了承を得たのだろう。私達が入ることが許可された。
中に入ると、和風の屋敷だろうか。金魚が泳いでいる鯉、松の木が植えられており、盆栽だろうか。それがいくつか見られる。
「ここからは靴を脱いでくださると助かります。」
「分かったわ。」
イェムラとイリアは靴をぬぐ。
2人はそれぞれ空間の中に自分の靴を入れる。
床はキシキシとなるが、それはあくまで私とイェムラが歩いた時だ。ほかの人たちが歩いても全然ならない。歩き方になにかコツがあるのかもしれない。
「こちらが食の間でございます。」
中を覗くと、机がある。黒樫の木を使った机があり、その周りになにか床になにか置いてある。
「床に置いてあるのは何かしら。」
「あれは座布団でございます。座る際は座布団の上で座っていただければ。」
「分かったわ。」
イェムラが先に座布団の上に座る。何も罠などが仕掛けられてないことを確認した後にイリアが隣に座る。
「では少々お待ちいただけますでしょうか。その間にお茶、そして菓子類を持ってまいります。」
食の間には2人だけになった。
イェムラが何かを言いたそうだ。
「何か話してくれないかしら。暇なのよ。」
「申し訳ございません。我はこのざぶとんと言うものに座った事がなく、少し戸惑っただけです。」
「私はそこまで苦には感じないわね。」
(これは単純に前世で和室に入った事や座禅なんかをしたことがあるからかしらね。)
そして2人は少しの間、ヤマトのことを待つことになった。
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「失礼するでござる。」
そう言って戸を開ける。正座をし、手を膝に置き軽く頭を下げる。
そして、頭を上げて部屋に入り、目的の人のところまで向かう。この際、足音は立てていない。
「来たか。ヤマトよ。」
「定期報告に来たでござる。」
「固くならんでいい。私とお前の仲ではないか。無礼など関係ない。」
「そうでござるな。なら言葉も崩させてもらうでござるよ。」
「相変わらずござる口調だな。昔から変わらんやつだ。」
「これはもはや癖となったでござるな。して、急を要する事態とは何が起きているでござるか?」
「それがだな。ヤマタノオロチの動きが活発になっているようだ。昨日もヤマタノオロチの毒の吐息で城下町の商人が8人死亡した。」
「まさか、地上に降りてきている可能性があるでござるか?」
「普通ならばそれは有り得ない。だが、意図的に誰かが誘導している可能性もある。」
「西と関係が悪化していることも起因しているでござるか?」
「それは無い。とは言えないのが現状だ。ヤマタノオロチが地上に出ればここら一帯が毒に汚染されてしまい、土地を放棄せねばならん。」
「まずいでござるな。拙者も討伐に協力するでござるが。」
「それをお願いしようとしていたところだ。お主ひとりで可能か?」
ヤマトは考える。
そして、すぐに答えを出した。
「その事なのでござるが、2人ほど外から来ているのでござる。まぁ某が連れてきたでござるが。」
「なに?その2人は安全なのか?我が国に危険が及ぶ可能性はあるか?」
「それは接し方次第でござるな。下手に傍若無人に振る舞えば、何をされるか分からないでござる。だが、彼らの目的はヤマタノオロチ、九尾、烏天狗の討伐にあるのでござる。目的が同じゆえ、快く協力してくれるでござるよ。」
「それは頼もしいものだ。今から会いたいのだがどこで待たせている?」
「食の間で待ってもらってるでござる。」
「あまり待たせすぎは良くないな。今から向かおうではないか。」
「分かったでござるよ。先に言っておくことがあるでござる。」
「まだ何かあるのか?」
「片方は王位吸血鬼、もう片方は魔神でござる。それだけは理解して欲しいでござる。」
「なんと!?凶獣と魔神か!となると、あれか、帝位吸血鬼への進化を目論んでいるのだな。」
「目的はそうらしいでござる。行き方が分からなかったが故に某が連れてきたでござるよ。民に対する横暴はしないように忠告はしておくでござる。あと、ついでにでござるが民に、2人に対して悪行をしないように伝令を出して欲しいでござる。」
「当然だな。あいわかった。それじゃあ向かおうじゃないか。」
シスイとヤマトはイリア達が待つ食の間に向かうのであった。




