大枢機卿護衛任務5日目 中編
中編も長いです。
一方、イリアはというと、聖国ヒストリアから海洋国家テスタレスへ聖女マシェラ・ハーゲンが訪問していた。
「お久しぶりでございます。テュータレス様。」
「以前会った時より成長しておるな。それに神聖力も増しておる。言伝に聞いたが転移魔法を完全に使いこなせるようになったんだの。」
「はい、脳への負担があるものの転移魔法を無事完全掌握することができました。もちろん神聖魔法も転移魔法に負けじと鍛錬を積んでおります。」
「儂も生涯現役のつもりなのでな。まだまだ鍛錬を続けておるぞ。」
「いつかは人間英雄と呼ばれてみたいものですね。」
「わしもそう思っているんだがの。」
(ふーん、人間英雄って一種の称号みたいなものなのね。)
「ところでですが、テュータレス様の後ろの女性はいったい。」
「こちらはワシの護衛を務めておる。」
「あら自己紹介はそれだけかしら。まぁ今後お世話になるかもしれないわけだし一応言っておくわ。Sランク冒険者で【鮮血姫】のイリアよ。よろしく頼むわね。」
「Sランク冒険者の方でしたか。」
マシェラはイリアからテュータレスへと顔を向け、今日の日程について話し始める。
「今日の予定としましては教会長ゼイン様との会談の後、歓迎会を執り行います。その後、テュータレス様と二国間の今後の態勢を協議します。そして冒険者ギルドへも顔を出す予定です。冒険者ギルドに関しましてはそちらのイリア様にご同行願えますか?」
ゼインは頷いた。
テュータレスも問題ないと答え、頷いた。
イリアも頷きはした。
そしてゼインとマシェラは会議室へと向かう。それぞれ付き人を連れており、4人での入室となった。歓迎会まで特にやる事が無くなったイリアは残り少なくなってきた盗賊の肉体を食べる。
ボリボリと噛み砕き、血飛沫が起こる。
辺り一面がまるで虐殺でもあったかのように血だらけになる。
「そろそろストックが無くなってきたわね。補充したいところだけど、手っ取り早い方法はないかしら。」
すると、頭の中に機械音が響く。
『帝位吸血鬼から真祖吸血鬼への進化方法を説明します。①レベルを1500まで上昇させること。②無垢なる生命を10万根絶させること。③2体眷属を作ること。』
「あら、手っ取り早い方法が早速見つかったわ。でもこれはあくまで帝位吸血鬼になってからの話なのよね。今までの生命殺戮も人数に加算されるかしら。」
『加算されません。』
「そうなのね、まぁ別に構わないわ。ガーネシアを傷つけた奴らの街を滅ぼせばある程度の頭数は確保できるわね。」
「どんな根絶の仕方でもいいのかしら。」
『構いません。』
それならやりようはいくらでもある。ただ向こうの出口とやらの先に何があるのかはまだ分からない。荒地の所にひとつぽつんと入口があるのかもしれないし、都市部のど真ん中にあるのかもしれない。あの感じだと、殺した2人はあちらの世界ではトップクラスの実力なのだろう。だが上はまだ居るはずだ。メルームのレーザーにも対応してきたのだから対応を諦めて滅びを受け入れざるを得ないほどの絶望感を与えた上で根絶させたい。そのためにはいくつかやっておく事がある。まずは帝位龍血鬼への進化だ。特に進化条件が記されていないが予想としてはレベルを1000まで上げればいいのでは無いだろうか。
「帝位龍血鬼への進化はレベル1000にするだけでいいのかしら。」
『帝位龍血鬼への進化条件は2つあります。①レベルを1000まで上げること。②いずれかの魔物を討伐し、捕食すること。九尾、烏天狗、八岐大蛇』
「あら、それらの居場所が分かったりするのかしら。」
『ヤマトの国の三大山にそれぞれ鎮座しています。オオタケ山に烏天狗、マヤ山に八岐大蛇、イカシ山に九尾です。それぞれの山の守り神として扱われております。400年ほど前に烏天狗が討伐され一体の帝位吸血鬼が誕生しています。1200年前に八岐大蛇が討伐され、後に真祖吸血鬼へと進化しました。どちらも現在生存しております。九尾は未だに討伐されておりません。過去その2体の吸血鬼は九尾に挑みましたが討伐に失敗しています。』
「長々と説明ご苦労さまね。それなら私は三体全部食っちゃおうかしら。それぞれ地球の日本に出てくる妖怪だし。」
『ヤマトの国は現在鎖国をしております。入国する際、【光忍】を頼ると良いでしょう。』
「へぇ…私がまだ接触のないSSランク冒険者の【光忍】にねぇ…。彼がヤマトの国出身なのかしら。」
『彼はヤマトの国の忍びの里出身という所までは判明しております。』
「今度行ってみたいわね。」
そんなこんなでひとり会議をしているうちに歓迎会の時間が近づく。ドアをノックする音が聞こえたので返事をする。すると、テュータレスの秘書が現れる。
「イリア様、そろそろ歓迎会のお時間でございます。会場に向かいますので着いてきてください。」
「えぇ分かったわ。」
イリアは乱れた服を整えて床一面にこびり付いた血を近くに集める。それから立ち上がり血液でヒールを生成し履く。
部屋から出てきたイリアを見てテュータレスはため息をつく。
「やっと出てきよったか。今から向かうぞ。まよわんようについてこい。」
テュータレスの案内のもと、会場へと向かう。会場へと近づくにつれ会場内から人の声が聞こえ出す。既に人が集まっているようだ。
ガチャりと大きなドアを開ける。
テュータレスを先頭に、秘書を右に、イリアを左につける。
「テュータレス様、よくぞお越しになられました。」
「当然だ。聖女がおるのに会場に姿を現さんわけがあるまい。」
「して、そちらの銀髪の女性は…。」
「ワシの護衛だ。気にする必要は無い。」
「かしこまりました。」
恐らく軍事部のお偉いさん側だろう。軽い挨拶の後、そそくさと離れていく。
それからテュータレスが2人に休憩して良いと告げると、2人ともそれぞれ食事へと向かう。イリアはバイキング形式の食事で、色々と皿に乗せていく。周りを少し見ると、1人だけ壁に立っている男がいる。注視すると、ディートリヒだ。
お皿を持ちつつディートリヒに近づく。
「ねぇ、1人で何を突っ立ってるのかしら。」
こちらの存在に気づいていなかったのか、ディートリヒは少し驚きつつも会釈をした。
「私は護衛として雇われましたが、ターゲットが居なくなってしまいまして…。ここならばイリア様にも会えるだろうと思いましたが、まさかイリア様の存在に気づかないとは私もまだまだです。」
「まぁ、そうよね。あと2日の任務が終わったらこの国を出ていくわけだけど、私の国に向かうのよね?」
「はい、亜魔族の仲間達に念話は既に飛ばしておりますので何時でも向かえます。」
「そう、一応私も伝えておくわ。亜魔族をイリア・フィーリアスの名のもとに保証すると。」
「ありがとうございます。」
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マシェラ・ハーゲンはゼインとの会議の後、会場へと来ていた。自由行動となり食事へと向かう。皿へと取り分け、席へと向かう。周りを見回してみると、ほとんどの人が2人以上で話している。
「私も誰かと食事したいわ。」
そんな小言は誰にも聞こえておらず。
ポツポツと歩く。すると、端の方で2人の男女が会話している。男の方は見たことは無いが、女の方は記憶にあった。
(テュータレス様の護衛にいた方…。あの方とならもしかしたら食事ができるかも…。)
2人の所へ向かう。
「おふたり様、一緒に食事を摂ってもよろしいでしょうか?」
すると、男のほうは「もちろんでございます。」と言い了承する。女のほうは、「いいわよ。食事は人が多い方が楽しいわけだしね。」と了承してくれた。
「おふたりの名前を伺ってもよろしいでしょうか。私は聖国ヒストリアにて聖女を全うさせていただいております。現教皇シリウス・ハーゲンの娘であるマシェラ・ハーゲンでございます。マシェラとお呼びください。」
「私はディートリヒと申します。魔国出身でございます。私は見ての通り、亜魔族です。ディートリヒと呼んで貰って大丈夫です。」
ディートリヒと名乗った男はとても優しそうだった。亜魔族と聞いて真っ先に思ったのが冷遇された種族だということ。魔国において魔族でないものは冷遇対象だ。そんな亜魔族にも心の優しい者が居るのかと知った。そして女性の方を見る。
「私はSランク冒険者【鮮血姫】の二つ名を持つイリア・フィーリアスよ。あなたのような重要な役職持ちなら知っているかと思うけれど、フィーリアス魔神国の女王でもあるわ。ただし、今この国で私のことを女王とわかっているのは3人だけよ?あなたで4人目ね。テュータレスと秘書とディートリヒね。」
なんと、目の前の女性は女王だった。新興国家であるフィーリアス魔神国の女王。ダリオン王国と国交を結んでいる事は広く知られている。多数の魔神を配下に持ち、穢れの森とその周辺を領土に持っている。それでいて冒険者ギルド所属のSランク冒険者であるという事実。Sランクともなれば名声は上位貴族に匹敵する。そんな方と出会えるとはとても幸運だ。
「イリア様、なんとお呼びした方がよろしいでしょうか。」
「別になんと呼んでも構わないわ。」
「では、イリア様で。」
「そう。」
そこからダリオン王国のスイーツの話やレストレリアン王国の衣服などの話で盛り上がる。盛り上がっていくうちに時間がどんどんと経つ。
「そうそう、イリア様。ひとつ伺いたい事がありまして。」
「何かしら。」
気になっていたことがある。ディートリヒ様は種族を教えてくれたがイリア様の種族は聞いていなかった。ちょっとした好奇心である。
「イリア様の種族ってなんなのでしょうか。銀髪に赤眼を見て思うのは吸血鬼族なのですが、日光の問題がありますし…。」
すると、あっさりと教えてくれた。
「私はただの王位吸血鬼よ。」
王位吸血鬼。私が聖女となる前に知識として教えられた事がある。
王位天使、帝位天使、天使長。王位悪魔、帝位悪魔、悪魔王、王位吸血鬼、帝位吸血鬼、真祖吸血鬼は個体数がとても少ないと。それぞれが凶獣という位置づけにあり、非常に危険な存在である。天使族は人間や獣人族と繋がりを持ち、過去に私も王位天使、帝位天使、天使長と会ったことがある。また、悪魔族は魔族、龍族と繋がりを持っている。2年ほど前に帝位悪魔と会ったことがある。悪魔王は現在存在していないと伝えられ、その帝位悪魔が悪魔族を納めているのだとか。
しかし、完全な独立した種族である吸血鬼族。吸血鬼の国である夜国は吸血鬼しか存在しない。人間と似たような階級があるが、階級によって扱いが千差万別である。そんな国では真祖吸血鬼が納めており、帝位吸血鬼が2体いるそうだ。夜国から観光に来る吸血鬼は数が少ない。そもそも吸血鬼族は戦闘種族だ。龍族、吸血鬼族は戦闘系の種族の中でも逸脱した強さを有する。現に龍魔王が多い。ただし、ここ最近、龍魔王タンドラが殺されたらしい。原因を探しているがまだ判明していないようだ。
話を戻そう。吸血鬼族は階級がそのまま強さに直結するというのが通説である。王位吸血鬼ともなれば帝位天使や帝位悪魔を相手取り、有利に立ち回れる程である。そんな存在が目の前にいる。しかも吸血鬼の国ではなく、自国を築いているという。もしかすると物凄い人と交友関係を結べているのかもしれない。
「王位吸血鬼はただの、で済むような種族では無いと思いますが。」
「そうかしら。ポンポン進化できたから大した価値を感じないのよね。みんなが珍しがるから言ってるだけなのよ。」
「なるほど…。ん?もしかして、空挺部隊から通達のあった吸血鬼というのはあなたでしょうか。」
「空挺部隊?なんの事か分からないけれど知らない男の人が話しかけてきたのは確かね。」
「それは聖国ヒストリアの第2空挺部隊隊長ですね。」
「あぁ〜…そうなのね。」
「いえ、こちらとしても正体が分かりましたのでこれらに関する調査を辞めても良さそうですね。」
私は会釈をした後、ディートリヒ様とイリア様から離れて配下のマリアンヌの元へと戻る。
「そろそろ歓迎会が終わりますね。これが終わったあとはテュータレス様との会議ですか。」
「そうでございます聖女様。」
またかとため息をつくマシェラ。
「マリアンヌ、何度も言いますが『聖女様』と呼ばなくてもよろしいのですよ?2人きりの時はマシェラで構わないのです。」
しかし、何かを躊躇っているようにも見えるマリアンヌ。
「しかしここは他国です。私しか聖女様を守れる者はおりません。」
私とマリアンヌは聖女見習いとなった頃からの付き合いだ。マリアンヌは聖女としての才は無かったものの聖騎士としての才を見出した。数年が経ち、私が聖女となった頃に聖騎士の契りを交わしたのだ。私としては、親友なのだから別に昔のように呼んでくれてもいいのだけれど、聖騎士としてのマリアンヌは世間を気にしてか呼んでくれない。今くらいは気にしなくてもいいのに。
その時、休憩室のドアをノックする音が聞こえる。
「なんでしょうか。」
「テュータレス様との会議の時間が近づいておりますので移動願えますでしょうか。」
「かしこまりました。」
私たちは移動する。これが海洋国家テスタレスと聖国ヒストリアとの友好関係を結ぶきっかけになれば。
後編も長くなります。
(原神にナタが追加されてからナタ探索サボるようになりました。)




