レストレリアンの学舎と地球の探索者
イリアは起床した。起きて周りを見渡すと、ヘスティが寝室の中の椅子に座って紅茶を飲んでいた。
「おはよう、ヘスティ。」
「おはよう、イリアちゃん。」
ヘスティの調子が全く変わってないのは置いておくとして。
「今大体何時くらいかしら。」
「今は朝の9時半頃、もうみんな朝食を終わって座学中。イリアちゃん、それにしても吸血鬼が朝に起きるっていうのを未だに驚く時があるなぁ。あと髪ボサボサね、梳いてあげる。」
「ありがとうママ。」
「ママ呼び、やっぱり最高。」
「そうそう。聞いたかもしれないけどメルームのところのガーネシアをフェイルの傍付きにしたわ。すごい嬉しそうだったけど、フェイルがこれで改善されると嬉しいわ…。」
「ガーネシア…。あぁあの赤狼ですか。確かにイリアちゃんが魔王になる前から居たけどフェイルが世話してきた狼だからねぇ…そりゃフェイルのとこに傍付きしたがるね。」
「神水要る?って言ったら断られちゃったのよ。」
「まぁ、でもいずれ欲しがるんじゃない?だってフェイルの役に立つにはもっと強くならないとーって感じになるかもしれないし。」
「じゃあこれはガーネシア用に置いておこうかしら。それより私まだ朝食を摂ってないのだけれど、何を食べようかしら。前に殺して回った盗賊の肉でも食べとこうかしら。あれ結構余ってるのよね。顔だけ冒険者ギルドに渡してそれ以外は全部持ってるから。」
「微量でも経験値は貯めておいたら?」
「今日は盗賊の中でも若そうな男の肉ね…。って言ってもみんな私より年上だけれど。」
イリアは朝、盗賊を食べた。肉質が人によって違うから、調味料をかけて食べるなどのアレンジした。
「ふぅ…やっぱり血肉は美味しいわ、時間凍結で保存してて正解だったわ。少ないけど経験値も入るしお得お得〜!」
コンコン。と音が鳴る。
「どうぞ。」と、ヘスティが言い扉を開ける。入ってきたのはフリューゲルだ。
「起きたようだ…な?」
フリューゲルは少し警戒を強める。
そりゃそうだ。人間であるフリューゲルからしてみれば人間を食べてるイリアを目の前にしているのだ。
「何を食べてるんだ?それはどう見ても…人間だろう。」
イリアは美味しそうに頬張りながらフリューゲルの話を聞き流している。
「お嬢様は冒険者稼業において征伐された盗賊達を食しております。頭だけをギルドに明け渡し、報酬を貰っていますので、確認自体は取れておりますよ。」
フリューゲルは朝イチで固まっている。
「とはいえ…人間の前で人間を食べているのは些か気分が悪いな。」
「それはお嬢様に言われましても…。」
「まぁ、いい。今は座学の試験中でな…。ちょうどいい。イリア殿、あなたもテストを受けてみてはいかがかな。力でねじ伏せるのも良いが知識を持っているのと持っていないのとでは違いは出るのは当たり前だろう。」
イリアは盗賊1人を完全に食べ終え、ご満悦だったが、その話を聞いてフリューゲルの方を向く。
「受けてもいいのだけれど…多分点数は取れないわ。だって弱点とか分からないもの。」
「まぁ強すぎるイリア殿からしたら全箇所弱点に見えてしまうからな。」
「でも最低限わかるわ!金的と喉仏と心臓は弱点ね!」
「まぁ、それらがない魔物も居るが、おおよそそれで正解だ。」
「あ、そうだわ。【紅蓮之災禍】範囲拡張 ここから北に12kmに発動。」
「何をしたのだ?聞いた事のない魔法だが…。」
「今適当に作った魔法よ?適当に作った魔法でもちゃんと発動できるかどうかを更地に向かって発動したのよ。」
「お、おぅ。そうだったか。」
「ねぇ、フリューゲル。見に来るかしら?」
「いいのか?」
「えぇ、構わないわ。」
イリアはフリューゲルの背中に手を触れると、一瞬で現場に転移した。
「転移…したのか?」
「えぇ、別にこのくらいなら人間でもできるわよね。だって人間で転移スキルを持って他の何人か見てたから。」
「だからといって…こんな長距離を…。」
「それでどうなったかしら…。あ、いい感じにクレーターが出来てるわね。これで適当に作ってもいけそう。」
「戻るのか?」
「確認したかっただけだし、それが終わったら学生達のとこに行こうかしら。3人ほどに聞きたいこともあったし。」
イリアはフリューゲルの背中に手を触れ、城内に転移した。
「じゃあ、早速向かうわね。ヘスティ。今日は違う子を傍につけるわ。」
「わかりました。それではどうぞ。」
「メルーム、出てきてちょうだい。」
横に現れたゲートから出てきたのは、ひかりの輪を後ろに備えた魔神だ。
「あなたは、どの魔神ですか。」とやけに丁寧語で聞いている。
「私は閃光の魔神メルームでございます。四天凶である神狼の魔神フェイルの配下でもあります。それで魔王様、今日は何をすればよろしいでしょうか。」
「あなたのとこの配下のガーネシアをフェイルの傍付きにしたけれど、それで何か人員不足とか陥ったりしてないかしら。」
メルームは少し考えた後、こう述べた。
「私の領域内における人員はもう少し削減しても構わないほど潤沢でございます。」
「そうなのね…。それじゃあほかの領域のとこに聞いて不足してそうなところがあったら人員を選抜して送って貰えるかしら?選抜された人員に関しては後で褒美をあげるから。」
「かしこまりました。」
「それと、今日は私に付き従ってもらうだけでいいわ。今から行くわよ。」
イリアはメルームを連れて、フリューゲルの後ろをついていく。
「ねぇ、フリューゲル。こっちは私来た事ないのだけれど、ここには何があるのかしら。」
「ここは兵士達が座学を行う学舎だ。」
イリア達はフリューゲルが案内する学者に到着した。学舎はどうやらレストレリアン王国建国時から存在しており、歴史ある建物らしい。建国したのが2000年前なので、建物の耐久度はとても凄い。これまで数々の兵士がこの学舎で学んできている。フリューゲルもその1人。たまにフリューゲルのように突出した強さを持つ人もいる。フリューゲルの存在がレストレリアン王国の守護神という1人にとてつもない重圧が掛かっている。
ガイオンが言っていた【人間英雄】とは人間族という群れる事が得意な種族の中で個人でSSSランクとやり合える力を持つ冒険者以外の人達の事を指す。実はこの世界では【人間英雄】という言葉は常識である。
という実は強いフリューゲル。イリアとガイオンのせいで弱く見えるが魔王や魔神を除くとトップクラスの実力である。
イリア達は学舎に入る。すると、中にはこの国の兵士だろうか。結構人数がいる。20人くらいだろうか。フリューゲルを見るや否や、挨拶や敬礼を行っている。その後ろをゆくイリアとメルームは、フリューゲル自らが案内しているということもあってか、羨望も眼差しを一部から向けられている。
「この奥の階段を上がった突き当たりの部屋に飯島殿達がいる。今はまだ試験を受けているので少し待ってもらいたい。あと5分くらいだ。」
「なにか合図でもあるのかしら。」
「昔この国に立ち寄ったとされるエイジ・タテワキ殿が作ったチャイムを採用しているのだ。その方のおかげで我々も対応がしやすいのだ。」
(また日本人…こっちに来すぎじゃないかしら…。どんだけ来てるのよ…。そりゃ単位がmやら何分やらが通用するわけね…。)
「それから、イリア殿にも歴史の授業を受けてもらいたい。メルーム殿はどうされますかな?」
「私はイリア様の今日の傍付きを命じられた身、イリア様の命令とあらば受ける所存です。」
「歴史ってどの歴史なのかしら。」
「世界の共通認識の話だな。過去にあった魔神戦争やそれ以外にも歴史的な転換点などだ。」
「なるほどね…。歴史の証人を連れてくるのはありなのかしら。その方が深く知れていいんじゃないかしら。」
「配下に魔神戦争を経験した者でもいるのか?」
「私の直属の配下の四天凶のデュポーンとハイウッドの2体ね。デュポーンは10000年以上生きてるし、ハイウッドなんで元々世界樹だしもっと知っていると思うわ。」
「まぁ、それはおいおいだ。今日は我が国の学舎の案内なのでね。我々に仕切らせてもらいたいのだが…。」
イリアはため息をつきながらも渋々同意した。
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とある星の会議にて。
「それで、宍戸隊長がEランクダンジョン内に入って行方不明になった。ということか。」
「最後の通信では、外側からはEランク、内側は最低でもS以上だという観測がなされています。」
「Sだと?正気か?都内の駅1つがまるまるダンジョンに変わったのだぞ?それで中はどんな感じだったか記録されているか?」
「中身は駅という感じがまるでしないとの事です。どうやら別の未知のダンジョンと繋がっているのではと思われます。」
「新宿ダンジョンと名付け、EランクからSランクへの格上げを協会に申請しましょう。」
「それだけでは無い。警備を厳重にして迂闊に探索者が来ないようにしてくれ。どれだけ自信のある探索者であろうともだ。他の3人のSランクにも伝えてくれ。もう一度調査隊を派遣してダメだった場合は海外への協力要請も辞さないつもりだ。」
そんな会議の途中、走る音が聞こえ、ドアをバンと開ける。
「何事だ!会議中だぞ!」
「申し訳ありません!宍戸隊長達作戦部隊A班から新たな通信が記録されました!」
「なんだ!?言ってくれ!」
「はい!中に居る魔物はダークブラッドウルフ。レベルは180~200レベルに相当するようです!」
「180レベルだと!?佐渡と同レベルか!?」
「かも知れません…。しかし最初にその魔物が出てくるという事は…。」
会議部屋が静まり返り、1人の幹部が声を上げる。
「世界最悪のダンジョンという事か…。」
「そうなるかもしれません…。【大帝】を呼びますか?それと【豪傑】も呼ぶしかないでしょうか?」
それから5分後、新たに通信が記録された。それを聞いた記録担当はあまりの記録に絶句し青ざめてしまう。
「どうした…。青山。何が分かったのだ。」
青山と呼ばれた記録員はガクブルと震えている。幹部のひとりはその様子がおかしいと思い、青山に【鑑定】をかける。
名前:青山 久
種族:人間族
レベル:61
状態:怨嗟(ガーネシアの呪い)
「まて、青山。何故【怨嗟】に陥っているのだ。」
「え…。私はずっと記録室に居ましたが…。」
「ならば、逆探知でもされたのかもしれん。ガーネシア…これに何か聞き覚えはあるのか?」
すると青山はハッとした様子で幹部に告げる。
「宍戸隊長はダンジョン内でガーネシアと呼ばれる魔物と遭遇。レベルは422です…。その後、宍戸隊長の悲鳴とともに通信が切れました。最後にガーネシアと思われる女の人型の魔物はこう言っていました。」
(何か記録しているわね。これを最初に見たものに怨嗟を施してあげる。)
「その後、こうも言ってました。」
(これで、魔王様に褒美を頂けるかもしれない。)
「なるほど…とりあえず青山を緊急病室に連れていけ。災害級の魔物の攻撃だ。対応する際は厳戒態勢で行え。それと、その魔物は魔王様と言っていたのだな…。」
幹部達は首をひねり、今後の対策・対応による会議に明け暮れるのだった。




