イリアは遊びたい年頃らしい
ガイオンは口が開いたまま塞がっていないようだ。
フリューゲルもやはりと思ったのか、納得していた。
生徒達は飯島含めみんな呆気に取られていた。
「あら、みんな黙っちゃったわね。」
「いや、驚くだろ普通。おめぇ魔王って言ったがどこの魔王だ。」
「じゃあ自己紹介してあげるわ。私はフィーリアス魔神国の女帝であり、破滅の魔王イリア・フィーリアスよ。ダリオン王国と国交と同盟を結んだわ。領地は穢れの森とその周辺のダンジョン全域よ。」
「いや、おめぇも国のトップかよ。」
「えぇそうね。」
フリューゲルが何かを言いたそうにしていた。
「何かしら、フリューゲル。」
「イリア殿、先程フィーリアス魔神国と言ったな。」
「えぇ、それがどうかしたのかしら。」
「なぜ、【魔神】を国の名前に入れたのだ?」
「何を言うのかと思ったら、そういう事なのね。配下の子が勝手に決めたから流れに乗っただけよ。なんかかっこよさそうって思っただけ…。それがなにか?」
「魔神を配下にしているのか?」
「そうだけれど、どうしたのかしら。」
「魔神戦争だけは起こしてくれるなよ。」
「私が激怒しなかったらそんな事起きないわ。」
(せっかくガイオンが居るのだし、修練場も広い!これなら魔神沢山呼んでも良さそうね!ふっふっふ…なかなかいい案だわ!あと単純に楽しそう!)
イリアは少し笑みを浮かべて、少し後退する。そして指を鳴らすと同時に25個の黒いゲートが開かれる。
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突然イリアが笑みを浮かべる。そして後退して指を鳴らす。すると同時に25個の黒いゲートが現れたのだ。
「なんだ、この感じは。」
フリューゲルは咄嗟に剣を構える。
「イリアの野郎、なんか楽しそうな顔してるな。ドッキリでも仕掛けようとしてんじゃねぇのか?」
そこから出てきたのは多種多様であった。
単眼の人型の魔物、刀を4本持っている多手の魔物、ドロドロとした不定形の魔物、神々しさを見せる魔物、狼のような魔物、大きな木のようなトレントみたいは魔物などなど…1箇所のゲートから一体ずつ魔物が出てくる。そして全ての魔物が出揃うと、その25体全員がイリアにひざまづく。
そしてそこから刀を一本携えた魔物、虫を頭に乗せた秘書のような魔物、白い狼が人型になった魔物、トレントのような魔物、不定形の魔物の五体が動き、イリアの横に並ぶ。それぞれの後ろには5体の魔物がおり、秘書のような魔物はイリアの真後ろにつく。
「これが私の配下達よ!」
長い沈黙ののち、その沈黙を打ち破ったのはガイオンだ。
「待てイリア。おめェの後ろのやつ全部魔神だろ。たった2年でそんだけの配下を獲得しやがったのか。」
「えぇ、そうよ!私これでも強いから!」
「いや、それは分かってるぞ。」
ガイオンに即答されたので少しキョトンとしている。
すると、イリアの後ろにいた秘書のような人がイリアの撫でた。
「この子、我々のお嬢様でして。」
「こら、へスティ。こんな事されたら威厳台無しじゃないの。」
「あ、そうでしたねぇ。忘れておりましたよ。」
と、クスッと笑うヘスティ。
「それはそうと、ガイオンと手合わせしてみたいわ。」
「俺とか?俺は別に構わねぇが周りのヤツらに被害が出るぞ。」
「そこは彼に任せるだけね。じゃあお願いね。ハイウッド。」
「任されたのじゃ。【神樹障壁陣】」
四隅におおきな木が生え、それを角にして立方体の空間ができ上がる。イリアとガイオンは障壁の中に入る。
「んじゃ来な。」
「それじゃあそうさせてもらうわね。」
イリアは突進するでもなくただ散歩をするかのようにガイオンの元へと歩いていく。その攻め方に周りの誰もが手合わせとは思えず懐疑的な視線を送り始める。
イリアは左手をゆっくりとパーの形に広げる。
ガイオンの目の前に着くとともに止まる。
「じゃあやるわね。」
と、微笑みながら平手打ちをする。
その瞬間、ガイオンは障壁まで吹き飛ばされる。しかしなんとか持ち堪える。
すると、外野からヘスティが、
「イリアちゃーん!その調子よ!」
「おい、ヘスティ。そんな掛け声したら子供の遊びを見守る親にしか見えんぞ。」とデュポーンが言う。
「実際観戦してるんだからそんなことどうだっていいのよー。ストレス溜まったら虫生み出しちゃうぞー。」
「めんどくさい女だなほんと。」
外野は外野で盛り上がっていた。そして中ではというと。
「なんだこりゃ…。力が一切こもってない平手打ちでこれかよ。武闘派魔王の名が泣きそうだぜ。」
「ほら、次行くわよ。」
ガイオンが感想を吐露し終わったその時には既にイリアはガイオンの背後に居た。
またもイリアの平手打ちにより反対側の障壁まで吹き飛ばされる。しかし、今回は吹き飛ばされたかのように見えただけだった。ガイオンが平手打ちを防いだのだ。
「あ〜、残念ね。でもこれでいいかしら。」
イリアはガイオンの背中に触れる。
するとイリアはガイオンの体の中に吸い込まれるように手を入れていく。
「な、なんだ…。何してやがんだ。」
ガイオンの腹の中をモゾモゾと手を動かすイリア。
突き放そうとイリアに殴り掛かるが全て避けられる。
「あ、あったわ。えいっ」
するとガイオンの体から出てきたのはなにかの白い塊だ。半透明だ。そしてそれをパクッと飲み込んだのだ。
「うまっいわぁ…最高。」
ガイオンがガクッと倒れたのだ。
「イリアちゃーん勝ちをおめでとー!」
ヘスティはまたも声を上げる。
「イリアー!もっとボコボコにしていいよー。」
フェイルも便乗していた。
フリューゲルは驚きつつも冷静に剣を振り斬撃を飛ばした。シュッと音を立てイリアに迫る。
イリアはそのまま斬撃を相殺するように手刀で斬撃を飛ばした。
「こら、何するのよ。食事中よ。」
「それはこちらのセリフだ。お前は何をしている。」
「ガイオンの魂が美味しそうだったから食べただけよ。勢い余って引っこ抜いたから全部は取れてないけれど…やっぱり魔王ともなると格別ねぇ…。」
「魂を引き抜く…?だと?それは禁忌だぞ。そのスキル【回死魂】だな。」
「それは使ってないわ。私が使ったのは【魂魄操作】よ。味見するのに【回死魂】なんて使ってられないわ。」
「その言い口だと持っているようだな。ところで飯島よ。【勇者の目】で見た中で【回死魂】なるスキルはあったか?」
「いえ、そもそも【魂魄操作】もありませんでした。恐らく私のレベルが足りず全てを見ることができなかったと思います。」
フリューゲルは少し落胆する。
(イリア殿に悪意の類いは一切感じられない。そもそも遊んでいるようにすら感じる。見た目は大人びていても中身はまだまだ子供というわけか。)




