勇者達と模擬戦 その2
続いてイリアの番がやってきた。
「次はイリアVSチームBだ!」
そう言われたのでイリアは適当に口ずさみながら位置に着く。
大竹と呼ばれた武闘家が前に、その背後を未来の聖女である瀬良が構え、衝撃緩和と持続回復を大竹に掛け、魔法士の吉田が援護射撃や瀬良や大竹に対して筋力増強や回復力増強などを掛ける。そしてチームBの準備が終わったようだ。
「準備を終えたようだな。では開始だ!」
その合図とともに大竹は走る。
「【正拳突き】【身体強化】【肉体頑強】【速度上昇】!」
どうやら先程のAチームの失敗から学んでいるようだ。イリアはそれを華麗に、そして優雅に舞いながら避ける。
「ちっ、なめやがって…。」
大竹はどうやら少しキレてるようだ。なので大竹の右腕に触りデコピンをする。
「あっ…すまないわね…。」
それは発生した。大竹の右腕が弾け飛んだのだ…。
「うぅぅぅぅぅあぁぁぁぁ!!!!」
大竹は突然右腕を失った衝撃の後、徐々に痛みが増していく。
「私の職業、魔闘士なのよ。だから気をつけなさい…。」
瀬良は急いで大竹の元に駆けつけるも、大竹の右腕の断面図を見て吐いてしまう。
その状況を見た吉田は瀬良に、「【精神魔法】安定化」を2人に掛ける。そして大竹には更に、鎮痛の効果を持った魔法である【付与魔法】鎮痛を付与する。
瀬良は落ち着いたのか、いまだ苦しむ大竹の右腕に向かって何度もヒールやキュア、そして先程覚えたミドルヒールをかける。
「なんで、なんで、なんで治らないの!?一生懸命掛けてるのに!」
回復力強化を吉田に掛けてもらってなお回復しない。腕を生やそうと思ったら【ハイヒール】は必要である。
見かねたイリアは、
「うーん、ねぇ瀬良ちゃん…。患者を見せなさい…。治してあげるわ。」
その治してあげるという一言に泣きそうになっている瀬良は顔を上げる。
そして大竹を支えながら、
「お、お願いします。」と涙ぐみながら返事する。
「【神聖魔法】聖域、【神聖魔法】上位治癒。」
すると、大竹たちを囲むように聖域が完成し、腕に向かって中位治癒の上位である上位治癒を掛ける。すると無くなっていた腕が生えるかのように再生し、動かせるほどに回復した。
それを見たフリューゲルは小声で、
「まさか…王位吸血鬼は神聖魔法をも扱えるのか?いや、王位と言えど吸血鬼に神聖魔法は効くはず…。それをわざわざ使うとは…治すと言っても修復魔法などがあるはず…。何かを隠しているのか?」と考え込む。
だが、模擬戦とはいえ、相手に助けられてるのでチームBの負けになった。これは致し方ない事である。
そしてイリアはスカートをつまみ、貴族の女性がする所作で礼をする。
そして席に戻る。そこにはガイオンが席2つ分を陣取って座っていた。体格のせいだろう。しょうがない。
「手加減できたのか?いや、吹き飛ばしてる時点で出来ていないのだろうな。」
「まぁ、これは手加減できたかな!って思ったのだけれど、脆すぎて…。」
「俺でも手加減できてるんだぞ…。」
「私まだ2歳だからしょうがないじゃない!」
プンスカ怒るイリア。
「え、おめぇまだ2歳の小娘なのか!」
「そうよ、それがどうしたのかしら。」
「2歳って言ったらまだこんくらいのちびっ子だろ。」
といって、ガイオンは親指と人差し指で長さを表現した。
「それはちっさすぎるわ、いくらなんでもね。」
ガハハと笑うガイオン。ふくれっ面なイリア。
「それよりおめぇ吸血鬼のくせして【神聖魔法】を使えるのか。どういうカラクリしてやがんだ?」
「さぁ?それは秘密よ。」
「まぁいい。がお前ずっとそれを持ってるが何する気だ?」
イリアはふと右手を見ると、先程はじき飛ばした大竹の右腕を持っていた。
「あら、なんで持っているのかしら。でもそうねぇ…本人はもう腕を再生させてるわけだし、これ食べちゃうわ。」
そう言って、イリアは腕をむしゃむしゃと食べる。そして30秒ほどして全てを飲み込んだ。血肉を食らってご満悦だ。ガイオンもさすがに引いている。
「エグイな、お前。真後ろで本人が見てるんだぞ。」
「そんなの関係ないのよ?使う必要が無いのなら私の食事になってもいいのよ。」
「なんつうか、考え方が狂ってるな。」
「だからこそ冒険者って立場が無難なのよ。」
「まぁ、そうだが…。」
(というか私引かれすぎじゃないかしら。そんなにおかしいことしてるとは思えないのに…。)
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生徒たちとフリューゲルはあの二人を見ていた。
「俺たちまだまだ技を使いこなせてないんだな。」
「俺なんて腕吹き飛ばされたし。」
「なんか、あの二人軽く喧嘩してるな。」
「て、てかよ…あの女、腕持ってんじゃん…。大輝の…。」
今のセリフにフリューゲルも目をしかめる。
すると女が獣魔王に指摘されて腕を見ている。
そして。
「あ、あいつ腕を食いやがった。腕食って笑顔になるとかヤベェやつじゃん。」
「え、あれが吸血鬼…?」
「あんなやつがSランクになれんのかよ。検査しっかりしてんのかよ…。」
そしてフリューゲルは。
(あのイリアという冒険者。手加減をしたというのは見て取れた。デコピンを腕にやっていた。だがそれでも吹き飛ばした。不安要素の塊だな…。出自もはっきりしない。吸血鬼の国に居たという証拠もない。そうなると…まさか、こいつも…。)
フリューゲルは一人、1つの可能性を考えていた。
飯島達はイリアのあの行動を見て…。
「ほんとにイリアが■■■■だと思うの?」
瀬良が言う。
「いや、分からない。記憶だけ■■■■のただの別人だと思う。」
「でも、あかりんって言ってくれるし…信じたいけど…。」
「そ、そういえば聞きたかったんだけど…血を吸われてから何かステータスとかに変化ある?」
瀬良がオドオドしながら美園に聞く。
「特にステータスに変化は無かったよ。強いて言うなら魔力が減ってたくらい?」
「吸血されたら魔力も少し吸い取られるってことか。」
「ていうか、獣魔王ガイオンに鑑定したら全部出てきたのにイリアに鑑定しても部分的にしか出てこないって…。」
「ガイオンよりイリアの方が強いんじゃないの?」
「まさか〜、この世の中で強いやつは魔神か魔王しかいないんでしょ?魔王より強いって事は同じ魔王なんじゃないの?」
と3人の話してるところに横から割り込んできたのは神崎だ。
「魔王?確かに気になる。種族だけ聞いたら確かにまだ上に2つ進化残してるよねってなるけど、獣魔王ガイオンより強いってなったら魔王が魔王じゃないかだけでも気になるよね…。」
そんな中、ガイオンVSチームCが始まるようだ。美園は会話の中からいち早く抜けてチームCとして参加するようだ。チームCの職業は、錬成師である美園、影法師である相川、侍である寺内だ。この編成を見た感じ、寺内を前に錬成のサポートにより影法師の高火力を叩くという二段構えだ。明るい時は影法師が強く、暗い時は影法師がサポートに徹し、侍である寺内が攻める事も出来る。それに錬成師のやり方次第ではそのサポートがより活かされるようだ。ただ瞬間火力が高くなる傾向になりがちだ。唯一暗い時の影法師の奇襲があるくらいか。
飯島達はチームCが模擬戦を行うところを見つつ、更に後ろにいるイリアを監視というのは少し良くないが見る事にした。
「獣魔王ガイオンVSチームC!開始だ!」
その合図とともに影法師の相川は影を3つ伸ばす。そしてその横で錬成師の美園が何かを作り始めた。そして侍である寺内が刀を使って果敢に攻める。
寺内は家が刀を代々扱う家系だそうで、武器の類いの扱いにおいてはクラス1である。身体強化などを駆使してガイオンに向かって何度も刀を振る。
「【寺内一刀流・朧月】」
その攻撃によりガイオンは咄嗟にガードする。それを見計らうからのように相川の伸ばした3つのうち1つがガイオンの影と繋がる。そして、
「【影魔法】影打ち!」
ガイオンの真下から相川の魔法が放たれる。その瞬間、「【錬成魔法】光玉球!」
美園が魔法を発動。ガイオンの目の前にとてつもなく明るい光が差し込む。そしてつい目を閉じてしまう。
そこに相川の影打ちがガイオンの足に、寺内の朧月が両腕に切り傷を入れる。
今回の模擬戦において初めてこちらがダメージを与えた瞬間である。
「グッ!」
ガイオンの声だ。
そこにフリューゲルの声がかかる。
「そこまで!ガイオンが一発ダメージを食らったから今回の模擬戦はチームCの勝ちだ!」
その言葉を聞いて3人だけじゃない。生徒たち皆が歓喜した。チームを信頼し、的確な対応をする。の組み合わせで獣魔王ガイオンに一撃与えることが出来たのだ。当然喜ばしい事である。
飯島達はついでにイリアの方を見ると、イリアはどうやら爆笑しているようだ。ガイオンが模擬戦とはいえ負けたからだろうか。その笑い方は子供のそれである。
「負けてるじゃないの」と笑いながらガイオンに言うイリア。
「油断したのもあるがこちらに召喚されてばかりの子供とは思えないほど連携も取れていた。先の2戦の失敗を見て対策も立てれていた。」
「まぁそれもそうね。」と落ち着いた声で話す。
「あーあ、興味が削がれたわ。ガイオンは魔王なのだから魔力無しで圧倒しないとダメよ。」
今の言葉の後、直ぐに神崎から。
「じゃあイリアさんは魔王っすか?」煽りながらのその一言である。
その瞬間、ガイオンも、フリューゲルも、それに神崎以外の生徒たちも気付かぬ一瞬のうちにイリアは神崎に詰め寄り、頭を掴み、修練場の壁に投げ飛ばす。
「煽るんじゃないわよ…普通にイラッとしたわ。ぶっ殺すわよ…。」
修練場の壁に神崎がめり込み頭から血を流して倒れている。
「煽られるのほんと嫌いなのよ…。次やったらこの程度じゃ済まさないから覚悟しなさい…。」
そしてイリアはまたガイオンの後ろの席に歩いて戻る。
「あ、そうそう。私もちゃんと魔王だから。」
やはりイリアは人を引かせることが得意なようだ。




