未来の聖女・勇者との邂逅
修練場に現れたのは1人はライオンのような顔付きをした男だ。その風貌から放たれる威圧はダンジョン攻略などで感じた物とは一線を画す程のものであった。
その男が口を開いた。
「おめぇ達が勇者とその仲間ってか?今の威圧に耐えたのは、6人ってところか。まぁまぁ心が決まってる奴がいるな。俺の見立てじゃ1人居りゃ十分だと思ってたがな。」
どうやら試されていたらしい。非戦闘職の可能性がある者は尽く今の威圧でへたれこんでしまう。戦闘職の者も何人かは膝をついてしまう。
耐えれたのは、俺拓斗と美帆と吉田と神崎と大竹と鎌田の6人だ。
「これはいい勇者に育つんじゃねぇか?なぁフリューゲル。」
「それは彼らの努力次第もあるでしょうな。」
「おめぇらに挨拶してやる。俺は獣魔王ガイオンだ。獣王国を治めるトップでもある。勇者が召喚されたっつうから来てみただけだ。骨のありそうなやつ…そこのごついの、お前と、その横のヒョロ、お前だな。おめぇら2人は俺が鍛えてやる。付いてこい!」
そう指を差されたのは、ごついと評された大竹 勝とヒョロと評された鎌田 新造だ。どうやら魔王の目に留まったようだ。
2人はその声に少しビビりながらも強者から鍛えてもらえるという事でやる気が上がっていた。そしてもう1人はと言うと、一言で言うなら美少女であった。身長は僕らと同じくらいだ。腰にかかるくらいの長さの銀髪の髪に赤い宝石なような瞳を持つ。修練場には全く合わないであろう服を身につけている。ドレス?なのか?前を露出させてる。胸は多少大きいが爆という訳では無い。その女が腕を組み、こちらを見ている。何か喋るのだろうか。
「こちらはイリア殿、Sランク冒険者として活躍している。ちなみに種族は、言うか?」
「えぇ、勝手に言ってちょうだい。私は気にしないわ。」
「そうか。こちらは王位吸血鬼という吸血鬼の中で上から3番目の進化階級だ。日光の弱点を克服しているから昼間でも訓練を手伝ってもらえるとの事だ。他に言うことは無いか?」
そう聞かれた銀髪の女は少し笑みを零し、
「そうね…。そこの勇者と聖女の2人と非戦闘職のそこの頭ぐるぐるの子、3人と話がしたいわね。」
「頭ぐるぐる?あー、美園殿、飯島殿、瀬良殿の3名はこちらのイリア殿について行って欲しい。ほかの者は我々が鍛える。」
そう言ってイリアと呼ばれた女は俺ら3人を誘い、城の中の部屋に向かった。
歩いてる途中、何も話しかけてこなかった。
ただ歩き方からみてまるで隙がない。これがSランク冒険者なのか?と思った。
そして僕らが休憩として使ってる部屋に入る。僕ら3人も入る。
すると、
「【結界魔法】鋼鉄要塞」
突然結界魔法を発動してきた。
3人は驚き少し離れる。そこで彼女の口が開く。
「そう警戒しなくていいわ。私はあなた達3人に話があるから、それが漏れないようにしただけよ。」
「何が言いたいんだ。」
「そうね。簡単に言うなら…。あなたが飯島拓斗くんね。それであなたが瀬良美帆さん。それであなたは美園 朱里さんね。」
「どうしていきなりフルネームを?」
恐る恐る瀬良さんが聞く。
「私ね、あなた達3人のことを見て少し気になる事があったのよ。あなた達は■■■■って名前に聞き覚えあるかしら。」
「はっ…?どうしてお前が■■のことを知っている。」
「やっぱりね…。あなたたちが信じるかは勝手なのだけれど、どうやら私はその■■というのが転生したのが私らしいのよね…。その■■という男の記憶の中に君達3人が映っていて4人でとても楽しそうだわ。」
「待って!信じる信じないがどうこうじゃなくて、あなた証拠はあるの?」
「あるわよ。確かこの姿だったかしら。」
そう言って体を変化させて現れたのは3人と仲の良かった死んだはずの■■だった。
「私はこれでも2年前に誕生したのよ。もしかしたら■■が亡くなったのも2年前なのかもしれないわね。」
さっきから言うこと全てが当たっていた。本当に■■が転生したのがこのイリアという女なのかもしれない…と。しかし、そこで美園が口を挟む。
「じゃ、じゃあさ…。鑑定したら何か証拠あったりする?」
「あるわね。なら見ていいわよ。見れるかはさておいて。実力差がありすぎて正直見れるかどうか分からないけれど…。」
イリアが言うには実力差があるらしい。でもこの【勇者の眼】なら見れるはず。
「【勇者の眼】!」
名前:イリア・フィーリアス
種族:王位吸血鬼
レベル:816
体力:■■■
魔力:■■■
攻撃力:■■■■■
防御力:■■■■■
機動力:■■■■■
スキル:空中機動LvMax、転移LvMax、言語理解LvMax、連携強化LvMax、念話LvMax、魔導書Lv-、神速Lv-
特殊スキル:別天神Lv-、メイドLvMax
大罪スキル:暴食Lv-
称号:転生者、不屈者、傾国の美女、暴食者、回避王、王の風格、深淵と混沌
「え?ほとんどみれない。でもいくつか見えるな。」
そうして見えた物を一つ一つ教える事にした。
「なんだ、【勇者の眼】も万能じゃないのね。本当の情報と全然違うところがあるわね。それに私これの4倍はスキルもあるし、3倍は称号もあるわよ。でも転生者って称号で分かったかしら。これで私が転生者ってこと。■■の記憶を持ってるって事。恐らく転生前が■■であること。」
これには納得せざるを得なかった。
「あと、3人には私が鍛えようかと思ったのよね。」
「え、お前が俺を鍛えるのか?」
「えぇ、あなた弱いもの…しょうがないじゃない。」
「私も鍛えてもらえるってこと?」
「瀬良さんは当然よ。でもあかりんはまだダメね。」
今ふと会話をしていて思った事がある。
この女が美園さんと言うのならまだ分かった。だが、あかりんと呼んだ。それは昔美園を■■■■がそう呼んでいたのだ。前世の記憶がまだ残ってて今のこの女の体に影響を与えているのでは?と思った。
「なんでだめなの?」
「あなた錬成師でしょ?まず錬成師の知識をつけて欲しいもの。知識をつけてからよ。」
「それは、そうだよね…。」
「じゃあ早速タクト、これを真似てみなさい。」
そう言ってイリアは木剣を取り、葉っぱを3枚用意する。
そうしてその3枚の葉っぱを上に投げる。そしてヒラヒラとバラバラに落ちてくる葉っぱをまとめて突く。1回の突きでだ。
「これを出来るようにしなさい。」
(は?これを出来るように?どうやったかをあまり分からない。どこの力を入れて抜いてとかがそもそも分からないんだが…。まさかそれを試行錯誤してやるって事なのか?)
「そうね。試行錯誤しておきなさい。」
「え、聞こえてんのか?」
「あー、タクトが頭の中で考えてることくらい聞こえるわよ。」
「次に瀬良さん、あなた神聖魔法はどの程度扱えるのかしら。」
「えっと、【キュア】と【ヒール】をやっとできるようになったところだよ。」
「そう…。それならこれをできるようになりなさい。【神聖魔法】聖域。」
そう言ってイリアは黒い物体を聖域の中に閉じ込める。その黒い物体は外側がベリベリと剥がれ白い物体へと変わる。
「この黒い物体は表面だけ黒いもので覆ってるだけよ。別になんの害もないわ。とりあえずこれを完全に白くできるようになりなさい。」
「うん、頑張るよ。■■■■。」
それに対してイリアは無反応だった。
どうやら■■■■という名前はイリアにとって気にもとめないものらしい。単純に■■■■の記憶を転生前として持っているだけで今の吸血鬼生に■■■■は関係ないと決めているらしい。
「それと…あかりん。あなた、やっぱり見てて思ったけどほんと美味しそうな首してるわ…。」
「え、私が美味しそう?血がって事?」
「そうよ?血以外何が美味しそうなのよ。」
「えーと、なんだろう。肉?」
「血が入ってない肉は要らないわ。血だけで十分よ。実は魔物の血とかしか飲んだ事が無いのよ。」
「そう…なんだ。じゃあ飲む?」
「いいのかしら…。」
「いいよ。■■■■の記憶があって未だにあかりん呼びしてくるんだもん。別にいいよ。」
「あかりん呼び?無意識だったかもしれないわね。じゃあ頂くわね…。」
そう言ってイリアは美園の首元に歯を突き立て血を吸い始める。
「かぷっ… はむ… ちゅぷ……。」
30秒程経った頃、イリアはとても気分が良さそうに椅子に座っていた。そして血を吸われた美園はゆかにへたりこんでいた。
瀬良と飯島は2人の様子を見て、何か変な妄想に駆られかけていた。特に飯島は。なので瀬良が止めていた。
「ぷはぁ…美味かったわ。ここまで美味しい血は久しぶりね…。あら?あかりん、立てるかしら。」
「う、うん。大丈夫だよ。あれ?立てない。腰が抜けたかも…。」
「そう?それなら」
指をパチッと鳴らすと、張っていた結界が解けた。
するとドアを開けて入ってきたのは騎士団長フリューゲルである。
「突然この部屋一体に結界が張られたのでな。何事かと思ったが、訓練させていたのか。」
「えぇ、私なりの訓練方法よ。一応この結界もいちばん脆い結界にしたわ。」
「え?」「えー?」「は?」「ほえ?」
4人は変な反応を示した。
(あれ?何かおかしな事でも言ったかしら。)
「イリア殿、先程張った結界は鋼鉄要塞は我々の認識では最高硬度なのだが…。というか先程結界の強さが気になってガイオン殿が数発殴っていたのだが。」
「え?こんなちゃちな結界も割れないのかしら。そんなに硬い結界なのかしら。」
そうしてもう一度小さめに結界を作り、結界に向かって殴る。
パリンッ!
「ほら、脆いじゃないの。」
「「「「……。」」」」
「なんでみんな黙るのよ。」
「いや、そうでは無いのだ。イリア殿は底知れぬ強さがあるのだなと思ったまでの事だ。それだけ王位吸血鬼とは強いのか…。さすがは凶獣ランクなだけはあるな…。」
みんなは呆れ果てイリアは少し首を傾げるのだった。




