人間英雄と獣魔王
イリアはギルドの依頼で王宮に向かう事になった。
ダリオン王国は煌びやかさを削ぐ代わりに中身に力を注ぎ国を治めている。それに対しレストレリアン王国は力を付けることを怠らない代わりに外見の煌びやかさも重視しているようだ。色々な宝石が鏤められた城である。
「それにしてもお金掛けてそうねぇ…。」
イリアが王宮の門へ辿り着くと、門の前に誰か立っている。後ろ姿からして獣人のようだ。
「ねぇ、そこの獣人さん。あなたも王宮で勇者達の指導をするのかしら。」
「む?おめぇは誰だ。俺は勇者が召喚されたって聞いたもんでよ。どんなやつか見に来たって訳よ。そういうお前は何が目的でここに来たんだ?見たところかなりの実力者だが。」
「私は王宮の冒険者依頼でここに来ただけよ。」
そう言ってイリアは門の近くにいる騎士に依頼で来たことを説明する。
「おめぇ、Sランク冒険者か。の割には武器を持ってなかったり仲間がいねぇみてぇだが。」
「あ?聞いてくださる?私これでもソロなの。それで職業は魔闘士よ。あ。でも本気の時は双魔剣士になるわね。」
「ほう!魔闘士か!珍しい職業を修めてる冒険者だな。少し手合わせをしてみたいものだな、ガッハッハッ!」
「それであなたの名前は何かしら。私はイリアよ。」
「そうかそうか!俺は知ってるやつも多いだろうが獣魔王ガイオンだ!」
(これが魔王なのね…。ほかの魔王は初めて見たけど、確かになかなかの強さ、四天凶に近い実力があるわね。)
そんな話をしていると、門が開き、1人の重厚な騎士が歩いてきた。
「お、人間英雄様のご登場だな。」
イリアはそれが誰か分からず首を傾げる。
「おめぇ知らねぇのか?人間でありながら20年という短さで英雄の領域にたどり着いたのがこの男、レストレリアン王国騎士団長フリューゲルだ。」
「おやおや。獣魔王ガイオン殿、どうしてこちらに。」
「なに。勇者が召喚されたと聞いてよ。どんなもんか面を見に来ただけよ。」
「なるほど、それでそちらのお嬢さんは?なかなか力があるようですが。」
「私はイリア。Sランク冒険者として勇者指導の依頼を受けたからここに来たわ。」
「ほう!Sランクの!先の大狂騒では魔神を倒したようだな。さすがは異種族!味方につけば本当に頼りになる。」
「お?おめぇ魔族か?」
「いいえ、私は魔族じゃなくて吸血鬼族よ。」
「吸血鬼か。だとしたらおめぇが魔闘士というのも納得が行く。確かに吸血鬼は戦闘種族だからな。てかお前、種族は分かるがどの程度だ。Sランクと考えるなら伯爵級とかだろうが、それ以上はあるな。」
そこにフリューゲルは答える。
「イリア殿、もしや王位では?」
ボロス以来、当てられたことのない種族を当てられた事で少し驚く。
「さすがに当てられたのは久しぶりね。」
「お、おめぇ王位吸血鬼だったのか!なら何年生きてんだ。数百年か?数千年生きてるのか?」
「私はまだ2年よ。」
フリューゲルとガイオンは固まった。
「あれ、何かおかしいこと言ったかしら。」
少し慌てるイリア。
「ハハハ。まさか2年で王位かよ。本物のバケモンじゃねぇか。」
フリューゲルは持ち直し、2人を案内することにした。
「こちらに来てくれ。勇者たちがそろそろ訓練を開始する。」
2人は同意して修練場に向かった。
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一方、修練場では…。
拓斗は1人朝早くから修練をしていた。
シュッ…。シュッ…。シュッ…。
木剣を持ち、何度も素振りを重ねていた。
そんな様子を見に来たのは、幼馴染である瀬良だ。
「ねぇ、たく。また朝早くからやってるんだね。」
「当然だ。ここで強くなって魔王エンゲルとかいうなのを倒したら地球に戻れるかもしれないんだ。戻れたらダンジョン攻略が進むかもしれない。それに…あいつみたいな犠牲を出したくない…。」
「そうだよね…。でも、たく。命だけは大切にしてね。回復と言っても蘇生なんて無理だから。」
「分かってる…。」
そんな話をしてると、他の生徒達がゾロゾロと集まってくる。みんな眠そうだ。ストレッチをしてなんとか体を起こそうとしているものもいる。
そこに、騎士団長がやってきた。
「フリューゲルさん、朝からどうされましたか。」
「ん?あー、今日は外から指導者を招いている。君達は異世界から召喚された者だ。そして勇者、聖女の可能性を持つ者もいる。そんな人たちを鍛えれるのは冒険者の中でもSランク以上だ。」
「騎士とは違った戦い方を学べということでいいですか?」
と質問したのは、飯島の同級生の吉田だ。
「そうだ。もう来てある。あともう1人は魔王のひとりだ。どうやら召喚された勇者を見てみたいというのでな。こちらに招いた。」
「魔王!?」
「どうして魔王が!?」
「落ち着きたまえ、諸君。魔王エンゲルではない。むしろこやつは魔王エンゲルのことを嫌っているようだからな。まぁ、とりあえず2人とも来てくれたまえ。」




