小さな楽しみ
久しぶりです!
イリアはSランクの説明を終え、王妃に呼び出される。
部屋に向かうと、レティーシア王妃だけが椅子に座っていた。ドアの近くにはメイドが2人居るみたいだ。
「何かしら。」
「以前言っていたじゃない?裁縫とか料理を誘うって。それを誘いに来たのよ。」
「確かに、そういう事も言っていたわね。確か友人として行けば良かったのよね。」
「そうよ。だから今日は今からメイド達が住む場所に向かうの。」
「そ。分かったわ。それじゃあ一応警護しようかしら。」
「別に何も持たなくていいのよ?イリアちゃん。」
「何も持たないわよ。」
そしてイリアとレティーシア王妃はメイド達が集まって休憩などをしている場所に向かう。それは城の中にあり、皇太子の部屋などよりは下のフロアにあった。
ドアを開けると、10人ほどのメイドが食事などの休憩をとっていたり裁縫などをしていた。
「王妃様!?なぜこちらに!?」
「えぇ、こちらのイリア・フィーリアスちゃんと裁縫や料理で交遊するのよ。」
王妃に紹介されたイリアは少しだけ鼻を高くする。
「今紹介された私がイリア・フィーリアスで王位吸血鬼よ!勝手によろしくさせてもらうわね。」
さすがにいきなり種族暴露にメイド達は驚きを隠せない。元冒険者でメイドとなっていた者はむしろ後ずさりしようとする者まで現れる。
「こんな子だけどイリアちゃんはまだ2歳くらいの子供だから。」
「こ、こんな子って何かしら。」
「あら?相手が王族だろうと誰だろうと構わずタメ口でいこうとする女の子でしょ?」
「ウッ…。それは仕方ないじゃない。2歳に敬語なんて求めたらダメよ。本当だったらアリアより年下なのに…。」
「それだったら私の事もママって呼んでいいのよ?」
イリアはさすがにそれを言われるとは思っていなかったようで「えっ。」と言ったあと固まっていた。
「それはさすがに立場的にやめといた方がいいんじゃないかしら。」
「確かにそうねぇ。あなた一応トップの立場なのよね。」
「そうよ!だからママって呼ばなくていいのよ!」
(あれ、レティーシアが寂しそうね。じゃあ…。)
レティーシアの耳傍で静かに、「2人きりの時はママって呼んでもいいわよ。」と。
すると、レティーシアの表情が凄い明るくなっていく。
これで良かった、と。少し恥ずかしいけどまぁしょうがない事だろうと。考える事にした。
(それにしても取るだけ取って使った事ないわね。【裁縫】なんて。)
「ほら、イリアちゃん、これゴールドキャタピラーの絹糸よ。これならいい物が作れるんじゃない?」
「ありがとう。じゃあ早速何を作ろうかしら。そういえばこれからどんどん寒くなるんだったわね。何か作って欲しいものとかあるかしら、ママ。」
「じゃあマフラーと手袋をお願いしようかな。ママ甘えちゃおうかな。」
イリアはスキル【裁縫】を使い、まるで経験豊富かのように縫い進めていく。
「この糸、とても縫いやすいわね。さすが最高級の絹糸。」
「厳選に厳選を重ねた絹糸だけをここ王家で取り扱っているのよ。」
「なるほどね。」
それから10分ほど経つ。手袋が両方出来たようで早速王妃につけてもらうことにした。
「あら!凄い上手に出来てるわね!」
「そ、そう?それなら良いけど、マフラー次作るから。」
「良いわよ、待ってあげる。」
それから15分ほど経った時、
「そうだわ。イリアちゃん。あなたせっかく魔王なんだし、国の名前とかでも決めといたらどう?色んなところに存在する魔王達みんな国を立ち上げてるわ。」
そんな事実に少し驚いて針を指に刺してしまう。
「イタッ」
「大丈夫?」
「大丈夫よ。刺さった時は痛みがあったけど、ほら。もう再生しているわ。気にしなくていいのよ。」
そうやってイリアはレティーシアに右手を見せると、針が刺さったところから出てきた血液は次第に指の中に戻っていく。そして刺さったような傷跡が完全に消え去った。
「私も少しタイミングが悪かったわね。ごめんね、イリアちゃん。」
謝られたことに少し驚くも、
「別に謝らなくていいのよ。私がもう少し気をつけていればいい話だし。あと国の名前…ね。穢れの森が支配領域だから、あそこに国を立てるとしたら…何がいいかしらね…。フィーリアスをそのまま使おうかしら。だって私の苗字でもあるわけだし。フィーリアス王国?帝国?どっちかしら。私は。」
「イリアちゃんは今後、進化を目指すの?まだ帝位と真祖があるけれど。」
「もちろん目指すは真祖よ。」
「じゃあちょっとかっこよさとかも欲しい?」
「確かにちょっと欲しいかもしれないわ。」
すると、王妃は少し考え込み、部屋の中をグルグルと歩き回り始める。
考えている間にもマフラー製作に着手し、王妃の分のマフラーが完成に近づきつつあった。
そして、王妃は思いついたのか、イリアの元に近づいて、横に座る。
「決めたわ!フィーリアス魔神国なんてどうかしら。だってあなた、魔神を多数率いてるじゃない。あと以前見たけど穢れの森に城が出来上がっていたわ。もう完全に国と呼んでもいいんじゃない?もはや森とは呼べないのだけど。」
「森の部分なら残ってるわね。それに森も含めて国家とすればいいじゃない。今は二十魔将それぞれに支配領域を決めて、その中央にイリアちゃんで、その四隅に四天凶のみんなの領域を置けば安全じゃない?穢れの森は王国より広いわけだし。」
「さすがね、ママ。確かにそれなら良い感じの国になりそうね。じゃあ国として独立したら早速王国と同盟を結ぼうかしら。」
そんな話をしている間もどんどんマフラーは完成に近づいていく。
そしてついに完成したのだった。
「ママ、マフラーが完成したわ。あと、貰った糸で余り物があったからフーバーンとアリアとラファエロの分も作ったわ。そうだ。【付与魔法】防塵、防火、防水、耐熱、不壊を付与。これでいいわね。はい、あげるわ。」
「ありがとうね!イリアちゃん。後で3人からもお礼を言うように伝えておくわ。」
「別にお礼なんて要らないわ。」
それから2人は夜になるまで裁縫やら料理を楽しんだのだった。




