大狂騒編 その2
イリアは【万里眼】で魔物側を確認する。すると、透明の魔法でもかけられているのであろう。巨体を視認する事が出来た。
名前:ギガント
種族:巨石像型魔神
レベル:1760
体力:1800万
魔力:0
攻撃力:1700万
防御力:4900万
機動力:40000
スキル:剛腕LvMax、鉄壁LvMax、要塞LvMax、投擲LvMax、魔法攻撃無効Lv-、自動再生LvMax、幻惑LvMax、透明化LvMax、殴打LvMax、森羅万象LvMax、金属化LvMax、眷属召喚LvMax、言語理解Lv-、千里眼LvMax、眼力強化LvMax
大罪スキル:憤怒Lv-
「ねぇ、ガゼル。魔物の後ろにふんぞり返ってる巨像見えるかしら。」
「いや、見えねぇな。なんかいるのか?」
「どうやら魔神みたいだから殺してくるわ。」
「お、おい。大丈夫かよ。」
「これでも王位吸血鬼よ?舐めてもらっちゃ困るわ?それに魔神討伐はした事あるのよ?」
「まぁ、気をつけろよ。」
「そちらこそね。魔神の相手する代わりにSランク程度のシータイガーがそっちに向かってるからそれお願いね。」
イリアは魔神のほうへ飛び去っていく。
ガゼルは1人ぼやいていた。
「いや、シータイガーはSSランクだっつーの。ってもう聞こえてねぇか。」
イリアは魔神に向かって話し掛ける。
「ねぇ、そこのギガント君。おーい、そこの憤怒を持ったギガント君?」
「ナンダオマエ、ナニヲシニキタマゾクガテキトシテデテクルナゾキイテナイ。」
「何かしら。もしかして魔族と協力して王都を狙おうとしてるのかしら。」
「魔王エンゲル様ニツカエシ魔神ガ1柱、巨像の魔神ギガントナリ。魔王様ノ命令二ヨリコノ王都ヲホロボス。」
「やっぱり他にも魔王が居るのね。エンゲルってやつがどんな奴なのか楽しみね。あー、私なのだけれど、破滅の魔王イリア・フィーリアスって言うのよ。よろしくね?」
「ナニ!?魔王ダト!?ナゼ魔王ガニンゲンニカタイレシテイル。」
「何って、この王都の人達に恩とかがあるからかしらね。あとは友人を持ったのも理由の一つよ?友人が住む都市を守るのも普通じゃないかしら。」
「配下ノモノ二マカセレバヨイダロウ二、ナゼ魔王直々二マモルヒツヨウガアル。」
「配下って言っても私の配下達って人間蔑視がわりと強めなのよねぇ…。下等種やナメクジとか蔑みまくりだから、人間に対してかなり友好的に接する事が出来る私が出てきたまでよ?まぁ一人は何とかここの警備に当らせることは出来たけれど。」
「魔王イリアノ名前二キイタオボエガナイ。新参者カ?」
「私はここ半年で魔王になったばっかりのひよっこ魔王よ?それでも龍魔王タンドラとか言うやつには死んでもらったけど。」
「龍魔王ガ一体ナクナラレタダト!?オマエガヤッタノカ?」
「いいえ?私の配下の配下がやってくれたのよ。だから今度ご褒美をあげなくちゃって考えたりもしてるのよ?ところであなたがこのままここに攻め込む気なら私が全力で叩き潰してあげるけれど、エンゲルとやらが命令したのだから背くのは難しいそうよね。まぁ私まだまだ成長できるから経験値になって欲しいのよ。」
「ワレガ相手ヲシヨウ。」
こうして破滅の魔王イリアと巨像の魔神ギガントの衝突を開始した。
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ガゼルは魔物の群れを狩りつつ指示を出していた。
「右側グリーンウルフ6体接近してる!炎魔法以下で焼き払え!左側オーク接近!タンクはガードに徹してアーチャーは目を狙え!魔法士は貫通性の高い魔法をぶち込め!前方ガーゴイル接近!光魔法か神聖魔法を使えるやつは使え!」
ガゼルはギルドのリーダーとして目覚しい活躍をしてAランクに上がっている。その時の大きな声での指示や彼の使う【咆哮】の定着性から、【咆哮】の2つ名を得ている。
「ガゼルさん、指揮官はどこに。」
「【鮮血姫】は魔物側の奥にいるどでかいヤツをぶっ叩きに行った!恐らく巨石はもう飛んでこないだろう!」
「やっぱり巨石は人為的に投げられたものだったんすね。」
イリアと魔神のぶつかり合いによる空気の波動が1キロ離れたガゼル達の戦場にまで届く。
「とんでもねぇぶつかり合いをしてんだろうな。ありゃ将来SSランクになってもおかしくねぇな。もしかすると伝説の誕生の瞬間を俺達は経験してるのかもしれねぇ。」
「かもしれないっすね。って、ガゼルさん、ガーゴイルの後ろからアークサーペントが近づいてるっす。」
「確かに見えるな。それにどうやら今回のボスのうちの一体がお出ましみたいだな。」
冒険者達はたじろいでいた。
戦場に現れたのは海の悪魔と恐れられているシータイガーだ。シータイガーは個体数の少なさとその凶暴性からSSランクに指定されている。過去に討伐されたシータイガーは2体しかおらずその2体がSSランク冒険者によって行われている。現在左翼側にはSSランクはおろか、Sランクもいない。ガゼルを筆頭に倒す必要があったのだ。
「お前ら!狼狽えんな!シータイガーは海に居るからこそ強いんだろ!陸に上がってきたっつうことは弱体化してんだ!海の脅威をそのまま受け取らなくていい!とりあえず水魔法だけは絶対にダメだ!氷魔法もやめておけ!ほかの魔法で対抗するぞ!」
「ガゼルさんの指揮は流石っすね。それにしても余波が凄いっすね、前のあの巨体を殴りつけるとかやばいっすよ。イリアさんって人は。」
「まぁ、とりあえずシータイガーらを倒さないとな。」
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一方右翼側は、
「マイシャ様、天罰魔法の発動準備が整いました!」
「それでは10数えたその後、発動しなさい。角度は水平ですよ。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…。発射!」
「発射!」
透明ななにかが魔物たちを通り過ぎる。
すると、右翼側前方に居る魔物の頭上にメトロノームのようなものが現れ、そして針が右に倒れた魔物は内側から弾け飛び、針が左に倒れた魔物は外側から圧縮され潰れる。針が動かなかった魔物は上下に引き伸ばされ引きちぎられる。
【天罰魔法】広範囲殲滅魔法であり、対象の上限は1万体である。一定以下の魔物はメトロノームの効果により死がもたらされ、アンデッドやスライムなどはメトロノームの効果により強力な神聖魔法を内側、そして外側から浴びる事になる。一定以上の魔物に対しては効果がない。Lvの概念は存在しない。1人で発動する場合、魔力1000万の消費をする。大抵は10人ほどで行う。
「あらかた片付きましたね。右翼側は全滅でしょうか。」
「いいえ、まだ全滅はしていませんよ。そこにいるではありませんか。シャドウドラゴンが。」
「え、気づきませんでした。シャドウドラゴンと言うとSSランクの魔物でしたよね…。」
「えぇ、私マイシャを筆頭に横一列に神聖魔法を放って下さい。シャドウドラゴンの討伐歴はありますので。」
「分かりました。あと左翼側のガゼルからの念話により、左翼側にはシータイガーが確認されました。」
「こちら前方側のリヒトからはデストロイナイトを確認したとの報告が。」
「SSランクの魔物が三体ですか。それもこちらの動きを予知したかのような攻め方ですね。左翼側のイリアは何をしているのでしょう。」
その時、マイシャに念話が届く。
(ねぇ、あなたマイシャなのよね?私イリアなのだけれど、巨像の魔神ギガントってやつをぶっ殺してる最中だから私抜きで頑張って。)
「たった今、イリアからの連絡が届きました。魔王エンゲルの三大将軍のうちの1体、巨像の魔神ギガントと交戦しているようです。」
「となると今回の大狂騒は魔王エンゲルの配下の仕業という事なのか。」
「確か魔王エンゲルって300年ほど前に人間に宣戦布告をしてましたよね。それで勇者の登場で人間側が巻き返した事により一時停戦になったと。」
「確かにそう書物にも記されています。」
(ではこちらはシャドウドラゴンの討伐に参りますので念話を切らせていただきます。ガゼルにヴァイラにイリア、頑張ってください。)
マイシャは念話を切り、シャドウドラゴンの方を向く。
(以前戦ったシャドウドラゴンより一回り小さいですがそれ以上に鍛えられていますね。機動力と攻撃力が高いのでしょうね。もしかすると防御力も。)
マイシャ達は【神聖魔法】聖域の集団発動準備を始める。その間にタンクや剣士達が応戦する。
「こいつ鱗かってぇ!全く切れねぇ!」
「大盾で防いでるのに衝撃を消しきれねぇ!」
シャドウドラゴンに掴まれ投げ飛ばされる冒険者まで現れる。マイシャは多重詠唱として、投げ飛ばされた冒険者に対して【落下衝撃吸収】を付与する。
「マイシャ様、発動準備が整いました。」
「えぇ、今すぐ発動してください。」
マイシャの教え子達は【神聖魔法】聖域を発動する。シャドウドラゴンを覆うように光のエリアが構築され、その中のシャドウドラゴンに超高熱な光を全体的に浴びせる。これは攻撃型の聖域だ。使い方を変えればお掃除に使えるが、普通はそんな事を考えない。儀式魔法をお掃除として使うなんて馬鹿は居ないからだ。
シャドウドラゴンから瘴気のようなものが出て、シャドウドラゴンの体積が少し減る。傷ついたかのように前にガクッと倒れる。しかしまだ絶命していないのかその眼光は凄まじいものである。
「さすがは竜種ですか。」
ちなみに【神聖魔法】聖域は儀式魔法だ。複数人で発動するのが普通である。
「みなさん、私が今から大魔法を使います。シールドの展開を忘れないように。」
マイシャは忠告の後、詠唱を開始する。
「我、理を断つ絶界の民なり。我、古を呼び起こしし使徒なり。我、屍を踏み越えし勇みし者なり。今絶界より神界へ願い奉る。神界の断罪をもって、絶界の穢れを正したまえ。【神罰魔法】神之制裁。」
【神罰魔法】魔法の中で唯一詠唱を必要とする。神界と交信し初めて発動できる。代償として詠唱者の感情を1つ消し去る。人たらしめる感情の消失によりスキル【神罰】と同等の威力の攻撃を放つ事が出来る。Lvの概念はなく、1度発動すると、2ヶ月発動することが出来ない。ちなみに詠唱中は動くことが出来ない。
シャドウドラゴンのいた場所に天から光りつつも黒い光線が地上に降り注ぎ、シャドウドラゴン、そしてその後ろの魔物達の消滅をもって発動を終了する。
「はぁ…はぁ……。右翼側の魔物の消滅の確認。前方。後方、中央に再分配を行います。」
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一方、前方側のヴァイラは…。
「マイシャがあれを使ったね。後で労うとして、デストロイナイトに魔法は効かない。それに中位以下の物理攻撃も効かない。高位の物理攻撃、または力任せの攻撃でなくてはならない。ここにイリア殿が居れば…。」
デストロイナイトは騎士道精神に準ずるかのように敵がこちらが攻めてくるのを待っているようだ。来る者は斬り、逃げる者は追わず。あくまでその場から動かない。意志を持つかのようなその行動に、ヴァイラ達は警戒を強める。
「みんな、デストロイナイトは通常、逃げる者すら斬る残虐性を持っているんだ。私が過去に討伐したデストロイナイト11体全てがそうだった。こいつはそれ以上の力を持っているね。さしずめ危険度はSSS-といったところか。」
「SSS-と言うと、伯爵級の吸血鬼や悪魔でしょうね。」
「では、デストロイナイトには死してもらいましょう。何故私が宣告者という2つ名を持っているのか。これをお見せしましょう。これは1度使えば二度と使えなくなりますが、構いません。」
「【死刑宣告】対象:デストロイナイト 死因:消滅死
時刻:2分後 発動。」
『死刑宣告が発動されました。2分後、発動を開始します。』
「今から2分間の間、全力でやつの攻撃を防いでください!来ますよ!」
デストロイナイトは死刑宣告により死が迫っている事に気づいたのか、先程の落ち着きをなくし、狂乱状態に陥っている。先程までは逃げた者は逃がしていたが、それを辞め、命を刈り取ろうとしている。槍を振り下ろす直前にタンクが前に出て、攻撃を防ぐ。しかしその重さから盾を割られ、タンクが吹き飛ぶ。
「デストロイナイトはやはり侮れない。あの速さにあの攻撃の重さ、とてもではないが防ぎ切るのは難しいな。」
「【大地魔法】岩之檻」
ヴァイラの発動した大地魔法でデストロイナイトの動きを阻害する。岩に激突したデストロイナイトは多少ふらつきながらも岩ごと斬り裂いて突進してくる。
「【精錬魔法】水陣の盾。」
またも突如でてきた水が盾のような形をしたシールドによりデストロイナイトの行く手が阻まれる。その水はデストロイナイトの鎧の中に侵入し、やつの動きを鈍くする。先程までの重い攻撃が水により緩められ、タンク1人でも防げるようになった。
「あと1分!あと1分持ちこたえなさい!」
あと1分という言葉に気づいたデストロイナイトは狂乱状態を鎮め、必殺の構えを取る。
喋るはずの無いデストロイナイトが口を零す。
「【絶槍:八咫烏】」
水により動きが鈍くなっていたにも関わらず、デストロイナイトは構えを取った直後、中に入ってた水が押し出され、蒸気のようなものが湧き出ている。
「死にたくなくば盾を構え、防ぐがよい。」
突如デストロイナイトから発せられたそのセリフにヴァイラ一同は厳戒態勢の元、【神聖魔法】神聖守護之盾を発動する。
残り40秒。
デストロイナイトの神速とも取れる速度の接近からの槍を投げつける。その瞬間、槍が8つに分裂し、再構成され、8つの巨大な槍が迫る。それぞれ、炎、水、氷、風、土、光、闇、雷の属性を纏う槍に変化している。最初に炎の槍が到達する。シールドとぶつかる際、キキキー!っと激しい音を立てながら競り合う。
徐々に炎の槍の威力が減退してくると次に水の槍が迫る。これを繰り返していくうちにシールドが破られ、土の槍によりシールドが完全に破られる。冒険者達に残り4本の槍が迫り、着弾と共に大爆発と大爆風と共に冒険者の肉片が散らばる。
一方ヴァイラも左脇腹を抉られ、後方の【守護者】が居るところまで吹き飛ばされる。
「おい、ヴァイラ!お前大丈夫か!」
そう声をかけたのは、SSランクの【守護者】の2つ名を持つアドベインだ。
「な、何とかね…デストロイナイトの強烈な技を食らったよ。恐らくは死傷者だけで100は超える。前方はほぼ全滅だ。リヒトには後退させているが、リヒトも肩をやられている。速やかに回復させなくては。それに【死刑宣告】の発動が却下された。やり直しだ。」
そこには重い空気が漂っていたのだった。




