大狂騒編 その1
王都入口前に来ると、既にざっと100人以上の冒険者が立っている。いや、その3倍は居そうだ。
すると大きな掛け声とともに静寂に包まれる。
「よく来てもらった!私はSSランクで【魔皇】と呼ばれるヴァイラだ!来てもらったのは他でもない!死の墓場からこの王都に大量の魔物が押し寄せつつある事だ!騎士団との連携の元、動くことが決定した!
右翼側!左翼側!中央側!後方側!前方側の5つに分けて行動してもらいたい!各陣営の指揮官として前方側に【魔皇】が、右翼側に【天眼】が!中央側に【鉄槌】が!左翼側に【鮮血姫】が!後方に【守護者】がつくことになった!【鮮血姫】はランクこそAだが、実力だけならSランクオーバーはある!その点は安心してくれていい!お前たちの中にも王都に家庭を持つ者も居るだろう!または親しき友が暮らしている者も居るだろう!または戦功のために来た者も居るだろう!私からはこの言葉を最後に締めくくろうと思う!絶対に守り切るぞ!」
ヴァイラの演説ののち、大歓声があった。
あまりのうるささにイリアは耳を抑える。
「るっさいわねぇ……。ええと、今の話だと左翼側の指揮官って事なのね。」
既に冒険者達は各陣営に分かれ話し合いが始まっていた。しかし左翼側は話し合いが始まってすらいない。
「なぁ、【鮮血姫】って最近Aランクになったそうだぞ。何でも魔神の一体を倒したんだとか。」
「それまじ?やばすぎないか?ホラとかじゃないのか?」
「いや、そうでも無いらしい。【砲撃】や【護り手】や【剣聖】が認めてるくらいだと。それにこの国の国王たる【剛撃】、【魔皇】、【天眼】に【鉄槌】も認めてる。これは相当な実力者だろうな。あと2つ名からして女ではあろうが、【魔皇】って例があるから侮れないぞ。」
「そうっすね。ってあそこの木箱の上に座ってるのがその【鮮血姫】なんじゃないんすか?」
「ちょっと話しかけてみるか。」
イリアの元に向かって歩いてくる男が2人。
「何かしら、そこの2人。」
「俺はあんたと同じくAランクで【咆哮団】のリーダーのガゼルだ。【咆哮】って呼ばれてる。あんたが指揮官と聞いて挨拶に来たって訳だ。」
「あ、私は最近2つ名をゲットしたのよ。2つ名で呼ばれてみたくて頑張ってたのだけれど、いざ呼ばれ出すと少し恥ずかしいわね。あ、私はイリア・フィーリアスよ。」
「まぁそれに関しては時期に慣れる。それでなんでその木箱に座ってたんだ?」
「さぁね、指揮官はどこに居ればいいかさっぱりだから。だって私ソロなのよね。」
「ソロでAまで上り詰めたのか!凄いな!それに家名持ちか、恐らくその家名を持つ奴らはみんな強いのだろうな。」
「さぁねぇ、私はこの名前を持っていた人を1人しか知らないから分からないわ。でその1人もそもそも生まれた時代が違うから知らないのだけど。」
「俺の直感なんだが、あんた吸血鬼か?」
イリアは突然種族を勘繰られた事に少しビクッとする。
「なんでそう思ったのかしら。」
「いやなに、あんたの魔力の質が吸血鬼に似てたからだ。俺は【魔力質看破】ってスキルを持っていてな、例えば相手の種族が分からなくてもその質を見るだけで何となく種族が頭に出てくるんだ。」
「ハァ……。私は王位吸血鬼よ。」
「王位吸血鬼!?マジかよ!でも王位だと強さ的にはもう凶獣クラスだな。」
「そうなのかしら。それでその凶獣クラスって何なのかしら。」
まるで当たり前のことのようにため息をつかれながらも教えてくれた。
「魔物には冒険者と同じで強さでランク分けされてるんだが、FランクからSランク、SSにSSSランクがあってその更に上に凶獣ってのがあるんだ。SSSと凶獣の違いは単純に脅威度の違いだな。悪魔と吸血鬼は進化の過程がとても多いだろ?それのせいでSSランクの時点で子爵級なんだよ。なら想像がつくだろう?伯爵に侯爵、公爵、王位、帝位、真祖はどのランクなんだ?って。まぁ簡単な事だ。SSSランクを3つに分けるんだ。SSS-とSSSとSSS+の三種類だ。それぞれ、伯爵、侯爵、公爵だ。なら王位以上は必然的に凶獣に分類されるんだ。あとは王位以上の吸血鬼の強さはあまり歴史には残ってないんだ。魔王と同格とも言われてるんだが、それに関してもさっぱりだ。これで分かってくれたか?」
「ありがとうね、それを知れただけで満足よ。あと私まだ1歳だから。」
「え、1歳?まだ1年しか生きてないのか?まさか1年で吸血鬼から王位吸血鬼まで成長したのか?」
「えぇ、そうよ?」
「普通は数百年かけて進化させていくもんだと思うんだがな。だから大抵高位の悪魔や吸血鬼は長い時を生きているが、イリアは成長促進系の称号を持ってるみたいだな。」
(まぁたしかに【転生者】の称号のおかげでかなり早い速度で進化できるのよね。)
「私の運がいいのかしらね。まぁとりあえず集合してもらおうかしら。」
左翼側の陣営が列を揃え、イリアの言葉を待つ。
「えー、私はあまり言葉を言わないわ。広範囲殲滅のスキルを開幕放つからその後うち漏らしたやつの撃滅お願いね。」
魔物がどんどん近づく。津波のように現れた魔物は農作物を踏み荒らし、家々を破壊しながら接近してくる。しかし住民は先に避難させているため問題は無い。
ヴァイラが宣言する。
「前方!左翼!右翼!突撃開始ー!!」
ヴァイラは魔法を放つ。
「【天雷魔法】迅雷!」
マイシャも続いて魔法を放つ。
「【大地魔法】大地之波!」
イリアもスキルを放つ。
「【気候改変】天変地異!」
ヴァイラの迅雷は真っ直ぐ進み前の敵を焦がして塵に帰る。
マイシャの大地之波は大地を動かし、右翼側の魔物達を地面に引き込みすり潰す。
イリアが発動させると、空に大量の黒雲が生成され、雷鳴が轟く。雷鳴が1箇所に集まると同時に半径200mに及ぶ雷撃をかます。
ガゼルはイリアの放つスキルのあまりの威力に少しビビるもスキルが止んだのか、3方向から突撃する。
しかし今の攻撃でもまだ全体の2割しか削れていない。本命は更に後ろに控えているようだ。
冒険者達は次々とスキルを発動していく。
「【火魔法】火玉!」
「【斬撃】!」
「【氷魔法】氷玉!」
「【暴風魔法】竜巻!」
「【三連斬撃】!」
「【水魔法】水爪!」
ガゼルもお得意のスキルを放つ。
「【咆哮】!【身体剛化】!【突進】!【閃撃】!【燕返し】!」
イリアはガゼルの姿を見て、「5つ連続でスキルを放てるのはさすがに凄いわね……。」とうなる。
一見順調のようにみえた。その時、巨大な石が投擲されてるのが確認された。
ガゼルはそこで命令する。
「上空から岩石接近!防御魔法や結界魔法で防げ!」
イリアは指揮官の役を取られ、しょげる。
「はぁ……指揮官の役割完全に取られてるわね…。しょうがないわ。【歪曲次元結界】!」
冒険者達の個々の防御魔法より更に広く更に分厚く、更に透明度を上げて、膜のようなものを形成する。
そこに落ちてくる岩石。直径20mはあろうか。あんな岩石が落ちてくれば、爆風で城壁が吹き飛ぶ。
そう感じたイリアはもうひとつ魔法を発動する。
「【消滅魔法】滅砕落砲!」
先程まで迫っていた岩石が突如として消える。そこになかった余剰の空気が岩石のところに集まり、一時的にミニブラックホールのようなものを形成する。
しかし、膜のおかげで冒険者達は何一つ影響を受けずに済む。ただの結界や防御魔法ならばこのミニブラックホールの影響を受けるが、【歪曲次元結界】であれば問題なかった。
「イリア!これ何の魔法だ!」
ガゼルに声高に質問を受ける。
「結界魔法の応用と消滅魔法よ。」
「なるほどな……消滅魔法が使えんのかよ。」