大狂騒準備
王国内の魔法士の1人が告げる。
「現在王都にて総勢20万を超える魔物が死の墓場から迫ってきております。空挺偵察部隊の報告によりますと、ゴブリンやオーク、オーガなどからホーンタイガーやスパイダーなどもいます。さらに奥にはトロルやフローズンウルフなども確認しました。そして極めつけにSランク相当のデッドリーパーも確認しました。」
王国の重鎮達にどよめきが走る。
「それは一大事ですな…。騎士団の出動を要請しましょう。それに冒険者を多数集めましょう。そしてランクはどうしましょう。デッドリーパーが居るのでしたらAランク冒険者は必要でしょうな。」
「上はそれでいいとして下はどうするのだ。Fランクなんぞ使い物になるまい。最低Dランクがいいところだな。」
「この私、王都ギルドマスター兼【魔皇】ヴァイラが申します。Eランク以下の中でもトロルの討伐歴のある者達などは連れていきます。」
「死の墓場は危険な場所だ。教会からも支援が欲しい。お前達はいかほど出動させられる。」
「神の命とあらば動かざるを得ません。我々は神聖部隊300を出しましょう。」
1人の重鎮がつぶやく。
「最近、穢れの森がやけに静かだ。あそこからの氾濫なんじゃないのか?」
1人の重鎮が反論する。
「何を言うか、穢れの森と死の墓場の位置は王国を挟んで対極の位置にあるのだぞ。そんなわけがあるまい。」
更に言い返す。
「しかし、あそこの竜が倒されたというではないか。可能性も考慮すべきだ。」
宰相が陛下に口添えする。
「陛下、いかが致しましょう。」
フーバーンは王命を出す。
「死の墓場の大狂騒を騎士団、そして冒険者をもって鎮めよ。そしてこの気に乗じて犯罪を犯す者は必ず現れる。街の警戒に騎士を100は割くようにせよ。」
宰相含む重鎮達は陛下に一礼し部屋を出る。
フーバーンは1人考えていた。
(死の墓場はアンデッドしかいないはず。なのに生者の魔物が現れた。ということは人為的に行われた大狂騒である可能性が捨てきれん。何かしらの魔導具を使って生成でもしたのか?それとも魔物を王都を通らずに迂回させたのか?今は的確な判断は下せんな。それに今はイリア様にはラファエロの稽古をさせてもらっている所だ。イリア様の配下に頼みたいところではあるが、魔神が出れば返って警戒されかねない。どうしたものか。)
考え込んでいるフーバーンの耳元で突如声が聞こえる。
「何を悩んでるいるのかしら。」
「うお!気配もなく突然近寄られては驚くぞ。して、いつから居たのだ?」
「さぁねぇ…、会議を始めたあたりからよ。あとイズナは出せないわ。私なら別に構わないわよ?だってAランク冒険者だし?普通じゃないのかしら。」
「最初から居たのか、ヴァイラ殿は気づいていなかったようだが、なにか細工でもあるのか?」
「さぁね、魔力を完全に隠蔽して、魔の気配とやらも完全に抑え込んだからバレなかったんじゃないかしら。あとは単純に隠密ね。」
「それではイリア様も頼めるか?大狂騒の鎮圧で前衛を頼みたいのだがいいか?」
「承ったわ。それじゃあ今晩にでも来そうかしらね。準備はしておくわ。」
「前衛を頼むついでに前衛部隊の一部指揮も任せたい。今王都には、【魔皇】と【天眼】【剛撃】の3人だけだ。ちなみに【剛撃】は私であるが。」
「…分かったわ。それじゃ指揮もやるわ。」
「何をそんなにため息をついているのだ?」
「私前にも言った事があるのだけど、2つ名が欲しいのよね。呼ばれてみたいじゃない?2つ名。」
「ん?知らないのか?最近ギルド内ではお前さんのことは【鮮血姫】と呼ばれているぞ。どうやらお前さんの戦いぶりを見た者が居るそうでな。そいつがそう呼び始めたらしい。」
イリアの顔に笑みをこぼし出す。
「嬉しいわ!やっと2つ名ついたのね!これで名声を得たのよね!よし!」
「この表情だけを見たら普通の女の子なのだがなぁ…。」
「何か言った?」
「いや、独り言だ。気にしなくていい。」
「そう?ならいいのだけれど。あ、そうそう。今日の分のチョコ貰える?食べてからの方がやる気出ちゃいそう。」
「食堂に既に用意してある。食べてくるといい。」
「分かったわ。それじゃあ行ってくるわ。」
イリアは会議室を出て、食堂に向かう。たまに通る道なので変わり映えのない景色だが、今この環境が変わっていないというのもまたいい事なのだろう。
食堂に入ると皿に積まれたチョコクッキーがある。今回はチョコケーキもあり、最高だ。
イリアが頬を膨らませながら口いっぱいにケーキを食べていると、レティーシアが食堂に入ってきた。
「あら、チョコケーキなのねぇ、イリアちゃん口いっぱいに食べてるわ。美味しそうね。」
「こ、このチョコはあげないわよ!」
渡さないようにしながらもケーキを口へと運ぶ手を止めない。
「イリアちゃん本当に可愛いわね。少し前のアリアみたいねぇ。」
どうやらこの時のイリアはアリアより精神年齢が低く見られているらしい。と言うよりそもそも年齢でアリアに負けているのだが。イリアはケーキを完食し、クッキーに手をつける。飲み物は魔物の流した血液だ。元々吸血鬼のため当然血は至高である。
「イリアちゃんその飲み物は美味しいの?」
「人間にとっては激マズなんだろうけれど私にとっては最高ね。」
イリアはそう言いながらコップに手をつけて飲み干した。その時、レティーシアがふと疑問が湧き出たみたいで質問してきた。
「イリアちゃんってどうしてそんなに礼儀とか所作が良いの?」
「えっ?私は普通に過ごしているだけよ?」
「それにしては何年も同じ事を繰り返しているかのような所作の完成度っぷりよ?もしかしてそういうスキルでもある?」
「えぇ、持ってるわよ?礼儀作法ってスキルをMaxまで上げてるからね。」
「それのおかげなのね!もしかして他にそういうスキルがあるの?」
「えぇ。裁縫と料理ならあるわ。」
「それなら今度2人で裁縫でもしてみない?」
「それは冒険者として行けばいいのかしら。」
「いいえ、友人として来てくれればいいわ。その方が気楽でしょう?」
「確かに冒険者として行くと何かとやっかみを言われそうなのよね。それじゃ行くわ。また後でね。」
そしてイリアは戦場である王都周辺へ向かうため王都入口に向かった。




