イズナの奮闘とイリアお嬢様
前回から1週間ほど時間が経ってしまいすみません。ゲームのイベントにハマってしまいました。
イリアはダリオン王国王都上空に居た。
体が言うことを聞かない。しかも豹変したかのように突然3つの魔法を放とうとする。
恐らく言うことを聞かないのは本能なのだろう。これをどうにかしないと、魔法名の予測だと、隕石落としてボロボロにしたところで遅死系統の霧で徐々に死に至らしめ、最後の消滅魔法で生き残りを消すんだろう。そんなことはさせない。イリアはある程度、戦闘モードに突入し、それに没頭すると本能が目を覚ますのだろう。
しかしどうやって、本能の行動を抑えるのだろうか。スキルを探すが特に本能を抑えるスキルなどは見当たらない。
すると、下から何か声が聞こえる。
何か言い合う声だ。心の中だけで耳を澄ますと、イズナとフーバーンの声だ。どうやら自分がまだあの西側の島に居ると思っているようだ。だが、それは違う。魔神ともあろうものが感知をミスるはずがない。
となると行きしに時空が歪むほどスピードを上げたせいだろうか。もしそうだったとしたらさらにヤバそうだ。
(どうしたらいいのかしら。)
本能の私の方は今にも魔法陣の構築を完成させようとしている。
(魔法陣って斬れるのかしら。もし斬る事で魔法を中断させれるならイズナにでも斬ってもらわないとね、せっかくの刀の魔神なのだからそこは有効活用しなきゃね。)
なら、本能に反抗しないと…。
イリアは全力で魔法陣の構築を精神的に妨害しようとしている。少し構築速度は緩やかになったが既に85%は完成しているようだ。
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イズナは上空へと飛び立つ。魔神ならば誰でも出せる翼を広げ、空高く舞う。魔法陣に近づくにつれ、威圧を受けているかのような感覚を覚える。
誰かから【威圧】や【威圧の魔眼】を食らっているような感じは無い。この感覚の原因は恐らくこの大規模な魔法陣からだろう。
「ただの魔法陣が威圧のような覇気を出しますか…。威圧を受けると魔法陣が斬りにくくなりますからね。厄介極まりない。術者が誰か知りたいものですが、そろそろ近づけるでしょう。」
イズナは立ち止まる。そして驚愕の表情を浮かべた後、最大限の警戒態勢を取る。
そこに居たのは、角や翼や尾を生やし、血液で作ったであろう大鎌を片手で握りしめ、もう片方の手は凶悪な覇気を見せる篭手をつけているイリアであった。
イリアは少し本気を出そうとすると髪が逆立つ。今まさに逆立っている。でもあの2本の剣を装備した時の方が遥かに本気のため、まだ本気では無さそうだ。それでも主たるイリア様に傷をつけるのを躊躇ってしまう。しかしこのダリオン王国はイリア様にとって価値のある国だ。残さなくてはならない。
イズナは刀を構え、魔法陣に向かって一閃を放つ。
「【刀剣奥義:紅孔雀】。」
イリアの構築する魔法陣に傷をつけるもすぐに再生される。
「一閃だけでは足りないか。さすれば。【刀剣奥義:羅刹多閃】。」
イズナの刀から何百もの閃撃が走る。魔法陣を容易く切り裂き、魔法陣の破壊に成功する。しかし、気を緩ませた瞬間、真横を何かが通りすぎる。
「アラ、ハズシチャッタワ。モウイチドネ」
「【消滅魔法】誘いの祠」
またも何か白い光が通り過ぎる。
躱せない速度では無いものの気を緩めると当たってしまう。
「イリア様の魔力が底知れませんね…。【消滅魔法】はかなり魔力消費の多い魔法のはず。それをもう既に100個ほど放ちましたか。当たった地面を見たら溶けてるじゃありませんか。しかも溶けた部分が消え去っている。非常に危険ですね。刀で防ごうにも刀が溶かされてしまいそうですね。」
ついでにイリア様は恐らく本能で行動している。それを止めなければ……。
「【刀剣奥義:絶唱連舞斬】」
刀の残像が舞っているかのような連撃を放つ。
イリアは全ての斬撃に斬撃を当て相殺する。
イリアはすぐこちらに来る。かなりの速度だ。
「【回死魂】。」
「やばい、あれには触れられてはならない……。触れられたら死……ですか。」
イリア様をどう止めましょうか。イリア様は様々な無効化スキルを保有していますし……。では……これなら。「【刀剣秘奥義:虎落笛】。」
【刀剣秘奥義:虎落笛】
使用者の体力を半分に減らす事で全ての無効化スキルを貫通する。対象に攻撃を触れさせる事に成功すればいずれかの状態を解除する。Lvの概念は存在せず、1度使用すると、次本能状態の解除に使うことは10年の間、使用することが出来ない。
・本能状態
・傀儡状態
・魂魄状態
「必ず当てる!イリア様を元に戻す!」
「【煉獄魔法】黒炎砲【森羅万象】天憶。【時空間魔法】歪曲次元【連携強化】。」
イズナは煉獄魔法をかいくぐり、時空間魔法の歪んだ次元を元に戻し、最後の理解できない魔法を素手で喰らう。
イズナは左腕をねじきられつつもイリアの腹まで到達し、発動する。
「【刀剣秘奥義:虎落笛】発動!」
先程まであった覇気が全て消え、翼や尾や角は全てしまわれ、気を失ったイリア。それを片手で支えるイズナ。城内に戻ってくると、フーバーンが驚きの表情を見せる。
「イリア様!?イズナ様……これはどういうことでしょうか?」
フーバーンはイズナのちぎれた左腕を見る。
「魔神と言えどイリア様を相手にすると死を覚悟しながらやるしかありません。しかも今回は理性がなかった分、思考しながらの行動を取っていなかったかもしれません。」
イズナは続けて、
「フーバーン様、イリア様を休ませる場所を用意してくださいますでしょうか。」
「分かった。セバスチャン、イリア様を王直属の寝室へお連れなさい。丁重に扱うように。」
「かしこまりました。」と一礼し、セバスチャンはイリア様を姫様抱っこで連れていく。
イズナは力が抜けたのか、膝をつく。
「イズナ様、その左腕は……。」
「イリア様の攻撃でねじきられましてね。再生魔法や回復魔法、神聖魔法をかけているのですが、一向に回復しないのです。しかしイリア様の御前で無様に怪我をしているからと膝をつくなどイリア様の泊に傷がつく。それだけはならないため、イリア様のおわす所では耐えておりました。さすがに体力八割消費はきついですね……。まさかここまで削れてしまうとは……。」
「それで……肝心の刀ではどうでしたか……。」
「そうですね…。全て防がれいなされ躱され、最後の秘奥義もこのような結果で、実力不足ですね……。まさかイリア様がいつの間にか、王位になられていましたね……。心変わりでもあったのでしょうか。」
「その秘密が気になったりはしないのでしょうか。」
レティーシアはイズナに聞く。
「気にはなりますが、それはイリア様のお口から話されるその時まで待ちます。今はイリア様の意識が戻られることを待ちます。」
それから2日後、イリアは目を覚ます。
「ん……う〜ん……。あれ……ここ、どこかしら……。」
「ここはダリオン王国の王直属の寝室でございます。」
横には跪くイズナが居る。よく見ると左腕がない。何かあったのだろうか。
「イズナ……あなたに何かあったのかしら。左腕が無いようだけれど。」
「やはり覚えておいでではありませんでしたか。」
「イズナ、私に何かあったのかしら。」
「よくお聞きくださいませ。イリア様は2日前、本能状態のまま、王都に超巨大魔法陣を発動され、王都の住民を皆殺しにしようとしていました。僭越ながら私がそれを阻止させていただきました。しかしねじ切られた左腕が回復魔法や神聖魔法や再生魔法を用いても回復せず、このままになっておりました。」
「なら修復魔法を使うのはどうかしら。持ってないのなら私が使うわ。【修復魔法】。」
イズナの左腕はまるで元からあったかのように修復した。
「ありがたき幸せ。」
「それで私どうしようかしら。体は特に動くのよね。」
「イリア様は早急に本能のコントロールをするべきかと。」
「や、やっぱりそうよね……。昨日西の島でアーカーシャって龍を喰ってから記憶が無いのよ。」
「まさか、その時点で本能状態に……。」
「でも本能ってどうコントロールするのか分からなくて、私も困っているのよね。」
「あと、魔神戦争って私からしたら意外と弱い奴ら同士の戦いだったのかしら。レベルは高いのだけれどステータスの数値が低いのよね。」
「もしかして魔神に勝った側が低いだけで他の魔神は高いのかしら。それなら私も楽しめそう。」
「それとイリアお嬢様。」
「フェッ!?お嬢様!?私が!?」
「えーと、お嬢様はまだ1歳ですよね。それなら別に構わないのではないでしょうか。」
「そ、そうだけれど…。」
「本当でしたらまだお世話が必要なお年頃ですからね?」
「え、でも生まれた時から1人だから親なんて……。」
「それでしたらヘスティが母親で私が父親でよろしいのでは?」
イズナの発言にイリアの脳内はハテナマークを量産していた。
「あの、それってヘスティとまぐわいたいということ?」
「いえ、そのようなことではございません。単純に親代わりとなる者が必要かと存じています。フェイルでは母親は務まりません。ヘスティであれば母親代わりになるかと。」
「部下に甘える魔王ってどういうイメージかしら……。」
「別に良いのではないでしょうか。歳を考えれば至って普通の事ですし……。しかし魔王としてみるなら確かにそうですね……。しかし魔神達が親代わりなのでそこも問題ないでしょう。」
「そ、そうなのね。分かったわ……。」
今のイリアはほとんどこの世界に染まっている。けれどもこの世界には信奉している神は存在すれどもイリアは特にどの神も信奉していない。
神達の住まう【神界】、天使族や天使族に連なる者が住まう【天界】、魔族や吸血鬼や龍などが住まう【魔界】、精霊や妖精、エルフなどが住まう【精霊界】、人間や獣人の住まう【人間界】に分かれている。
例外としてダンジョンは【幻界】と呼ばれている。
イリアは今人間界にいる。穢れの森も人間界に属している。
イリアは回復したのか、いつもの服に着替え、部屋を出る。イリアは道が分からないため、適当に道を歩く、斜め後ろにイズナがつき、歩く。
「ねぇ、イズナ。あなたっていくつなの?」
「私……ですか。既に4000年は生きておりますね。ヘスティは私と同じく4000年ですよ。フェイルは200年、デュポーンに関しては1万2000年だそうです。
ハイウッドはそれより遥かに長い16万年生きているそうです。昔の知識を聞くならハイウッドに聞くのがよろしいですよ。」
噴水広場に着くと、そこにレティーシアが居た。
「おや、レティーシア様でしたか。イリアお嬢様が目覚められたのでリハビリがてら歩いておりました。」
「あらあら、イリアちゃん。もう大丈夫なの?」
「えぇ、もう大丈夫よ。それより離れてくれないかしら。息が詰まるわ。」
「あらあらごめんなさいね。それより更に美人さを感じるわね。それに王の風格を感じるわ。」
「私は王位に進化したのよ。それで元々持っていた称号が進化したのよ、【傾国の美女】にね。」
「でもあなた、まだ1歳の子供でしょう。まだ親に甘えていいのよ?」
「ウッ……。非常に痛い所を突くのね…。」
「親……ヘスティに甘えてみたいけれど甘え方が分からないのよね。」
そこにレティーシアが言う。
「アリアがイリアちゃんに甘えるみたいにすればいいのよ。」
「アリアちゃんみたいに…ね。分かったわ。今度試してみようかしら。」




