稽古依頼と困惑と魔王
翌朝、王城へ向かう。
城門前に何か騎士っぽい人が3人ほどいる。
「あなたはイリア・フィーリアス様でお間違いないでしょうか。」
「えぇ、そうだけれどあなたは誰かしら。」
「私は王国騎士団の第1部隊アサラ・メナス騎士団長と申します。」
続いて2人が挨拶する。
「私は第1部隊メジャスです。」
「私は第1部隊ダリオトです。」
「こちらへ来てください。フーバーン様がお待ちしております。」
イリアはアサラについて行く。煌びやかでどれだけお金が使われているのか考えるだけで頭が痛くなってくる。廊下すら大理石が使われているようだ。それにこのドア、ミスリルが施されている。
飾られている花々は綺麗に整えられていて、花畑は見るだけで心が癒されるような配置になっている。
とはいえ、王に会うからといって態度を変えるつもりはない。いずれ王位に進化するのだから。
「フーバーン様!イリア・フィーリアス様をお連れしました!」
「通すがよい。」
ドアが静かに開かれる。
玉座にはフーバーン国王が、レティーシア王妃が横に座っている。
「久しぶり…とは言えないな。まだ4日ほどしか経ってないからな。」
「えぇ、そうね。それで?何したらいいのかしら。」
「国王にその態度は何様か!たかだか冒険者風情が。」
「よい!」
「何故ですか!立場を理解していない小娘に正してもらうことは当然でしょう!」
「我が良いと言っているのならば、良いのだ!これ以上反抗するのであれば宰相の座から降りてもらうぞ。」
「し、しかし…。分かりました。」
(何かテンプレを見ている気がするわ。)
「イリア嬢には私の息子であるラファエロに稽古をつけていただきたい。それに関してはギルドへの以来で説明しているが、どの稽古を受けさせる事が得意だ。」
「私は拳と剣に関しては良いのだけれど、魔法に関してはほぼ我流でやってるから知らないわよ?」
「そうか、イリア嬢は魔闘士であったな。」
「ラファエロはまず何を始めたいかによるわね。」
「ラファエロは呼んである。ラファエロ。玉座の間に来なさい。」
トントンと小さなノックののち、玉座の間に入ってくるラファエロ。
「ラファエロ、剣と拳と魔法、先に何をやりたい。」
「私は剣から先にやりたいです!」
「なるほど、剣か。それでイリア嬢が剣を持ってる姿を見た事が無くてな。どんな感じなのだ?」
「私は双剣よ?それでもいいのかしら。」
「構わん。」
イリアは異空庫の中から黒神の長剣と白神の長剣を取り出す。刃渡り1m程か。イリアの背丈の7割以上はある。
「もしやかなりの業物か。いや、魔剣クラスか。」
「それぞれ能力があるけれど使用せずに稽古をするわね。」
「分かった。とりあえず昼からにしよう。イリア嬢、少し2人で話したいことがある。レティーシアと宰相、少し玉座の間からでてはくれないか。」
「えぇ、分かりました。」
「分かりました。身の安全を第一に。国王様。」
ラファエロ達3人は部屋から出ていく。
「それで、話って何かしら。」
「最近魔王が現れたのだ…。魔王がどこを根城にしているかが分からなくてな。それでラファエロやアリアが為す術なく殺されるのは見たくない。だからラファエロだけでも鍛えてくれんか…。国王としてではなく1人の父親としてだ。」
国王という立場にありながら深々と頭を下げイリアに頼んでいる。
「別にいいけれど、その前にこちらからも良いかしら。」
「何かあるのか?」
「別に私は王国民のことを虐殺しようだなんて思ってないから。それに私は穢れの森の支配者なのよ。あと、私の部下達にはしっかりとした教育を施しているの。
と言ってもきっとそうしてくれているだろうけどね。でももし私や私の大事な仲間を傷つけるなら、私の本能をもって潰すから。それでいいかしら。」
「ま、まさか、イリア嬢、魔王なのか?」
すると、何を言っているのと言わんばかりに軽口に、「そうだけれど、それがどうかしたの?」と言う。
「まさか魔王の対策のためにその元凶たる魔王に助けを求めるとは…。浅慮であったな…。」
「話が話なら少し笑っちゃうわ。」
イリアは少し微笑んでいる。
「あと、ラファエロに言っておくといいわ。イリア嬢は吸血鬼ってね。」
「イリア嬢、まさか吸血鬼だったのか。それではその服は…。」
「当然、私の血で作ったものよ。私なりに考えて作った力作なのよ。人から貰ったと言い訳したのは済まないわね。あとでレティーシア様に伝えておいてくださる?」
「それで、今のお主のステータスを見せてもらうことは叶うか?」
「いやね。対策を立てられるのは嫌だもの。さっきも言った通り、反抗してくるなら問答無用で潰すって。」
「でもまぁ今は冒険者としてラファエロの稽古の依頼を受けたのだからそちらに専念するわ。」
「腕の立つ冒険者、よりも魔王に鍛えてもらうという方が遥かに成長しそうだ。」
「でも口外はダメよ?特にあの宰相?って呼ばれてた人。言ったら宰相を食い殺すから。」
「あ、それで私からもいいかしら。」
「なんだ。魔王として、か?それとも…。」
「うーんとねぇ、私個人として頼みがあるのだけれど…。チョコ…が食べたいの。良いかしら…。そのチョコが好きなのよ…。」
恥ずかしそうに訊ねるイリアを見て、笑うフーバーン。
「なんだそういう事か!笑。それなら食料冷凍保存庫にあるぞ。たんまりとな。どれくらい欲しいんだ?」
「欲しいって言うより、稽古依頼中でいいから食べたいわ。」
「分かった分かった。そこら辺は見た目通りの反応だな。」
「私だって食べたいものや見たいものがあったら興奮したり恥ずかしくなったりするわよ。」
「とりあえず昼の稽古の後に早速食べるか?」
「え!いいの!?やった!!」
(うわぁー。すごい態度変わったなぁ…。イリアちゃんさっきのあの態度からただの女の子みたいな反応に変わったな。まぁこれは演技とかではなく純粋に嬉しいのだろうな。)
こうしてイリアとラファエロの教師と生徒の関係が始まった。




