動き出す王国
「なに?新たに魔王が出ただぁ〜?若作りババァよー。それは本気か?」
「えぇ、世界の通知により知りました。」
獣魔王ガイオンと教皇シリウスは通話の魔導具で話し合う。
獣魔王ガイオンは考える。
「ちょっと腕試しをしてみたいが、奴が好戦的とは限らんしな。俺様はこれでも獣王国の国王だからなぁ。一応様子見ってとこだろうよ。」
「もし、世界に仇なす者であれば粛清してほしいのです。」
「それ俺らにメリットあんのか?」
「そこは分かりません。どこが支配領域かは把握しておりません。」
「まぁさっきも言ったが、様子見だ様子見。」
「分かりました。では他の魔王の方にもお伝えして下されれば。」
「一応伝えるけどよ、あの龍魔王3体とあの悪魔王は絶対に気にしないと思うぞ。」
「恐らくそうでしょうね。それでは。」
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ダリオン王国王室にて
フーバーンは考えていた。
「魔王…か。11体目の魔王。果たして友好関係は築けるだろうか。」
「魔王の住まう場所だけでも把握出来ればいいのですが。」
「そこなのだがなぁ…。もし龍国や魔国付近であればこちらへの被害は最小限に抑えられるだろう。あそこには龍魔王が居るからな。新参の魔王も流石に下手には動けんだろう。しかしこちら側に居るのなら話は変わってくる。こちら側の魔王はほとんど居ないからな。」
「かろうじて、聖国の隣国にある獣王国の獣魔王ですからね。」
これはイリア殿もこちらの戦力として加えるべきか?もし戦争になればとても厄介な事になる。
「少しでも我々の戦力を増強したい。どうすればいい。宰相。」
「それでしたらSランク冒険者の方々を雇ってみては?銀糸狼のリーダーであるロウガに漣連合のリーダーであるイルガ、それにこの国には剣聖もおります。本当の非常時には魔皇にも出てきてもらいましょう。」
「しかし、冒険者ギルドは独立組織。そう簡単には動かせない。」
「彼らは報酬で動くはず。高い金をチラつかせれば少しは動いてくれるかと。しかし、それだけでは心配だと言うのなら、どうしましょう。」
「私の知り合いに1人、腕の立つものが居るのだが、そいつを雇ってみるのも良いかもしれんな。ラファエロの稽古にも充てがうとしようか?」
フーバーンはギルドに白金貨10枚という大金を報酬にある指名依頼を出した。
その夜、フーバーンはラファエロの元に向かう。
「ラファエロ、居るか?」
部屋の中からトタトタと音が聞こえる。
そしてドアが開く。
「なんでしょうか、お父様。もう夕餉の時間目前ですよ?」
「ラファエロ、強くなりたいか?」
「それは勿論です!ところでどうして今その話を?」
「それはな、この世界に新たに魔王が現れてな、もしものために強くなる必要がある。我が国の軍備では恐らく魔王の私兵を一部止めることが限度だろう。だからラファエロも強くなってみないか。とな。まだラファエロは若いからな。即決する必要ないぞ。」
「いえ!お父様!強くなりたいです!魔王の私兵がどの程度の強さを有するかは私には到底計り知ることは敵いませんが、それでも微力ながら手伝いたいです!」
「そ、そこまで決断していたのか。それならば、以前話していたイリア殿への稽古依頼でも送ろうかと思うが。」
「イ、イリア様ですか!?」
「まだあの姿を忘れられんのか。」
「は、はい…。」
「腑抜けるなとは言わん。だが強くなるためには覚悟は必要だからな?」
「我々の国のために身を尽くします!」
「アリアには魔王との戦争がある際は避難させるようにするから、言わないようにしろ、いいな?」
「はい!お父様!」
ラファエロは笑顔でリビングへ向かった。
「イリア殿には魔の気配を感じた。恐らくは魔族だとは思うが、Aランクは強い。きっとラファエロの成長の糧になるであろうな。」
(それにどの種族かの判別もせねば、不穏分子があると宰相や貴族派閥に言われかねん。)
フーバーンもリビングへ向かった。その表情は心配な表情1色である。
イリアがその元凶であることを知るのはまだ先の話である。
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アレン達は魔王の誕生を聞いて、どうするか話し合っていた。
「なぁ、イルガ、お前たちはどうするんだ?だって魔王だぜ?ちなみに俺は戦うぜ。」
「そこは分かりませんが、イリアさんがどうするのかも気になりますね。イリアさんは爵位持ちの吸血鬼ですからね。もし魔王と同族であれば嫌がる可能性もあるでしょうし、同族でなく魔族だとしてもどういう反応を示すのでしょうかね。ロウガさんは?」
「俺は分からん。だがこの王都が攻められるってんなら全力で護る。それ一択だな。」
「さすがは【護り手】の2つ名を得ただけはありますね。」
「そっちこそ【砲撃】なんつう2つ名持ってんじゃねぇかよ。【剣聖】、あんたは少しは自信を取り戻せたか?」
「いや、まだだな。そう簡単に取り戻せるならとっくに取り返しているさ。」
そこに【魔皇】と【天眼】。それに【鉄槌】もやってくる。
「おや、3人で集まってどうしたんだい?」
「お、ヴァイラか、それに珍しいな、あんたあの席から動けたのかよ、マイシャ。」
「当然です。アレン、私をオートマタとでも思ってるんですか。」
「いやいや、そうは思ってないさ。ただあの席から動いてるところを見た事がないんでな。」
イルガは驚いたように【鉄槌】を見る。
「もしやアルザスのギルドマスターのメイガスさんですか?」
「お、よく分かったな。」
「当然でしょう。私達のランク昇格の判断を下したのはあなたですよ?笑」
「まぁ俺も多少は鈍ってんだろうが、動けば思い出すだろうさ。それよりヴァイラ、この6人だけで王国王室の依頼を受けるのか?」
「いえ、そういう訳では無いよ。イリア殿に対しても直接の指名依頼を入れているみたいだね、あの王室は。どこかで絡みでもあったんだろうか。」
メイガスは突っ込む。
「大方、あの黒薔薇の服のおかげだろうよ。ロイヤルホテルに泊まってるんだろ?そこで親交を深めたんじゃねぇのか?」
「可能性はありますね。マイシャ、その可能性どう見ますか?」
「私は別にその可能性に特に揺らぎはしないよ。特に色も濃くない。」
「そうですか、それでしたらSSランク2人にS4人、A1人で依頼を受注しましょうか。」
イリアの知らぬ間に依頼が受注される事になる。
イリアが街に戻ってきたのはその日の夜中だった。
「あら、門番さん、ただいまね。」
「お、嬢ちゃんえらく時間かかったみたいだなぁ。」
「それがつい狩りにハマっちゃったのよ。それで日にちも忘れてたわ。笑」
「ま!きょうは休みな。明日からまた元気に動けるようにしなよ!」
「えぇ、おやすみ。あなたも体に気をつけなさいよ?」
イリアはロイヤルホテルのキングルームに戻り、部屋での食事を選択し、頼んだ料理を食べる。
ある程度済ませ、風呂に入る。今日は1人なので自室のシャワーで済ませる。
色々あったので頭がゴチャゴチャになった。
整理は先程済ませたので、寝ちゃおう。
イリアは夢を見た。
王国に火の手が上がり、大量の血が流れ、交流のある人々が泣き叫び助けを求める夢を。
イリアは夢の中でも、それだけは止めなくては、と心に決めている。
(この王都がそんな状態にされるのは嫌よ。だから本能についてもっと理解しないとね。)




