第七話 再会
その光を見た時、真っ先に。
懐かしい、と思った。
いつだったろう、隣の国との戦争が起きたのは。
技術力こそ並以上だが、兵力が足りない我が国。
少しずつ押されていき、城の倉庫から白旗を引っ張り出した頃に。
敵兵は、たった一筋の光により、壊滅した。
スキル《閃光》。
人間のそれを遥かに凌駕するスピードで駆けることができる。
それが、アイリスのスキルである。
「全く……ついていこうか、ってわざわざ聞いてあげたのに」
バランスを崩した魔物が、背中からドシンと倒れる。
土埃の中から現れた背中は、見慣れたものであった。
「アイリス……どうして…?」
「別に。ただの家出…いや城出」
いつもの調子で返事をする。目の前に魔物がいることを分かっていないのか。
「てか逆によく今まで生きてこれたね。優秀なボディーガードでも見つけた?」
と言い終えた、次の瞬間。
いつの間にか起き上がっていた魔物の拳を「おっと」と躱して、掴まった親指を支店にくるりと手の甲に着地。
そのまま腕を上っていき、肩付近で大きく踏み込んで─────。
「よっ」
膝が、魔物のアゴに炸裂した。
…………。
魔物は嘘のように宙を舞って、頭から地面に打ち付けられた。
「───っっと!」
対照的にスタッと着地したアイリスが、俺の前で笑顔を浮かべる。
ああ、そうだね。
最初から連れていけばよかったよね。
────────────────────────
『で、ご主人様は無茶して死にかけて、この方に助けてもらったと。そういうことですね?』
フラヴィ唯一の診療所のベッドにて。
俺は大いなるピンチに陥っていた。
『死なないでくださいね、って私が言った時、ご主人様なんて言いました? 「無論」ですよ? 私に背中を向けたまま、「うん」とか「わかった」とかじゃなくて、「無論」って言ったんですよ? わかってますか?』
やめてくれ、恥ずかしくて敵わん。
「ちょ……待って面白すぎ……ご主人そんなカッコつけたの……? お腹痛いって……」
ほらこういうのがいるから。
アイリスがツボってるから。
「……ごめん」
『全くもう……で、アイリスさんでしたっけ?』
話題が変わった。
「あぁうん、私はアイリス。アイリス・ルイス。
ちょっと前までご主人の女だったの」
「語弊がある。メイドだったと言え」
「っていうプレイを要求してくることも多かったね」
「今まさにメイド服着てんだろうが! プレイが現在進行形だとでも言いたいのか!」
『ご主人様がそんな変態野郎だったなんて……まさか私のこともそういう目で……?』
「あぁ畜生! こっちもメイド服なせいで信憑性が増してくる!」
賑やかだった。
「アハハ……ねぇそう言えばさ、ご主人はなんで私を連れてかなかったの?」
賑やかじゃなくなった。
『……そうですよご主人、アレを倒せるくらい強い知り合いがいるのに、なんで連れて来なかったんですか』
質問、というより責めているような語気。
答える他無いようだ。
「いや……迷惑かけるかなって思って…」
『……ふむ』
アイリスは黙って聞いている。
「ほら、俺弱いからさ。そもそも三号だって存在自体が嬉しい誤算だし、死ぬ覚悟で城を出たんだよ」
「……」
「まぁつまり、守ってもらうばっかりになっちゃいそうだから、それなら俺一人で行こうと思って……」
「バカにすんな」
アイリスが口を開いた。
「守ってもらうばかりになると迷惑かけちゃう? ご主人、私をナメちゃいけないぜ」
立ち上がって続ける。
「メイドにして最高戦力と謳われたこの私だ! 魔物だろうがなんだろうが、あんな雑魚共じゃ、私に迷惑をかけることなんかできないよ!」
言い切って、ドンと胸を叩いた。
『……か、かっこいい!』
「来いよ嬢ちゃん、クレバーに抱いてやるぜ」
こいつら仲良いな。ほぼ初対面なのに。
「じっ、じゃあアイリス! 俺らに……協力してくれるのか…?」
「ったりめぇよ! 城出ついでにフラヴィ開拓じゃあ!」
『おー!!』
ノリノリだった。
迷惑がどうとか考えてたのがバカみたいに思えてきた。
「まずは家屋の修理手伝いに行くぞ!」
『おー!!』
二人がニコニコで病室を出ていく。
「…………」
……途端に静かになった。
…………………。
…………………。
「……状況の整理でもしようかな」
アイリスが加わったことにより、戦闘面が大幅に強化された。ひとまず安心して良いだろう。
とは言うものの、すぐに対応できないことだってある。
もしも夜中に襲撃があった時、アイリスはたぶん起きれない。その上で三号の充電も十分でなかったら……また今回のようなことになり得る。
そして、アイリスが戦力として極めて貴重であることは、親父達から見ても間違いない事実だ。
全兵力を挙げて攻めてくるかもしれない。
まずは強い魔物を寄せ付けないように、より強力なスプレーを作る必要がある。
どうやらまだまだ忙しくなりそうだ……と考えていたその時。
コンコン、と扉を叩く音がした。
ブクマ、評価、感想は作者のモチベに直結します。
続きが気になると思ってくれた方々、是非とも評価をよろしくお願いいたします。