第二話 暴言
ケース1。
『ご主人様? どうかいたしましたか?』
命の恩人が、お掃除ロボットを名乗るメイド服の少女だった場合。
「なるほど、まずは状況を整理する必要がありそうだ」
こういう時こそ冷静に。訳が分からなくたって、一つずつ紐解いていけば何か掴めるはずだ。
「とりあえず、お前は三号なんだな?」
『はい』
「じゃなんで人型なんだ」
『魔物を追い払うのに一番好都合だからです』
見えない。まだ見えない。一向に状況が見えてこない。
「えじゃあ元の姿に戻ってよ」
『かしこまりました』
すると、彼女の身体はたちまち光に包まれ、俺の知ってる三号の姿になった。
「……本当に三号だったのか」
『だからそう言ってるでしょう』
そうなるとまた別な問題も出てくる。
「じゃなんで今まで動いてくれなかったんだ」
『ご主人様の意志を感知出来なかったから…ですかね』
「……なるほど?」
となると、だ。
三号は元々、持ち主の''意思''に従って自動で作動&変形する掃除ロボとして開発を目指されたものである。
つまり、俺の『死にたくない!』という強い''意思''によって起動し、魔物を最も追い払いやすい人型に自動で変形するよう作動した……ということか。
「くっそ…自分で造ったモノなのに……」
『それより、なんかどこか向かってるんでしょう? 早く行きましょうよ』
まだ納得し切れていないが、生きてたしもうなんでもいい。
「はぁ…わかった。助けてくれてありがとう。そしてこれからよろしくな」
『お役に立てて光栄です。よろしくお願いします、ご主人様』
いつの間にやら人型に戻っていた三号の手をとり、俺は立ち上がった。
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「よく来てくださいました、貴方が次の領主様ですね」
フラヴィに着くと、ここの長老らしい老爺が出迎えてくれた。
「ところでそちらの方は?」
『お掃除ロボットの三号と申します』
「なんでもないから気にしないで大丈夫だ」
面倒を避けるため、三号の説明は省いた。
「私はここの長老の、モーリス・ホワイトと申します。それでは、案内しますね」
歩き出した長老について行きながら、周囲を見渡してみる。
『……うわ。こりゃ酷いですね』
まず畑作地帯に入った…のだが、俺も三号と全く同じ意見である。
畑の七割程が、何者かに食い荒らされているような状態だった。魔物の仕業だろうか。
『残った作物とかを見る限り、たぶんシカ系の魔物とかですかね。こんなんじゃ住民の食糧を賄いきれませんよ』
なぜコイツに魔物の知識が備わっているのかはさておき、まさにその通りである。
まずはこれを何とかする必要がありそうだ。
もう少し進んでみると、今度は木造の家が立ち並ぶ道に着いた。
藁の屋根は平気で剥がれ落ちてるし、柱には齧られたような跡がある。これはひどい。
『ネズミ系の魔物ですかね』
「ああ…ってか住民どこだ?」
王都で聞いた話だと全体で200人程度いるらしいが、さっきから長老以外の住民が見当たらない。
「住民なら引きこもってますよ」
長老が言った。
「ここら辺は魔物ばっかり出るから、みんな外出は最低限にしてるのです。
扉から顔を出すくらいなら全然ありますけどね、ほらあの人みたいに」
長老が指した方をみると、男性がしかめっ面でこちらを覗いていた。
『…挨拶しときますか? これから領主になるんですし』
かなり怖そうだけど、ここは領主の意地を見せるしかない。
「こっ、こんにちは! 今日からここの領主になるフローデだ! よろしく!」
「……」
無視か。こんなにも目が合っているのに。
『あ、あの…』
「無理だ」
男性が口を開いた。
「…は?」
「お前じゃここを救えない。
前の領主も、その前の奴も、魔物に殺されて死んだ。お前もそうなる運命だ」
「…え?」
突然襲いかかってきた言葉にたじろいで、返答が出てこない。
「早く行け。そしてさっさと死ね」
バタン。
勢いよく扉を閉める音が響いた。
「……すみません、うちの者が。みんな魔物のせいでピリピリしてるんです」
「あ、いや全然大丈夫だ。ちょっと驚いただけで」
『アイツ腹立ちますね、殺して来ましょうか』
「やめろ」
三号は思ったより凶暴な性格なようだ。
「ところで長老さん、もしかして住民全員あんな感じなのか?」
「……まぁ、ああいう人もいますな」
どうやらかなりマズい状況のようだ。
食糧危機。家屋倒壊。住民ピリピリ。
そして、その全ての原因は魔物にある。
さっきの男性の言葉を反芻しながら、俺たちは長老について行くのだった。
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「ねぇマリ、ここからフラヴィまでって徒歩何時間くらい?」
そうアイリスが問うたここは、王都の中心、ライキルト王城。
彼女たちメイドは廊下を絶賛掃除中である。
「そうね……大人の足でも半日はかかるんじゃないかしら。だから大抵の人は馬車で行くわね」
「へぇ……半日」
アイリスが笑みを浮かべて言う。
「じゃ、私なら五分だ」
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