7話 呪いについての考察・検証1
「ようこそ、私の研究室へ。」
上記のようなセリフを吐くキャラクターは往々にして悪趣味と言うのが定番だが、
今のところリザに対する僕の印象は変人止まりだった。
マッドという単語が合いそうな人。
「さて、呪いに関して聞きたいんだっけ?
見た感じ、呪うより殴った方が速そうに見えるが……。」
「い、いえ呪う方じゃなく……解呪したいんです。」
「物によるね。外れない装備を外すのと、呪いそのものを消すのとでも結構違う。」
「姿が変わる呪いです。」
「ほう、珍しい。誰に変わる?」
「誰に……って。」
言われて気づく。
姿が変わったのはそうなのだが、この姿が誰かは考えたことが無かった。
漠然と理不尽に女体化したぐらいの認識だったためだ。
誰だ? 僕だ。
……いや、その解はこの体"が"僕の物であるという意味で、
この姿が誰かという問は別の話だろう。
「鏡……ありますか? ちょっと、本腰入れて見覚えないか考えてみます。」
「勿論だとも。」
姿見で今の自分を改めて眺めてみる。
……髪の毛先から爪先まで見ても完全に女だ。
銀髪は少し纏められ、肩にかからない程度に整えられた髪型。(作:ミドラ)
不愛想だが、平たくなく整った顔。
叩けば顔のパーツが全部落ちそうな繊細さがある。(作:不明)
黒を基調とし、アクセントとして青が差し込まれた、スカートにしては動きやすい服。(作:エルゼ(姉))
握れば折れそうな、とても剣を常日頃持っているとは思えない手。(作:不明)
無駄な脂肪は無いが、柔らかい跳ね返りがある肉体。(作:不明)
……ふむ。
「……美少女かな。」
「ぷっ……。アッハッハッハ!」
ツボに入ったリザの収まりがつくまで、適当に時間を潰した。
「わ、悪い……。つまり、姿に心当たりはないって事でいいんだね?」
「ええ、まあ。」
今の自分の姿は嫌いじゃない。
むしろ好きな部類で、近くに存在していたら惚れそうなぐらいのタイプではあるのだが、それが=自分の姿であると認識させる鏡と言う存在はどうも苦手だった。
「そうだな……。まず呪いって何だと思う?」
「全然分かりません。」
ガクっと肩を落とすリザ。
気を取り直すかのようにタバコを取り出し、吸いながら説明を始めた。
「呪いと言うのは魔法の一種に捉えて大丈夫だ。
効果がべらぼうに長いのが特徴で、死ぬまで解けないならまだ優しく、死んでも解けない事もある。一方で解呪はとても簡単な方法が一つあるにはある。」
「本当ですか?」
「ああ。だが、呪いの発動主を探し出して解除してもらう必要がある。
だが、恐らく誰に呪われたか検討も付いていないだろう?」
「ええ……。そっか、呪った張本人を見つければ良かったのか。」
「まあ、それが出来れば苦労はしないって奴だな。
そういえば呪われた経緯を聞いていなかったな。話せる範囲で話してくれ。」
2年前のあの日、女になった経緯を話した。
そこで家族が街の医者、術士等に意見を求めて、結果的に「呪い」であると判断。
必然的に、僕が元男であるという事も知られたが、大した反応は無かった。
「成程ねぇ剣に……。少なくとも、その現象は呪いと見て間違いないだろう。だが……。」
集中してるような顔をしながらタバコでジャングルジムを作りながら話す。
どれだけ好きなんだタバコ。
「何と言うか不思議な感じがあるな。」
「そうなんですか?」
「ああ、肉体変化の呪い、というか魔法には割と種類があるが……性の変化、女体化なんてのはかなり高位だ。普通の奴なら5分変身するだけでも厳しいだろう。」
「確かに。昔逆に再度性転換の変身をすれば戻れるんじゃないかと考えたんですが、
そんなに魔法が発達した地域でもなかったので入手が出来なかったです。」
「だろうね。というかここにもないよ。」
ここラーニアは学び舎だけあって、武術や魔法に関する資料が結構ある。
が、所詮学ぶ場所。研究する場所ではない。
性転換の上書きで元に戻る方法はあまりオススメ出来ないね。と付け足すように言われた。
「それと呪いの特徴ともいうべきなんだが、術の維持に使う魔力は基本的にその対象から……君の女体化であれば君から持っていくんだ。この意味分かるかい?」
「僕の魔力を使って、女体化を維持している?」
「その通りだ。しかし……さっきも言った通りかなり高位の魔法なんだ。それが2年も続いて今もなおって言うのは……。周囲で魔力が枯れたような物は見たことが無いか? 宿主を死なせないように周りから吸ってる可能性もある。」
「見かけたことはありませんが……注意してみます。少なくとも家にずっと居た一年では家族に不調は見られませんでしたが、隠している可能性もありますよね。」
「そうだな。それと今後だが……何かの切っ掛けで倒れられても困る。私の生徒としてここへ通え。」
「へ? それは構いませんが……。」
「言質は取った。だが困ったことに私は僕っ娘があまり好みじゃなくてな。」
「それは構います。断固として。譲りません。」
「じゃあこの話は無しだ。いつ進行するか分からない呪いと一緒に勉強に励みたまえ。」
え? 進行……? 悪化する?
「待って先生! ……いや、待ってくださいリザ先生。」
部屋から出る足は止めたが、こちらは向かない。……くそ、アンタの耳の届く範囲だけだぞ。
「わ、私を……先生の生徒にしてください。」
「誰をって?」
「私です! テトラ・ハミルトンを、り、リザ先生の生徒にしてください!」
間違いなく、コイツは変人だと確信が深くなった。
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