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3話 式後試験

 入学式自体は大した事は行わなかった。

全国……いや、全世界共通なのか、校長の長い話に始まり、長い話に終わる。


この学校はどうやらクラスという物は無いらしく、受けたい授業を受けたい人が受ける形。

前世では行けなかったが、大学はこんな感じなんだろうか。


「ふぅ……ようやく解放された。話聞いてるだけでも疲れたよ。これからどうしようかな。」

「私は今日は寄り道してみようかなって思ってます。お陰様で元気がいっぱいで!」

「そりゃよかった……。」


初対面の時は無かった腰から生えた羽をパタパタと羽ばたき見るからに機嫌が良い。

どうやら彼女はサキュバスだったらしい。

魔力を貯めるのが苦手なのは、基本的に外部から補給して使うためだとか。


「もしかして私、吸いすぎましたか……?」

「いや、魔力はアレの倍持ってかれても平気だと思う。……そっちじゃなくてさ。」


なるほどサキュバスか。

魔力供給という合法的な手段があれば、あの悪魔的な快楽を感じるキスがもう一度や二度……。


いや、そういう考えを起こすのはやめよう。

彼女はこの学校で初めてできた友人だ。

それに今は僕の体は女だ。男のままであればまだしも、同性で……と言うのは。

息子が家出していて本当に良かった……。


「そういえば……テトちゃんはどうやってこの学校に入りましたか?

私と違ってこの後行かねばならない場所があるかもしれません。」

「入り方……ええと。ちょっと待って。」


鞄から入学に関する資料等を取り出す。

この学校に入る方法は大雑把に分けて、知力か武力の二択。

知力は計算能力や魔法がどれだけ扱えるか、武力は魔法を用いずどれだけの力が出せるか、と言った感じだ。


「剣術だから武力の……推薦って奴に入るのかな。」

「テトちゃんって剣が使えるんですか? 魔法使いだと思っていました。」


確かに自分でも華奢な見た目だとは思うが魔法使いや魔術士の類ではない。

魔法使い。と言うと一瞬別の場所に刺さりそうになる。

それが気になるからあまり使わないし、難度の高い魔法は覚えようとも思わないのだ。


「一応、実家が剣術に明るくて。」

「なるほどー……。付いて行ってもいいですか? 剣を使うところ見てみたいです。」

「それは勿論。」


さっきのお礼で……というと誤解されそうになったのでそれは言わないでおいた。

……飛んで運んでくれた方だからな?



 資料の記載に従い式後試験のあるというグラウンドのような場所に辿り着いた。

第一土製エリア運動場……とあり、名実共に運動場である様子。


しかし目の前に広がるのは見慣れたグラウンドではなく、木人に対して様々な攻撃を繰り広げられる空間だった。

ある者は自分の得物を、ある者は拳を、ある者は魔法を詠唱し、召喚された精霊に攻撃させる。


「ここで……合ってる?」

「ここだけ熱気が他と違いますね。」


なるほど熱気と言う表現があったか。確かにすさまじい。

本来の目的も忘れて観察していると、一人の槍を持った青年から声がかけられた。


「君たちは見学かい?」

「あ、いえ。僕が式後試験に受ける事になってて。」

「なるほど。ならあそこの試験官に名前を告げると良い。」

「ご丁寧にありがとうございます。」


随分親切な奴だと思ったが、僕が歩き出すとルナの前を遮るようにして無理やり話しかけていた。

それに彼だけではない。気づけば見渡す限り人だかりが出来ている。……それも全員男。

なるほど。確かにサキュバスだ。


一応、助けた方が良いんだろうか? しかしサキュバスの生活……

もとい性活が分からない為、横からちょっかいをかけるのはマズそうだが。


……明らかに困った顔をしていた。


「ルナ、さっき僕の戦い方が見たいって言ってたよね。付いて来てよ。」

「え。そ、そうだね。付いていく。」


若干無理矢理かもしれないが、腕を掴みルナを連れていく。

小声で、「ありがとう。」と言われた。判断は間違っていなかったようだ。



 式後試験の概要はこうだ。

合図に合わせて木人に対して攻撃を開始し、破壊にかかった時間から実力を計測。

当然破壊時間が短ければ短いほど、入学時点での評価は高い物となる。実際、色々優遇制度もあるそう。


評価についてはさておき、だ。

試験を観察していた結果だが、早い者で1分、遅い者で3分。

というより3分で壊せなければ破損度のみ調べられて次に回っていた。


勿論、そんな様を晒すつもりは全くない。

この世界に来てからは前世の無念を糧にひたすら体を鍛えていた。

不思議ではあるが、体感上女体化前後で力はそう変わっていないように感じていた。


「テトラ・ハミルトン。始め!」


今はその力を見せる時だ。

試験用の直剣を手にし上段に構える。得物は粗悪とまではいわないが、良くもない。

量産型と言ったところだろう。だが、今更質を選ぶような腕じゃあない。

一瞬で間合いを詰め、木人の頭部に叩き込んだ。


確かな手ごたえ。今更こんな程度の物を二回も切る必要はない。

一筆書きの美しさを今頃になって分かった。


「これでいいですか?」

「……あ、ああ。合格だ。しかし凄いな……一撃で。」


木人は一刀の元、真っ二つに割れた。文字通り一刀両断だ。

計測時間はたったの2秒。蹴りでも入れて早めに倒せば短縮できただろうか。


「これでも姉や父上には劣ります。」

「父上……そうか。名前でもしやと思ったが、ハミルトン家の御令嬢か。」


令嬢……。


「……ええ。」

「君の父には世話になった事があってね。僕も彼も傭兵だった頃さ、あの時は確か……」

「すみません。僕は試験の後何処へ向かえばいいんでしょうか? 父に会った事は話しておきますので。」

「おっと済まない。結果の報告等は不要だが確かに話がこんでしまった。」

「では、ありがとうございました。」


そう言い放ち、ルナの元へ行く。僕が近寄ると周りの男は去っていった。

何と言うか……大変そうだな。


「終わっちゃった。」

「凄かった……。あんなに軽く切ったり出来るんですね。こんな細い腕でどうやって……。」

「斬るのに力は要らないんだよ。……あんまり触らないで。」


服の上からもにもにと揉まれた。確かに筋肉が一切ないのに叩き切れるのは傍から見ればかなり不思議だろう。

僕が見る側の立場でも不思議に思う。力は確かに要らないが、全く不要という訳ではない。


そんな風に疑問を抱いたのは何もルナだけではないらしく、数名、此方に歩んでくる人影があった。

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