12話 上陸
海を越えてようやくナーザフとやらに付いた様子。
しかし、残念ながら戦闘後に船酔いで完全にダウンした僕はずっと横になっていた。
どういう訳か、気合いが入りすぎたのか魔法が受け付けなくなってしまったのだ。
ルナでも、リザでもダメだった。
他の人間は全員乗務員との事で医務室を貸してもらえたのだが、こういう時に酔い止めの薬が無いというのは中々不便だ。
陸に上がれば多少はマシになるだろうと判断の元リザによって担ぎ出された。
今回の功労者のルナにばかり負担を掛けさせる訳にも行かないからね。
まあ、横担ぎ……お姫様抱っこは辞めて欲しいんだけど。
「立てるか?」
「まだ無理……です。」
「気にするな。戦闘中に時間切れにならなくて本当に良かったな。」
まさかこんなに船に弱いとは……。次からは何かしら考えておこう。
しかし実家から学園への列車は平気で、転移と船がダメ、か。
何とも移動に苦労しそうな体質だ。
「そうか……しかし困った。この後氷の髑髏の引き渡しに立ち会わなきゃならないんだが……持っていくか。」
「それは……気にします。」
「なんてな。しおらしいと逆に心配になる。宿までは送るから安心していい。」
普通に返したつもりだったのだが……そんな風に見えたか。
無意識のうちに目を閉じていた。
運ばれる時の揺れ方は船と違って心地よく、皆の声が徐々に遠のいていった。
猛烈な息苦しさから目が覚めた。
こめかみの血管が音を立てて、大量の血液を送っている感覚がする。
なんなら耳鳴りもしているような気がするが、こうも無音だと無音と耳鳴りの違いが分からない。
寝汗も酷かった。幸い服は着替えさせられていたようだが、誰の手によるものかが重要だ。
「ここって……。」
「ああ、目が覚めたか。気分はどうだ。」
「何故か……何故か最悪です。落ち着かない。」
部屋に居たのはリザだった。音もなく座っているものだから気が付かなかった。
タバコを吸ってる様子も無い為本物か怪しいもんだが。
「悪夢を見た気がします。」
「ほう、どんな?」
「……人が死ぬ夢でした。」
「人か。人が死ぬ夢にはいろいろな暗示があるが、大体どういう人が死ぬかによって変わる。
その人が知ってる人なら気をかけてやれ。知らん人なら放っておけ。自分なら……。」
「自分なら?」
「……確か転換期だ。今までの自分にサヨナラって感じの暗示だな。」
「出来ると良いんですけどね。」
「テトの場合はそうだな。」
確かに人が死ぬ夢というのは一見不吉ではあるが、夢の中で何かが壊れるというのは大事な予兆だ。
体の何処かが悪い時必ず悪夢となって教えてくれる体質だったが、転生して体が変わっても一緒という事は魂の質なんだろうか?
「寝れそうにないなら、少し歩かないか?」
「そう、ですね。散歩ぐらいなら良いかもしれません。」
手短に支度する。着替えも意外と慣れる物だ。
この地域はやや暖かいらしいので、アウターは置いて出た。
ナーザフの街並みを見て驚愕した。
若干違うような気がするが、何処となく日本に近い。
日本と言うよりは海外にある日本街に近いだろうか? 所謂ジャパニーズと言えばより正確かもしれない。
「どうした?」
「いや……なんか懐かしさを感じてしまって。」
「ここに来るのは初めてだろう?」
「前世の記憶ですかね。」
大通りは石畳が、脇には砂利が敷き詰められている。
こんな光景は見たことは無いが、こちらで生まれる以前の景色に最も近い物だ。
「教官はずっとそれ着てるんですね。」
「元研究者でね。これとタバコが無いと落ち着かない。」
「ブレなくていいですね。」
夜の街は静かだ。そういえば何も食べていない事を思い出したが、
果たしてこんな時間にありつけるだろうか。
一応、チラホラと灯りの付いている建物はあるが、体が空腹でもあまり食欲が無かった。
「そういえば教官って、あの時船で何していたんですか?」
「動力室の護衛さ。アレが壊されて船が止まったら、倒してもどうしようもないだろう?
手で漕ぐ訳にもいかないし。」
「ああ、なるほど。」
見かけなかった理由と、海賊のボスたるアンネリアの供述と食い違ってる部分が同時に解決しすっきりした。
「……実はあの時、私は初めて人に敵意を持って攻撃して、傷を負わせたんです。
修行や決闘での事故とかでなく、故意に。」
「だろうね。武道家の人間はそういう奴が意外と多い。上に行けば行くほどね。」
「教官はそんな事ありませんでしたか?」
「初めて人を傷つけた時か……。意外と覚えてない物なんだな。思ったより話せなさそうだ。」
「慣れてしまう物なんでしょうか。」
「向き不向きがあるだろうさ。」
そういう物だろうか。あるいはこういう考えが僕の弱さか。
大事な人を守りたいと願うのに、人を傷つけることに躊躇いを感じる。
『知らない人が傷ついても気の毒に……』なんて言った口が聞いて呆れる。
「……月並みではあるが、そうして傷つけない限り、もっと酷い状況になり得たんじゃないか?」
「……。」
「戦いと言うのは命の取捨選択だ。どちらも傷つかずに解決なんてのは遊びの中での話だな。
それでも、大事な物に傷を付けたくないから強くなったんじゃないのか?」
「そう、ですね。そうだったと思います。」
「じゃあ何も間違っていない。無い胸を張ってな。」
自分と同じ考えを誰かに言ってもらうのは思った以上に自信が回復する。
無い胸は余計だが、確かにそうかもしれない。
……いや待てよ?
「アイツ呼んだのお前じゃん! なに良いカッコしてんだ!」
「チッ……気づいたか。」
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