10話 船上
暫くして待ち人は来た。手下も連れて来ずに一人で。
因みに僕も今は一人だが、これは考え合ってルナと言うカードを伏せているだけに過ぎない。
「待ちかねましたよ。」
「逃げといてそりゃねえだろ。」
「か弱い女の子に縛るなんて言っちゃ、普通は逃げますがね。」
縄抜けは履修していなかったので縛られるとちょっとヤバかった。
そして、流石に素手で銃を相手取るのは厳しい為武器を確保。
例によって奥の手は禁止カード。船ごと叩き切っていいなら問題は無いが。
「他の客はどうなったと思う?」
「客……ねえ。意外と生きてたり。」
「ま、生死は兎も角大将首が出る事になったんだから、お前さんは賢いさ。」
これは僕の都合のいい推測だが、目的が身売りである以上、無駄に傷つけるような事はしない……ハズ。
これまた頭の中での反論として、船を奪って売ってるなら構わずヤっちゃってそうだが。
見失ってはいけないのだが僕が守るのは人々ではない。仲間だ。
「アンメリア・パネライだ。名乗れ小娘。」
「テトラ・ハミルトン。剣術が一葉だ。」
「ほぉ、その大層な剣はそういう事か……。」
手持ちの武器はここで確保した物と自前の物を合わせると、
投げナイフが十本、悪くない直剣一本、奥の手一本。
リザから「MPつかうな! なるべく!」という作戦を渡されてから対遠距離を少し考えてみたのだが、投げるぐらいしか思い浮かばなかった。
指弾が使えればもうちょっと色々出来たんだろうな……。
「丁度いい……剣と銃のどっちが強いか試してみようとするかァ!」
自分めがけて飛んでくる銃弾を叩き切るにはコツが要る。
体感としては気持ち早めに振る。fastが出そうな位が丁度いい。
それともう一つ。何処めがけて飛んでくるかは相手の目を見れば分かる。
これは対魔法にも共通している。……というか、銃がマイナーである以上そっちが本命。
発砲音と金属の衝突する音が幾度と重なる。
暫くはこの状態を維持すればいいだろう。銃が弱いとされる理由の最大の理由を狙いながら。
*
テトラと別れてすぐに行動を開始した。
下は任せると言ってくれた以上、こちらも上の事は任せて自分のタスクを消化しよう。
内部から移動してはかち合う可能性がある為外部から。
船体横にある乗船時に使った扉から入る。施錠はされていないが、開錠できるため問題ない。
「む、来たか。」
「え、えぇ? リザ教官、何処に隠れていたんですか?」
「私も私で目的があるんだ。……それはさておき、ザコを倒すんだろう? 手を貸そう。」
テトラ曰く「怪しいのはいつもの事」……らしい。
まさか私達の害になる事をするとは思えないが、確かに怪しい。
が、元より一人では不安要素もあった。ここは協力に応じた方が得策だろう。
「心強いです。よろしくお願いいたします。」
「これでも教官に就いてるくらいだ。一応、魔法使いの前には立てるさ。」
*
どうしたものかなと考えていた。
こうなってしまった以上、一応客に手が出そうになった場合止めるのが私の仕事だろうか。
見張ってはいるが、目の数は二つで限りがある。
見える範囲では暴行を加えたり等は起きていない。
「――っ!」
突如として背後から引っ張られた。口を押えられ、声も出せずに背中から倒れこむ。
顔を覗き込むのは見知った二人。ルナリーンとリザだ。
「二人とも! どうしてここに?」
本当はもう少し優しくして欲しかったが緊急時か。
「今、テトちゃんがボスと戦ってます。その間に私達が下っ端を倒す予定です。」
「テト子が? さっきから騒がしくなったのはそれか。」
「それで、偵察してるミドラに敵の人員を教えてもらえと言われています。どうでしょう、大体は分かりましたか?」
物は言いようだな……。しかし、似たような思考でいてくれて助かる。
実際私も反撃の隙を伺おうと色々見て回っていた。
一応、後で感謝と謝罪はしておこう。怖いし。
「敵の数だが、このフロアには10人も居ない。……変な巡回してなきゃだがな。下はまだ見ていないが……。」
「いや、下には居ない。全員倒しておいたよ。」
「となると……後はこのフロアだけですね。ミドラさん、男性は10人のうち何人居ましたか?」
「全員だ。ボス以外は全員男だよ。」
「であれば私に任せてください。一滴の血も流すことなく制圧できます。」
ルナリーンはそう言って場を後にした。……武器も持たず。
ただ単に歩いているだけ。少なくとも、私の目にはそう見える。
しかし歩み寄られているというのに、海賊の仲間は反応すらしない。
いや、してるのか? 少なくとも目視はしている。
そしてすれ違う頃には全身をだらしなく弛緩させ、幽霊のような足取りでルナリーンの後ろに付く。
ハッキリ言って異常な光景だ。
「あぁ、やっぱりサキュバスなのか彼女。」
リザのその言葉でようやく理解した。
どういう術なのかは分からないが、敵の性別を聞いた事からも伺える。
彼女がフロアを一周して戻ってきた頃には、気持ちの悪い笑みをした男を後ろに何人も連れていた。
「オッケーです。手分けして縛りましょう。」
*
手加減をする。というのはかなり技術が問われる。
特にこういう命のやり取りをする場面で手加減を強要されるのは中々どうして鬱陶しい。
奥の手たる背中のコイツでは切れすぎるのが問題なのだが……そうも言ってられなくなってきた。
……気分が悪い。吐き気がしてきた。
相手の弾切れが予想以上に遠く、酔い止めの麻痺が切れかかっている様子。
が、この数分で相手の癖は読めた。投げナイフは残り半分もあり、仕掛けるには十分だ。
まず相手の胸にめがけて受けやすいように投げると、奴は銃の金属部で防ぐようにして防御する。
投げナイフ程度であれば弾かれてしまうのだが……今回は違う。
「な……クソが!」
怒りと驚愕の混じった風に口を歪める。目元が帽子とマスクで隠れているのが勿体ないくらいだ。
投げたのは直剣。当然重さはナイフの比になる筈がなく、銃を大きく弾かれる。
そこにすかさず追撃。今度はナイフでいい。
ずっと銃を使っていた利き手であろう右手めがけてブン投げる。
狙い通り深々と刺さった。毒でも塗っておけばこれで決着だっただろうが、生憎持ち合わせがない。
まだ追撃は終わらない。
一瞬で間合いを詰め、正中線に沿って3発程殴る。
こちらは心得が無くとも力で殴れば問題ない。人は急所を殴られれば倒れる。
丁度そのタイミングで誰かが近づいてくる気配があった。
誰かは……考える必要もないだろう。落ち着いた二人と、慌ただしい一人、計三人の足音。
「丁度終わったみたいだな。」
閲覧ありがとうございます。
もしお手すきであれば、☆やブックマーク等押していただけると幸いです。




