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プ口口ーグ

 「私達、別れよっか。」

体が冷たくなるにつれ、そのセリフが脳内を徐々に徐々に埋め尽くす。


ここで野垂れ死ぬのも、フラれたのも、全部僕が悪いんだろう。

僕が弱いのだから、もうしょうがない。


でも最期に通り魔から身を挺して彼女を守り、男としての役目は果たせただろう。

……"元"彼女だったか。


それでももし……もしの話だ。もし次があれば。


まずは強さを手に入れる。

彼女も、友達も、そして何より自分をも守れる力を手にする。


でもやっぱ……死にたくないな……。





次に目が覚めた時、僕は見知らぬ場所に居た。

建物、匂い、そして聞こえる言葉から日本ではないと判断できた。

……のちに、地球ですらないとも発覚するのだが。


僕は一度完全に死んだ。あの体の芯から凍るような冷たさは夢でも幻覚もない。

しかし、生きてる。


若干速いこの鼓動は生きてる事の証だ。

という事は……あれは前世の記憶だろうか?


ならば目的は一つ。

……もう二度と全てを失う感覚は味わいたくない。





僕が生まれた家は剣術を教える教室を営んでいた。

これによって幸いなことに幼い頃から剣を持つことができた訳だ。

弱い自分から逃げるように来る日も来る日も鍛錬に明け暮れた。


父アデルは息子が武術に興味を持ったことが嬉しかったらしく、つきっきりで見てくれた。

母アイナは武術だけじゃいけないとこの世界での知識を与えてくれた。

姉エルゼも父と同じく、弟が同じ道に来たことが嬉しいのか、よく手合わせしてくれた。


前世の記憶を忘れる事は無いが、この3人も大切な家族だ。

そしてこの家族を守るためにも、僕……テトラは強くならないといけない。





あっという間に10歳になった。

ただひたすらに強くなる事のみ考えていたからか、一日一日が充実していたからか。

体感では前世での10歳を迎えるまでの時間より遥かに速く、しかしより密度の濃い10年だった。


「テト、僅か10歳という若さで玉葉流の皆伝に至ったのはお前が初めてだ。

父親として鼻が高い。これからは子弟じゃなく親子として話せるな……と、

そういう話をする場所じゃなかったな。」


そういうと年季の入った剣を鞘に収まった状態で差し出す。

「頂戴します。」と一言。丁寧に両手で受け取った。


不思議な事に皆伝の力量が無いと抜けない仕組みになっているらしく、

剣を修めた者はこれを用いて演武を行う事になっている。


……筈だったのだが。


剣を……より具体的には柄を掴んでいる手に黒い根のようなものが這っていた。

驚きのあまり手放しそうになるが、根の見た目通りついており落とすことは無かった。

しかも、徐々に徐々に根は伸びてくる。


「な、なんだこれ……。助――」


助けて、の声が出なかった。体が硬直した。





意識が覚醒する。目を覚ましたのは実家の自室だった。


「テト! 目が覚めたのね!」


この響き渡るような声は姉の物だ。

安堵するときぐらいもう少し弱弱しい方がらしいと思うのだが、珍しく少しだけハリがなかった。


「あー……姉さんか?」


何かの病に倒れたのだろうか、心なしか声がおかしい。

姉の声は正常に聞こえているので、おかしいのは耳ではなく僕の声だ。


辺りを伺うと、父の姿は無かった。


「……師しょ、父さんは?」

「席を外してるわ。まだ起き上がっちゃだめ……その、落ち着いて聞いて欲しいの。」


……思い出した。確か儀礼用の剣を受け取って。

ハッとして手を見る。柄を握り、根のようなものが張られた方。

結果から言うとどちらでも変わらないのだが、真っ先にそちらを確認した。


そこにあったのは……いや、言うなればあるべきものが無いというか……。


「なんだよこれ……誰の――」


振るえる僕の手を両手で握り、母は間違いなく、こう伝えた。


「テト、貴方は……女になってしまったのよ。」



閲覧ありがとうございます。


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