政治適正
「ごめんね。折角の食事だったのに」
一通り泣いて落ち着いた私は首を大きく横に振る。
魔王様が謝る道理は一つもない。
「もしよかったら食べて食べて」
「はい、いただきます!」
口いっぱいに料理を頬張る。
これ以上かく恥もないしね。
作法など知ったものか!
「ふふ。少し元気になったかな」
少しどころではない。
それはもうとてもとても。
だが口には料理があるので何度も頷いて返した。
「それならよかった」
「あと、私は隠し事が苦手でね。今の君には言うべきではないかも知れないが、」
「君がこの国で暮らしてくれると、政治的な部分でも旨みがあるんだ」
バツの悪そうに話す。
魔王様もこんな表情するんだな。
すこし微笑ましい。
「人間達が何故君を罰したのかは分からないが、君の脅威は知っているだろう」
言いたいことは伝わっている。
時間とお金をかけて仕上げた兵器だ。
それが敵側に渡ったとなれば、脅威以外のなにものでもない。
どれ程の〝性能〟を引き出せるかは、私自身わからないが、それは人間側も同じ事。
私以上に未知数で、恐怖は数割増しだろう。
「私はオリヴィアを戦場に出すつもりは毛頭ない」
「わざわざ他国にアピールするつもりもない」
「だが、君がいてくれるだけで安心できる人達もいるんだ」
「最後にこの事を話して、すまない」
本当に言いづらそうに話す。
魔王様は優しいな。
普通はこんな事、言ってくれない。
「ふふ、魔王様は正直ですね」
本当に腹の探り合いが苦手、というか嫌いなんだろうな。
普通の会話ではとても上手いのに。
「私でよければ魔王様のお役に立たせてください」
「ありがとう。でも君を幸せにすると誓ったのは本心だ」
「なんだか物語のプロポーズみたいですね。すごく嬉しいです」
言って自分で照れてしまった。
シュナはちょっとニヤニヤしてるし。
何故か魔王様も照れてるし。
でも、
とても嬉しい。
「あ、明日みんなに紹介するよ」
魔王様が慌てて話題を逸らす。
が、
「魔王様、まるで『家族に紹介するよ』みたいな言い回しでしたよ」
なんてシュナが言うから更に俯いてしまった。
可愛い。
戦場で命の取り合いをしていたのが嘘の様だ。
「あ、そうだ!私のことは名前で呼んで構わない。というかそうして欲しい」
いきなり鋭いのがきたな。
これは文化の違いだ。
「『魔王様』なんて呼んでるのは、シュナくらいなんだ」
「明日、幹部達に簡単に紹介するからその時の雰囲気を見て決めても構わない」
「ただわがままを言うと、君には『グレイス』と、そう呼んで欲しい」
戸惑いと、魔王様可愛いの感情が混ざった状態を察したのか、
「オリヴィア、本当に幹部達は『グレイス』もしくは『グレイスタシア』、中には『魔王』と呼んでいるのもいます」
シュナが助け舟を出してくれた。
「わかりました。ではグレイスと呼ばせて貰いますね」
「うん。その方が嬉しい」
「ありがとう。オリヴィア」
こうして食事の席は終わった。
部屋を離れる時に、
「今日はありがとうございました。お休みなさい。グレイス」
そういうと、すごく嬉しそうだったのが微笑ましい。
あれだけ整った顔立ちで、更に笑うと可愛いとかずるいな。
明日は幹部の皆さんか。
グレイスやシュナの様に仲良くできればな、と考えてしまう。
いや、是が非でも仲良くなってやる。
今の幸せは二人に与えられたものだ!
少しは自分の力で掴み取ってやる。
と、変に息巻いいると、
「皆さん良い人ばかりですよ。ちょっとかわっている人もいますけど」
寝具の準備をしてくれているシュナが話してくれた。
それくらい自分でやる、と言っても
「私はオリヴィアを甘やかす悪いメイドなのです」
と、悪戯な笑みを浮かべていた。
ベッドに横になるとシュナが椅子を持ってきた。
「今日は、お休みになるまで横におります。もしオリヴィアが望むならこれからずっとでも構いませんよ?」
流石に悪いと思ったが、
いや!今日はとことん甘えてやる!
と、意気込んでいると存外すぐに寝付いてしまった。
シュナの『ちょっとかわってる人』と言うのが引っかかっていたのに。