魔族も複雑
「私はどの種族になりますか?」
気になる。
「そうだね」
と、小首を傾げる。
「魔力がそのまま生命体になる、なんてとても珍しい話だ」
言葉を選ぶ、というか探す様に続ける。
「言わば、精霊族なんかに近いかもね」
シュナも後ろで、音を出さず笑顔で拍手をしてくれている。
不思議と照れる。
「精霊、ですか」
「あえていうなら、だね。君は君でいいと思う。この国では種族にこだわりを持つ人は少ないからね」
区切りがついたのを察してくれたのか、
「あったかいうちに食べなよ」、とご飯を勧めてくれる。
こうしていると、王族と会食しているって感じがしないな。本当に、親しい友人とご飯を食べいるみたい。
まぁそんなことしたことないから想像でしかないけど。
そんな気分になれるだけでも本当にありがたい。
しかし公の食事でもないからだろうが、付き人が少ない。と言うかいない。
魔王様とシュナ、そして私しかいない。
まぁこの辺も文化の違いだろう。
いちいち聞いても仕方ないか、と思っていると、
「オリヴィア、聞きたいことがあったら何でもきいていいんだよ」
ここまでくると魔法で心を読まれてるのかな、と思ってくる。もしくはそんなに顔に出てるのか。
まぁいいか、なんでも聞いちゃおう。
「お言葉に甘えて。人間の王族の食事はもっとかしまってたし、なにより人が多くいました。それに比べて人が少ないな、と思いまして。魔王様に奥様はいないんですか?」
年齢も若そうだし、何より結婚している空気感が無い。先立たれてってパターンは無いだろう、と思い切ってきいてみる。
ところが、魔王様はおろかシュナまで吹き出した。
まぁ結婚だのなんだのっていうのは人間や動物的な価値観だし、もしかしたら魔族には余りない文化なのかな。
感覚が違うのは今更だしな。
「失礼。私は一応〝女〟だよ。よく間違われてね。シュナにも身だしなみに気を配れって、よく叱られるんだ。」
「失礼しました。本当にごめんなさい」
これは失態だ。人間だの魔族だの関係ない。
「いや、いいんだ。舐められまいとわざとこうしてる節もあるし」
「オリヴィア、本当にいいんです。寧ろもっと魔王様に言って差し上げてください」
「ハハ、シュナは手厳しいな」
楽しそうに笑う二人。まるで家族の食卓の様だ。
私の失敗ではあったのだけど、この二人の様に距離が縮まればと、考えてしまう。
もし、許されるならば。
そう考えてるとまた涙が溢れた。
これでは二人にまた気を使わせてしまう。
「オリヴィア、君がどれほど辛い思いをしてきたかは、真に理解することはできない。だがもし、生まれ変わった〝魔精オリヴィア〟と楽しい思いを重ねていけるなら、君がそれを許してくれるなら、そんな未来を望んでいる。もちろんシュナもね」
だめだ。涙が止まらない。
「どうして」
それしか紡げない。
「もし君の過去に罪があったとして、君は既に死によってそれを償った」
「これ以上苦しむ必要はない。魔族は遥か昔、強大な力を持つあまり人間に虐げられてきた。そこには争いもあったしどちらかが悪だとは言わない。〝個〟として強い魔族も〝群れ〟として強い人間に次第に押されていった。故に我々も種族を超えて群れを築き、人間に対抗してきた。その為には多くの血も流れている」
「拭えない過去を持つ者は君だけでは決してない。だがその者達もいまでは食卓を囲んでいる。オリヴィアだけがそうなってはいけない理由なんてないんだ」
肩を揺らして泣く私をシュナがそっと抱きしめてくれる。
私は魔王様の話に何度も頷いた。
「は…い」
やっとの思いで声を出す。
いいのかな。
とても血塗られた私だけど幸せを望んでも。
こんなにも幸せをあたえて貰っても。